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俺は勇者故に我は王になる

作者: むぺぺ

なろう会のイベント用に書き上げました。エピソードをいくつか削ったり、至らない点がありますがよろしくお願いします。

「勇者よ、我の前に参れ!」


 ギー、ギー、バッタン…… 重苦しい音と共に王の間への扉が開かれた。


「王よ! お呼びでしょうか?」


 方膝を地につき頭を下げる。これは王が決めた風習みたいなものだ。俺は王の命令により王の城へと招かれた。


「おぉ、主が勇者の一族の最後の生き残りの勇者か! その腰につけた聖剣を唯一扱える戦士と聞いたが…… 本当か?」


 なるほど…… 俺の聖剣の噂を耳にしたのか。そしてそれを確かめるべくこんな俺を呼んだというわけか。どうせ扱えるということも知ってるのだろう…… なら、ここは下手な嘘は後々面倒か……


「はい、 そうです。私がこの聖剣を唯一扱える存在 『勇者』です。見てくださいこの額にできた勇者の証を!」


  そう言って、俺は額にできた傷を王に見せつけた。


  「おぉ、その額の傷…… 間違いない! 勇者の証! 我はこの時を待ちわびたぞ…… つ、遂に魔族の王を滅するときが来たのじゃ!!」


 王は、台座の椅子から立ち上がり高らかに喜びを声にして喜んだ。周りの兵士たちもそれに応じて歓喜の声を上げる。


「勇者よ…… 魔王を倒してきてくれるか?」


  再度、念を押すかのように王は俺に聞いてくる。やりにくい王だ…… わざわざ断りにくい状況を作り、その上更に俺に答えさすか。


「はい、勇者…… 必ずや王の期待に答えて見せます」


  俺は、王に魔族の王を倒すと宣言して城を後にした。


 ギー、ギー、バッタン……


 先程よりも重苦しい音を立てながら門が閉まった。


  「王様…… どういたしましょ?」


「あの傷は間違いなく勇者の証…… くそっ忌々し一族め! あの勇者を隠密に殺せ!! あと一応あの勇者にあいつを動向させろ」


「ハッ! 仰せのままに……」

 

 それぞれの思惑が渦巻くなか、俺の魔王討伐への旅が始まった――


 俺は、勇者…… 名はない。勇者に生まれたからには名は与えられない故に勇者が名だ。勇者とは、必ず人の苦しみの中で生まれ、歴史に名を残す。勇者という存在だけを……


「おらぁぁぁー!!」


  俺は、聖剣を真上から魔族の一団に叩き込んだ。その瞬間バリバリという音ともに衝撃波が発生し魔族の一団を巻き込んで倒していく。


 ギャァーという魔族特有のけたましい声を上げながら塵となって消えていった。これは聖剣の力だ。聖剣は世界の悪のみを切り塵とする。逆にいえば世界の善は切れない。


「相変わらず、すごいわね…… その剣」


  傍らでただの剣で魔族をスパスパと切り刻みなから言われても説得力がないと言うものだ。


「はい…… 完成!」


 という言葉とともに魔族のにじんぎりが完成した。


  魔族討伐の旅に出るときに王からこの女剣士を旅のお供にとつけられた。この女の名はリチャード・アリス・ブランデという。リチャードというのは王の一族に受け継がれている名だ。つまり、この女剣士は王の娘である。


「外は気持ちいいわ! カンカンと照りつける太陽、ほのかに香る草木、そして心までスッとすっきりするような風、パパにしては気の利いたことをしてくれたわ!」


 女剣士は両手を大きく広げて体全体で外を感じている。聞いてみれば、彼女はこれが初めての城の外への外出らしい。年は18で、箱入り前の娘に危険な魔族討伐の共に行かせるなど普通の親としては正気の沙汰とは思えないが理由があるとすれば…… 俺の監視するためであろう。監視役に置く人材には裏切りが起きないために信頼があるものを送り込むのが定石だ。しかし、あの王は他人を信頼するようなたまではない…… ふっ、血の繋がった娘になら信頼が持てるというわけか、案外人間らしいところもあるんだな。


