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肖像画の注文 1

【7】



 「ジャスミン、笑って?」


 エドモンドにそう言われ茉莉花は困ったように眉を下げ、唇を結んだ。


 「あー! ダメダメ! そんな顔しちゃダメでしょ!」

 「ご、ごめんなさい……」


 エドモンドは溜め息を吐いて持っていた筆を降ろした。茉莉花に近づくとその横に腰を下ろした。


 「ジャスミン笑うの苦手?」

 「そんな事は無いですけど……」

 「ベルが君は全然笑わないって悲しんでたよ?」

 「ベルナルトさんが?」

 「そうそう。自分には笑わないって言ってたけど、どうなの?」

 「さ、さぁ……」


 グイッと顔を近づけ覗き込んでくるエドモンドに茉莉花は困ったように目を逸らした。


 茉莉花は今エドモンドの絵の被写体をしているところだった。川を背にして岩に腰掛け、エドモンドに笑うように言われていた。茉莉花は笑っているつもりだったが何度もエドモンドにダメ出しをされていた。


 「折角可愛い顔してるのに勿体ないよ?」


 茉莉花は口をへの字に結びエドモンドを見た。


 「だって、笑うとか、悲しむとか、そういう感情って自然にするものじゃないですか。言われて出来るような物じゃないです」

 「まぁそれもそうだね!」


 エドモンドは茉莉花に笑い掛けると立ち上がった。案外あっさりと引いたエドモンドを、口を開けポカンと見ていると、手を差し出された。茉莉花は反射的にその手を取った。


 「一旦屋敷に戻ろうか? 冷えてない? 大丈夫?」


 茉莉花はエドモンドに優しく問いかけられて立たされた。こくりと頷くとエドモンドは笑顔を見せ画材を片手に持ち歩き出した。


 「ジャスミンはどうしたら笑ってくれる?」


 後ろを振り向きエドモンドは茉莉花に問いかけた。茉莉花はキョトンとしていた。


 「どうしたらって……」

 「もっと親密になったら笑ってくれる? 俺の事まだ警戒してるよね?」

 「警戒って言うか……。エドモンドさんは昨日会ったばかりの人ですし」

 「そのエドモンドさんって言うの止めてみようか! 俺の事、気軽にエドって呼んで?」

 「え、ええ?」

 「ほらエドって言ってごらん?」


 茉莉花は戸惑ったように口を開いた。


 「エ、エド……?」

 「そう! これからは俺の事エドって呼んでね?」

 「分かりました」

 「ダーメ! その敬語も無し!」

 「で、でも……」


 エドモンドは足を止めると茉莉花に振り返り、茉莉花の目の前に立った。茉莉花の頬に手を当てると真剣な眼差しを向けた。


 「ダメ。エドって呼んで、敬語も無し。分かった?」


 茉莉花はエドモンドの真剣な眼差しに顔を赤くしていた。


 「分かった?」


 低く囁かれるエドモンドの声にドキドキと心臓の鼓動を早め、目をキュッと閉じた。


 「わ、分かったから!」


 茉莉花のその言葉を聞いてエドモンドは満足げに笑顔を見せた。茉莉花の頬から手を離すと再び歩き出した。


 「うん、やっぱりその方がいいね! 俺、堅苦しいのとか苦手だから」


 茉莉花は顔を赤くしたまま小走りでエドモンドの横に来ると同じスピードで歩いた。


 「エドはベルナルトさんといつから友達なの?」

 「ベルと? いつだったかなぁ」


 エドモンドは空を見上げて考え出した。


 「ベルナルトさんは昔からあんな人なの?」

 「あんな人?」

 「強引で自分に出来ない事は無いって感じの態度」

 「ぷっ!」


 エドモンドは片手で口を押え吹き出していた。


 「違うの?」

 「あってるよ! ベルって俺様だよねー? 何でも思い通りに行かないと気が済まないんだ。ジャスミンにもそうなの?」


 茉莉花はコクコクと頷いた。


 「嫁にもそんな態度とか! ジャスミン可哀想に」

 「いっつも強引で、私困ってる……」

 「そうなんだ。頑張って。一つだけ良い事教えてあげようか?」

 「何?」


 エドモンドは茉莉花の耳に顔を寄せた。


 「ベルって君の事好きだから、きっと君が可愛くお願いしたら言う事聞いてくれるよ?」


 茉莉花は目を見開き、カァーッと顔を赤くした。


 「そ、そんな事ない! それにそんな事してもベルナルトさんは言う事聞いてくれないもん!」

 「どうかな? 試してみたら?」


 エドモンドは悪戯っぽく笑っていた。


 「ベルは君の事をジャスミンって呼ばないんだね?」

 「え、うん。失礼だからって言ってくれたけど……」

 「俺は君に対して失礼だったかな?」


 エドモンドは眉を下げ申し訳なさそうに茉莉花に微笑んだ。茉莉花は胸の前で手を振り否定した。


 「そ、そんな事ないよ! 私の事、茉莉花って呼ぶ人の方が少なかったもん」

 「じゃあ俺もその数少ない人になろうかな?」

 「いいよ! 別にジャスミンでも」

 「えっと、マリーカ、違うな、マ、リカ、……マ、リ、カ」


 エドモンドの発音は少し違っていた。その事にエドモンド本人も気づいている様で何度も茉莉花の名前を呼ぶ練習をしていた。


 「難しいな。ベルみたいに綺麗に発音できないや……」

 「ジャスミンでいいよ?」

 「うん、ごめんね?」


 エドモンドはまた眉を下げながら困ったように茉莉花に微笑み掛けていた。茉莉花もエドモンドにつられ微笑んでいた。



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