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大嫌いな鳥籠の中 4

**


 (最低だよ!! 誰が好きになんてなるもんですか!! あんな人大っ嫌い!)


 茉莉花はベルナルトに対し怒りを抱えていた。


 「くしゅん!」


 ずずっと鼻を啜った茉莉花の体はすっかりと冷え切っていた。長時間も冷たい水のシャワーに当たっていたのだ。冷たいシャワーのおかげで、大分頭は冷めた。茉莉花はシャワーを止めた。いつの間にか涙も止まっていた。立ち上がると茉莉花は泣き腫らした目のまま風呂場を後にしたのだ。


 バスタオルで体を拭いた茉莉花は髪を乾かすのが億劫に感じられ、ふかふかのバスローブだけ羽織るとベッドルームにつながる扉を開けた。開けたところで茉莉花は目を見開き、体を震わせた。


 「な、なんで……」


 ベッドに腰掛けて寝間着に身を包み本を読んでいたベルナルトは、ちらりと茉莉花を見ると本を閉じベッドサイドのテーブルに置いた。流れるような優雅な動作でベルナルトはあっという間に茉莉花に近づいた。ベルナルトの髪は少し濡れていて、茉莉花にいつもと違う印象を与えた。


 「長風呂だったな?」


 茉莉花は体が硬直して動けずにいた。小刻みに震える体を必死に落ち着くようにと頭で命令した。だが体は言う事を聞かずに、茉莉花は怯えた様に泣き腫らした目でベルナルトを見ていた。いつもはベルナルトがこんな風に茉莉花の部屋に居る事は無いのだ。用事が済めばベルナルトは自室に戻っていたのだ。それが今、目の前に居るのはどういう事なのか、茉莉花は回らない頭で考えていた。


 「君が出てくるのがあまりにも遅いから、他の部屋のシャワールームを使った。……茉莉花?」


 ベルナルトが手を伸ばし茉莉花に触れようとすると、茉莉花はきつく目を瞑った。ベルナルトの手が茉莉花の頬に触れた瞬間、茉莉花は跳ねるように体をビクつかせて足の力が抜け尻餅を付いて座り込んでしまった。怯えた目で見上げる茉莉花にベルナルトは目を見開きしゃがみこむと視線を合わせた。


 「茉莉花!? 大丈夫か?」

 「や、やだ……」

 「どうしたんだ? それに酷く冷たい。髪も濡れたままじゃないか」

 「どうして、どうしてここに居るの……?」


 茉莉花のガタガタと震える体を支え、起こしたベルナルトは茉莉花をベッドに連れて行った。


 「それよりもどうしてそんなに冷たい? 私は温まって来いと言ったのに……」


 茉莉花の体に毛布を包ませてベルナルトは溜め息を吐いた。茉莉花は目をキュッと瞑り、言葉を発した。


 「おね、お願いだから!! 出てって!!」

 「どうしたんだ?」

 「なんでここに居るの!? もう気は済んだでしょう!? 部屋に……、戻ってよ!」


 茉莉花の目には涙が溜まっていた。ベルナルトが居る事に恐怖を感じていた。ベルナルトは心配そうに茉莉花を見つめていた。


 「私達は夫婦だ。寝食を共にするのは当たり前の事だ。今日からは私もここで眠る。君一人ではこのベッドは大きすぎるだろう?」


 茉莉花は顔を青くさせ首を振った。


 「い、嫌……。嫌!! 貴方がここで寝るなら私は出て行く!」

 「それはダメだ。この部屋には君の物が置いてあるんだから、不便だろう?」

 「なら貴方が出て行ってよ!! お願い! もう、いいでしょう……? もうこれ以上、私を苦しめないで……。貴方のお願い聞いたじゃない。そうよ、私は貴方の物よ。認める。体も、初めても貴方にあげた……。それでいいでしょ? もう、充分でしょう? だから、もう、許してよぉ……」


 茉莉花は顔を覆い泣き出した。ベルナルトは茉莉花の肩を抱くと自身に引き寄せた。


 「嫌っ……」

 「茉莉花……」

 「わた、私、あっちのソファで、寝るから。ベルナルトさんはベッドで寝ればいい……」


 茉莉花はおぼつかない足取りで立ち上がると、リビングに続くドアへと足を向けた。ベルナルトは慌てて立ち上がると、茉莉花の肩を掴んで自身の方へ振り向かせた。


 「君をソファで寝させるわけにはいかない。分かった。私がソファで眠る。君はベッドで寝ろ」

 「そこまで言うなら、自室に行けばいいじゃない」

 「それでは意味がない。君と同じ部屋で過ごすことに意味があるんだ」


 茉莉花は眉を下げ潤んだ瞳でベルナルトを見ていた。ベルナルトは茉莉花の前髪を払うと額にキスを落とした。


 「茉莉花、髪を乾かしてから寝る事。風邪を引いてしまう。……おやすみ」


 そう告げるとベルナルトはリビングへ足を運んだ。茉莉花はベルナルトが出て行った扉を閉めるとベッドに力なく座り込んだ。ベッドサイドに置かれていたペットボトルを掴み、水を一気に飲んだ。その後倒れるようにうつ伏せになると枕を抱え、静かに涙を流したのだった。



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