売れない絵 2
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「ベル!」
廊下を歩くベルナルトは突然声を掛けられ振り向いた。そこにはエドモンドが薄い笑みを浮かべ立っていた。
「茉莉花の為に絵を描いてくれて、ありがとう」
「どういたしまして。君はあんまり嬉しそうじゃないみたいだけど?」
「茉莉花が喜ぶのならそれでいい。あの不気味な絵は人の目に付きにくい廊下の端にでも飾らせてもらう」
「え! 酷い!! 力作なのに……!」
エドモンドは肩を落とし、それを見たベルナルトは不敵な笑みを浮かべて鼻でエドモンドを笑った。
「まぁ、それはそうと……。大丈夫なの?」
「何がだ?」
「旅行。勿論ボディガード連れて行くんだよね? 万全の体勢なんだろ?」
「いや、少数精鋭で行こうと思っている」
「え!? 俺付いて行こうか!?」
「大丈夫だ。言っただろう? 近年東洋人にも人気の国だと。茉莉花一人くらい連れていても珍しく思われない。むしろぞろぞろと部下を従えている方が目立つ」
エドモンドは眉間に皺を寄せ心配そうにベルナルトを見た。
「本当に大丈夫? ベルは最近温いんじゃない?」
「は?」
「ジャスミンにしたって、もっと警戒心持ってたはずでしょ? そんなんで大丈夫なのかなって……」
「気にし過ぎだ。ただの新婚旅行だ。茉莉花にはいい思い出にしてもらいたい。それになるべく二人で居たい。いつまでも周りを警戒していても仕方ないだろう? シルヴァーニ氏が死んでもうしばらく経つ。あの彼も我々で葬った。もう何も出てこない。誰ももう探りはしないだろう」
「それはどうかな? まだ彼女が居るじゃない」
「彼女は存在していない。戸籍だってないんだ。念の為、嫁ぎ先で流行病に掛かり死んだことになっている。隣人にはそう伝えた。彼女の墓まで丁寧に用意させた。勿論中身も。彼女の存在はもうない」
「……でも、あまり気を抜かない方がいいと思うよ。一応」
ベルナルトは自信有り気にふっと笑った。エドモンドは対照的に心配そうにしていた。
「お前も温くなったな?」
「ジャスミンに対して?」
「ああ。そこまで対象を気にするとは」
「何か、久々に情が湧いちゃった。幸せになって欲しいと思うよ? いい子だし、普通に暮らしていたら、それなりに幸せな人生を送ってたんだろうなって思っちゃう。それなのにこんな事に巻き込まれちゃって、可哀想だ」
「私には幸せに出来ないとでも?」
「どうかな……?」
エドモンドは困ったように笑った。
「ふん。見ているがいい。私の妻になった事、心から嬉しく思う日が来るはずだ」
「だと、いいけどぉ」
エドモンドは呆れた様に首を振っていた。ベルナルトは右手を掲げエドモンドに見せた。
「なに?」
「茉莉花の腕輪。あれがある限り、私は彼女を離す気はない」
「……そう」
エドモンドは口角を上げようやく懸念が晴れた様に陽気に笑った。そのエドモンドを見てベルナルトもふっと笑っていた。