「おい、女剣士そろそろ行くぞ!」


「はーい!」


 女剣士はまるでスキップするようにこちらに向かってきた。あんなに、目を輝かせて…… まるで子供だな。あれで俺と同じ年なんだから驚きだ。


 俺たちは馬にまたがり魔族が住む城に向かうために森林を駆けていった。


「で、次はどこに行くの?」


 女剣士は馬にまたがりながら俺に聞いてきた。さすが、王の娘だけあってボーと城のなかにいたわけではなさそうだ。この木々が生い茂るなかでもスピードを落とさず的確に馬を操ってる。剣術に関しても先ほどの闘いを見る限り、そうとうの腕前なんだろう。


「ここから4キロ東に行くとこの森林を抜けられる。森林を抜けると砂漠地帯があるんだがその場所に商業が盛んな『ギャメロット』という町がある。魔族の城が近づきつつあるからその町でいろいろ補充したいんだ」


「へぇー、なるほどね…… 私も何か買い物してみようかしら?」


「してもいいけど、あまり荷物になるものはやめろよ。旅の邪魔になるだけだから」


「わかってるわよ、それぐらい…… 勇者は私のことバカにしすぎよ! まだ、あなた私のこと名前で呼んでくれたこともないじゃない!!」


 当たり前だと思った。この子には悪いがあの王の娘だと分かった瞬間から、俺は名前など呼ぶ気にはならない。ましてや、俺の監視役だと分かっているやつと慣れ親むことが不自然だ。


「まぁ…… そのうち呼んでやるよ。それより見えたぞ、あれが『ギャメロット』だ」


 砂漠の真ん中に巨大な建造物がゴツンと建っている。魔族を防ぐ大きな壁が町全体を囲み、ゴーンゴーンと機械音が聞こえてくる。乾いた風が煙突からモクモクと出ている煙を煽り、ガソリンの匂いを砂漠地帯に漂わす。


「す、すごいわ…… これが砂漠。本当に何もないじゃない。あるのは砂だけ…… だったらあそこに住む方々はどうやって生活しているんでしょうか? 魚は? 野菜は? どこで獲れるのでしょうか? 勇者、はやくあの場所に行きたいわ! きっと私が知らないことの宝庫よ!!」


 女剣士はまた目を輝かす。その顔を見る度に俺は、あの王の血筋を引いているのか本当に疑問を持つ。それぐらい、彼女の目は勇者の俺から見ても純粋に見えた。


「そう慌てるな、この国に入るには入国手続きがいる。とりあえず、あの門まで馬を走らせるぞ」


 ダッ、ダっ、ダッ、と俺たちは再び馬を走らせた。


「だめだよ! こんな通行許可書がないんじゃ、話にならないね!」


「お願いします…… お願いします! もう私たちには行く場所がどこにもないんです。決して怪しいもんじゃないですや」


 一人の痩せこけたおばちゃんが泥だらけになりながら額を地につけていた。履いている靴ももうボロボロで目も当てられない有り様だ。傍らにはまだ8歳にも満たない小さな女の子がいた。どこを見ているのかただボーと突っ立っている。焦点が合ってるかも分からない。


「勇者、あの人達はどうして入れないの?」


「あぁ…… 女剣士は分からくて当然だろうな。お前には縁のない人達だし、知らなくてもいい人達だ」


 そう言って、俺は女剣士に何も説明しないで検問所へ行こうとした。すると、女剣士が勇者の前に立ちふさがった。


「勇者、待ちなさい! 私に説明して下さい。言ったはずです…… 私をバカにしないで下さいと! 私は世界の今を知りたいのです!!」


「だから、さっきも言った……」


 俺は、彼女の顔を見た瞬間思わず言葉が詰まった。


 ――彼女はなんという目をするんだ…… 確か、この目を俺は 知っ……てる ――


『逃げてよ! 死んじゃうよ!! 』


 小さな時の勇者が前に立つボロボロの男に叫ぶ。

 

