大嫌いな鳥籠の中 2
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部屋に着くとベルナルトは何も言わないまま奥のベッドルームへと行き、乱雑に茉莉花の手を引っ張りベッドへと投げた。
「もうっ!」
茉莉花が睨みつけるのもお構いなしに、茉莉花の肩をそっと押し倒しベッドに手を付いてベルナルトは茉莉花を見下げた。茉莉花は顔を赤らめながら口をへの字に結んでいた。
(近いよっ……!)
「茉莉花……」
茉莉花の耳元でベルナルトは切なげにそう囁いた。茉莉花はドキッとして目を瞑った。
「私の事がそんなにも嫌いか?」
「ぅっ……」
耳元に掛かる吐息がくすぐったく、ベルナルトの甘い声と息遣いに恥ずかしくなり茉莉花は何も言えずにいた。
「どうなんだ?」
何も言わないでいる茉莉花の答えをベルナルトは待っていた。茉莉花が何も言えずにしばらくそうしているとベルナルトは諦めた様に溜め息を吐き、茉莉花の耳元から顔を離した。茉莉花は赤い顔でもう一度ベルナルトを睨んだ。
「答えはイエスか?」
ベルナルトは少し寂しそうな表情を見せた後すぐに眉間に皺を寄せ茉莉花を見た。
「エドモンドに抱かれでもしたか?」
茉莉花は驚いたように目を見開き、口をパクパクとさせた。顔面に集まる熱を感じながらようやくベルナルトに言葉を発した。
「はぁっ!?」
「そう、なのか……? あいつに好意があるのか?」
「そんな訳ないでしょ!? 何言ってるんですか!」
ジタバタと暴れる茉莉花をあしらいながら、ベルナルトは無表情に茉莉花を睨んでいた。
「……君は自分の立場を分かっていないようだな? 君が誰のモノなのか理解させる必要が有りそうだ」
「私、物じゃない!」
「君は私のモノだ。いい加減認めろ」
「嫌よ! そういうところ大嫌い!! 少なくともエドはそんな事言わなかった! 私の事を物扱いなんてしなかった!」
「チッ!」
ベルナルトが舌打ちをした事に茉莉花はビクつき、ジタバタと動かしていた手足を止めて体を震わせた。ベルナルトは機嫌を損ねたようで茉莉花を睨むと、茉莉花の目と鼻の先に顔を寄せた。
「いいか、君は俺のモノだ。エドモンドでも他の誰のモノでもない。俺の妻なんだ! 俺の言う事に従え! 他の男に愛想を振りまくな! エドモンドと俺を比べるな!! 俺よりもエドモンドを取るな!!」
「な、何をそんなに怒ってるのよ……」
茉莉花はベルナルトが機嫌を損ねた理由が分からなかった。ここまで感情的に怒っているベルナルトを初めて見た。そして目の前に居るベルナルトが怖くなった。ベルナルトは眉間に深く皺を刻み、目は鋭く茉莉花の事を射抜いていた。さながら茉莉花は獣に捕食される一歩手前の様な状態だった。
逃げ出そうにも茉莉花は体が震えて上手く動かせず、その小柄な体格ではベルナルトを押し返すことも出来ない。ただじっと震える体で、それでもベルナルトの事を睨んでいた。
「どうして俺に怯える?」
「怯えてないもん!」
少し目に涙を溜めながら茉莉花は言い返した。
「はっ、どこが。体は震えているようだ」
「やっ……!」
ベルナルトに手首を掴まれた茉莉花はビクッと体を震わせ目をキュッと閉じた。
「この細い腕で俺に刃向うなんて出来ないだろう?」
「痛いっ……!」
ギリギリと茉莉花の手首を力を込めて握ったベルナルトは、その腕をベッドに押し付け口角を上げ笑った。
「ウサギみたいに小さく愛らしい君に何が出来る?」
「やだ、離してよ!」
「茉莉花、お仕置きだ。君が私のモノだと教え込む必要が有るようだ」
口角を上げてニヤリと笑うベルナルトに、茉莉花はゾッと何かが体を駆け巡る感覚がした。
***
「ふっ、う、うぅ……。ぐすっ、なんで、こんな事……」
茉莉花は未だ小刻みに震える体を自身の手できつく抱きしめていた。頭上から降り注ぐ冷たいシャワーを浴びながら地面に座り込み、泣いていた。風呂場には茉莉花のすすり泣く声が反響していた。
「ぐすっ、もう、やだよぉ……」
茉莉花は泣き腫らして赤くなった目を冷たく濡れた手で擦った。どれだけ泣いても涙は渇かなかったのだ。
視界に入った手首を見て茉莉花はまた涙があふれ出した。手首には赤く擦れた跡が残っている。手首だけではなかった。茉莉花の足首にはくっきりと、腹周りには薄らと線を描くように赤い跡が残っていたのだ。




