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鳥籠の生活 1

【2】



 茉莉花の連れて来られた屋敷の周りには何も無かった。その屋敷は山の上に建てられている様で、ベルナルトが言っていた通り、見渡す限りは驚くほど何もない田舎だった。あるのは雄大な自然だけだった。


 茉莉花に与えられた部屋は屋敷の二階の部屋だった。リビング側のテラスに出ればそれなりに周りを見渡せた。だが見渡しても、見渡しても見えるのは木々だけだった。一つだけ目を引いたのは右手側に見える川だ。それ以外は道も見当たらなければ、民家の一つもなかった。屋敷の周りは数キロに渡り大きな塀で囲まれていた。まるで逃げる事は許さないと言いたげだった。


 使用人たちはどうやってここまでやって来たのか、日々の必需品はどうやって提供されているのか謎だった。というよりあまり信じたくなかった。おそらくはベルナルトが金にものを言わせ、空から運んでいるのだろうと茉莉花は思っていた。

 金持ちの考える事は茉莉花には分からなかった。わざわざこんな何もないところに屋敷を立てる必要も、かといって周りの土地を有効活用している訳でもなさそうだし、空気が綺麗だからと、その理由だけでこんな人里離れた不便な場所に別荘であろう屋敷を立てるのは理解できなかった。


 昨晩は心地よいベッドに身を預けぐっすりと眠った。起こしに来た使用人に服を渡された茉莉花は驚いた。触ったこともないような上質な素材の服に目を丸くし、使用人の顔を見た。使用人は困ったように眉を寄せ、お気に召しませんでしたか、と聞いてきた。茉莉花は首を横に振った後、辺りをキョロキョロと見渡した。昨日脱いだはずの自分の服が無かったのだ。

 使用人にこんな良い物受け取れないと断り、自分の服はどうしたのかと尋ねた。返って来た言葉に茉莉花は言葉を失った。


 「旦那様に処分する様にと……」


 使用人は困った顔をしていた。茉莉花は信じられないと言いたげに口をパクパクとしていた。仕方なく使用人に渡された服に腕を通した。シルクで作られた上品な紺色のワンピースは着心地が良く、良過ぎて茉莉花は落ち着かなかった。使用人につけられたネックレスは大きな赤い宝石がキラキラと輝いていた。着けないで欲しいと言うと、旦那様の命令です、とそう返され聞く耳を持ってもらえなかった。


 使用人に案内され昨日と同じ食堂で朝食を出された。昨日とは違い席には茉莉花しかいなかった。ベルナルトはと尋ねると、朝早くに出かけられたと言われ茉莉花はほっと胸を撫で下ろした。正直会いたくなかったのだ。

 朝食を目の前に茉莉花はやはり気分が悪くなった。使用人にオレンジジュースだけ貰い、後はいらないと言った。使用人はまたも困った顔をしていた。


 一人になりたいからといい、茉莉花は部屋の鍵を閉め、カーテンも全て閉ざし引きこもった。薄暗いベッドルームのベッドに横たわり自身の今の状況をもう一度考えた。


 昨日ベルナルトに見せられた契約書には、信じられないほどの額が記されていた。茉莉花には一生お目に掛かれない程の額だった。

 契約書はベルナルトが言っていた通り、借金の肩代わりにシルヴァーニの持つ全てをベルナルトに譲ると言うものだった。そこに記されたシルヴァーニのサインは間違いなく見慣れた父親の筆跡だった。やたら丸っこく不均等に書かれたSから始まる文字は見間違う事など無い父親のそれだった。何度も確認した。もしかしたら偽造かもしれない、誰かが真似て書いたものかもしれない、そうは思っても突きつけられたその字は懐かしささえ感じるものだったのだ。疑いようがなかったのだ。


 ベルナルトは茉莉花が一生かかっても返しきれないような借金を肩代わりしてくれた。その事には感謝している。何か礼が出来るのであればそれに越したことはないと思っていた。だがそれにも限度はある。こんな風に無理矢理何処かも分からないような土地に連れて来られ、軟禁される事が正しいとは到底思えなかったのだ。


 (ベルナルトさんは私を物だと思っている。人を人と思わない人なのかな……。それにどうしてこんな風に閉じ込めるの? 逃げられないような場所に連れて来たの? 私は何のためにここに連れて来られたの……?)


 不安が茉莉花の心を支配しようとしていた。


 (お父さん、あの借金は何なの? ベルナルトさんとはどういう関係? そもそもどうしてあの人はあんな多額の借金を肩代わり何てするの? ベルナルトさんは誰なの? 私はこれからどうなるの? どうして……、どうして、自殺何てしたの……?)


 茉莉花は気づくと涙を流していた。その涙を拭い、目を閉じ思考の世界に入った。



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