表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/77

ベルナルトの問い 2

**


 「やはり外は空気が澄んでいるな」


 ベルナルトに手を引かれ屋敷の外に茉莉花は連れ出された。吹き通る風は草の匂いが混じっていて清々しかった。久しぶりにちゃんと浴びた太陽の光に茉莉花は目を細めていた。


 「どうだ? 茉莉花。久々の外は?」


 茉莉花はベルナルトの問いに俯き顔を逸らせた。


 「茉莉花、いい加減だんまりは止めろ」

 「……どういうつもりですか?」

 「何がだ?」

 「昨日、無理矢理あんな事しておいて……!」


 茉莉花はベルナルトに振り向きキッと彼を睨んだ。


 「夫婦として当たり前の事をしただけだ。何か問題でもあったか?」

 「問題って……。そもそも勝手に私を妻にするとか、どういう神経してるんですか!? 私の許可も無くどうやって……!?」


 ベルナルトは茉莉花を馬鹿にしたように鼻で笑い、ニヤリと口角を上げた。茉莉花の顎を掴むとゆっくりと顔を近づけ目を合わせた。


 「茉莉花、私にはそれくらい造作もない事なんだよ? それくらい簡単だ。君の許可は求めていない。それに前から君は私のモノなんだから。君は幸運なんだ。私の配偶者になれたのだから喜ぶべきだ」


 茉莉花は空いている手で顎を掴んでいるベルナルトの手を叩き、払った。ベルナルトはそれでも愉快そうに笑みを浮かべて前を向いた。


 「まぁいい。君だっていつまでもそんな態度ではいられないだろう。それに少しくらい反抗的な方が楽しい」


 ベルナルトはクスクスと笑っていた。茉莉花は唇を噛むと地面に視線を落とした。


 (最低……! 最悪!!)


 「茉莉花、どこか見たい場所はあるか?」


 茉莉花はベルナルトを睨みつけ顔を逸らした。ベルナルトは茉莉花の手を引き歩き始めた。茉莉花は悔しそうに顔を歪めると、ベルナルトの後ろを歩いた。


 外の空気はベルナルトの言う通り心地の良い物だった。吹き抜ける優しい風も踏みしめる地面の感触も、屋敷の中とは全く違うものだった。


 (この人と一緒じゃなければ……)


 茉莉花は横目でベルナルトを睨んだ。ベルナルトは楽しそうに少し口角を上げていた。

 屋敷の入り口は綺麗に剪定された木々が並んでいた。しばらく歩くと木々から抜け、広い緑が広がっていた。茉莉花は一目見てそれを緑の絨毯のように感じた。


 (寝転がると気持ちよさそう……。きっと寝転んで見る空は高いんだろうな。雲が流れていくのが綺麗に見えるんだろうな)


 「どうした?」


 草原に見入っているとベルナルトに声を掛けられ茉莉花はハッとした。ベルナルトの顔を見ると嬉しそうに茉莉花に微笑んでいた。


 「……別に」

 「そうか」


 全て見透かされた様なベルナルトの態度に茉莉花は頬を赤くした。いい大人にもなって草原に寝転びたいなどと思った事に恥ずかしくなった。


 依然ベルナルトに手を引かれたまま茉莉花は散歩をした。ベルナルトが川の近くを案内した。川の周辺は木々が生い茂り木陰が出来ていた。茉莉花は興味深そうに川を眺めた。


 (暑い日は涼むのに良さそう。それに足を浸けたらとても気持ち良さそう)


 茉莉花の顔は綻んでいた。

 川の幅はそれなりに広くて、手前に見える水は澄んでいたが途中から所々濃い緑になっていて川の深さを示していた。その場所を避けるように大きな岩が対岸に続いて置かれていた。対岸も木々が生い茂り木陰が出来ていたが、川を挟んで向こう側は高い塀ではなく、最近作られたように見える傷や錆も目立たないフェンスが高くそびえたっていた。空に向かうフェンスの先は内側に反り返っていた。


 「この川は見ての通り所々深くなっている。私でも足は届かない。それにその場所は流れが早くなっている。あの岩々を渡れば向こう岸に行ける。滑るから注意する様に。だから茉莉花、遊ぶ時は充分に気を付けて」

 「なっ!」


 茉莉花はベルナルトを見てまた顔を赤くした。ベルナルトはクスクスと笑っていた。


 「遊びませんよ! 子どもじゃないんだから!」

 「そうか? 遊びたそうな顔をしていた様に見えたが?」

 「っ!」


 ベルナルトは相変わらずクスクスと茉莉花を見て笑っていた。茉莉花は口を尖らせてベルナルトから顔を背けた。背けた先に大きな橋があることに気が付いた。


 「あの橋は?」


 ベルナルトはクスクスと笑うのを止め、茉莉花の手を引いた。


 「ただの橋だ」

 「渡れるんですか?」

 「渡れない。少なくとも君は」

 「……。そこまでして私を閉じ込めたいんですか?」


 茉莉花がベルナルトを見上げると目が合った。ベルナルトは無表情に茉莉花を見ていた。


 「外は危険だから。狼や獣がたまに出る。君はこの塀の中に居れば安全だ。だからおとなしくしていろ。外に出たいなら私が連れて行く」

 「……」

 「どこか行きたいところでもあるのか?」

 「……家に帰りたい」

 「君の家はここだと言っただろう?」


 茉莉花はそれ以上言わずに暗い顔でベルナルトの後ろを歩いた。


 しばらく歩いたところで茉莉花はふと木々の向こうから何か反射しているのに気づいた。足を止めるとベルナルトが訝し気に茉莉花を見た。


 「どうかしたか?」

 「あっち……。何か光っていました」


 茉莉花の指差す方向に目を向けたベルナルトは更に眉間に皺を寄せた。


 「あっちに何かあるんですか?」

 「行きたければ行くといい」


 ベルナルトにそう言われ茉莉花は光の見えた方向に足を向けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