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安息の日へ向けて 1

【10】



 「ん……」


 カーテンの隙間から差し込む朝の光に、茉莉花は目を覚ました。横向きになって寝ていた目を開いてほっと息を吐いたのだ。


 (よかった。ベルナルトさんはいない)


 そしてだるい体を起こしあくびをしながら伸びをした。


 ベルナルトが茉莉花と同じ部屋で過ごすと言ってから、ベルナルトは言葉の通り毎日茉莉花と同じ部屋で過ごしていた。ただリビングとベッドルームを繋ぐ薄い扉はいつも閉ざされたままだった。

 毎日ベルナルトはソファに横になり眠っていた。茉莉花とベッドルームで過ごした日は必ず茉莉花が風呂場から出てくる前にベッドを整えリビングへと行っていた。

 それでも茉莉花は気が抜けなかった。もしかしたらと思いながらいつも目覚めるのだ。隣にベルナルトが居るかもしれないと思い目を覚ますことが日常茶飯事になっていた。


 (喉、乾いた……)


 まだ太陽も登ってすぐの時間だった。時計の針は六時前を指していた。


 (ベルナルトさんはまだ寝てるのかな? いつも早起きなイメージがあるけど、昨日は帰ってくるの遅かったみたいだし)


 そーっとベッドを降りて静かにベッドルームとリビングを繋げる扉を開けた茉莉花は、その隙間から見えるソファを覗いた。ベルナルトはまだ眠っているようだった。

 茉莉花は音を立てずに扉を開き、音を立てないように歩いた。リビングに置かれている小さめの冷蔵庫から水を取り出し、ベッドルームに戻ろうとした。冷蔵庫からベッドルームに戻る道すがら何となくソファで眠るベルナルトを見つめ、茉莉花は眉を下げた。


 (寝にくそう……。私にはあのソファでも十分だけど、ベルナルトさんには小さいだろうな)


 ベルナルトが眠るソファは決してソファとしては小さな物ではなかった。座り心地はふかふかとしており、肌触りもいい最高級の品だった。だが所詮は座るために作られた物だ。茉莉花が横になったところで少し狭いベッド程度だ。むしろ茉莉花の今まで住んでいた家のベッドに比べれば寝心地はいいし、それ程幅も変わらない。茉莉花にとって今の大きなベッドで眠るよりは慣れている分リラックスできるものだった。だが大柄なベルナルトが寝ころぶには幅が足りないのだ。寝返りを打つのは大変なほどの幅しかない。それでもベルナルトは毎日そこで毛布を被り眠っている。


 (だから私がソファで寝るって言ったのに)


 茉莉花はそう思いつつ溜め息を吐いた。


 「ん、……茉莉花、か?」


 茉莉花はピクッと肩を震わせベルナルトを見ていた。ベルナルトは掠れた声でそう零すとごそごそと身を捩り起きた。


 「……おはようございます」

 「おはよう」


 挨拶を交わすとベルナルトは首を左右に曲げ、肩を回してストレッチをした。


 「……自分のベッドで寝ればいいじゃないですか」

 「心配してくれるのか?」


 薄く笑ったベルナルトに茉莉花はムッとした顔を向けた。


 「私は寝るときくらい一人になりたいんです! さっさと部屋に戻ってください! いつまで続けるつもりですか?」

 「君があのベッドで私も寝る事を許すまでだ」

 「そんな日は来ません。体、痛めるだけですよ? ベルナルトさんみたいなお金持ちがそんなソファで寝るなんて初めてでしょう? 慣れない事はしない方がいいですよ」


 ぷいっとベルナルトから視線を逸らし、体を反転させ茉莉花はベッドルームに戻った。その後ろ姿を見てベルナルトはクスクスと笑っていた。



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