 周りには魔物…… 数にして数千……


『すまんな…… 俺は、逃げないよ。 勇者になりこの世界の歴史に名を残すまでは!!』


 そして、魔族に恐れず闘った男は勇者になった。



 ――ふっ、またそんな目をする人間が来るとはな…… この女剣士も何かの決意を秘めているというわけか、やっかいな女剣士だ…… ――


「わかった、わかった…… 教えてやる。あの人たちは、魔族難民だ」


「魔族難民…… 確か、 魔族に住みかを壊され住む所をなくなった人たちのことでしたわね」


  女剣士が頭の引きだしから知識を引っ張ってきた。


「そうだ…… そして今、魔族難民は世界のどこでもたらい回しされてる状態だ」


「え、それじゃ…… あの人たちは……」


 すべてを知って女剣士の顔は蒼白した。それでも知ってもなお彼女は、唇をクッとくいしばった。そして、歩み始めた。


「待て! 今の俺達になにができる!! 」


「だからって、見てろって言うの! ふざけないで…… 私にそんなこと出来るはずがない!!」


 女剣士は俺の制止を振り切り 駆け出した。


 ―― もぅーーーー!!あの世間知らずのバカ娘が!! ――


 俺も女剣士を置いていくには行かないので女剣士を追って駆け出した。


「彼女たちは私の知人よ! 通しなさい!!」


 女剣士は、検問所の男に通行証を突き出した。


「お嬢ちゃん世の中にはルールがあってだな、 知人とかいう曖昧な繋がりでこいつらを通すわけにはいかんのよ……分かったなら帰んな!」


 男は女剣士に唾を飛ばしながら叱責した。当然だ…… 男にも立場というものがある。危険をみすみす町に入れるわけないだろ。


「 あまり使いたくなかったけど……これ」


 と女剣士はポケットから何やら取り出した。検問所の男はそれを見ると顔色を変えて


「これは、失礼しました! さぁさぁ、通って下さい」


 男は先程とうってかわって腰を低くして俺達とともに魔族難民もこの町に通した。


「おい、何をした?」


 俺は女剣士に耳うちをして聞いた。


「ちょっとね…… 」


 女剣士はおどけるような笑顔をしたが、それはすぐに作った笑顔だと分かった。


 ―― なるほど、王の権利を使ったか…… ――


 しかし、先程から女剣士の行動には俺の考えと一致しないことがいくつかある。


「あの…… ありがとうございますや。こんなものしか上げられませんが……」


 先程のおばあちゃんが俺達にお礼を言ってきた。おばあちゃんの手には二枚の金貨が置かれていた。その金額は今の彼女にとって、決して安いものではなかった。


「いえ…… 私はなにも……」


 遠慮して返そうとしている女剣士の肩にそっと手を置いた。


「遠慮するな…… お前がどんな手を使ったが知らないが感謝の気持ちは受け取っとけ。これは、勇者の俺からのアドバイスだ」


 俺は勇者だ…… 何回もこのような場面を見てきた。恩を受け取らず、人を助ける―― それは周りからしてみたらかっこいいかもしれない。しかし、一番大事なのは助けた人の気持ちだ。助けた人が助けてもらった人に最大限の恩を返すとき、もし、その恩を受け取らず去ってしまったらその恩はどこにいくのだろうか? どこにも行かず、恩返しもできなかったという虚無感にかられて生きていくしかないだろ。それでは人を助けたとは言えない。人を助けることは自己満足ではない。相手と自分の恩が繋がって人を助けるということになるのだ―― だからこそ、俺は女剣士に受けとれと言った。

 

 女剣士は黙って頷き、おばあちゃんの手から金貨を一枚だけ取った。


「もう一枚は、そこの女の子ために使って下さい」


「は、はい…… ありがとうございます。では、私たちはこれで失礼します」


 おばちゃんと小さな女の子はフラフラとした足取りで人込みへと消えていった。おばちゃんは、数歩歩く度に何回も俺達にお辞儀をした。その姿を見ると何とも言えない気持ちになる。小さな女の子は一度だけ俺達に手を振った。その女の子のバイバイは多分…… もう、二度と見れないだろ……。


「女剣士、これで満足か?」


「あなたと言った通りね…… 私は無力だった。結局、あの女の子は一度も笑わなかったわ。あの人達はこれからどうなると思う?」


 俺に女剣士は希望を求めるかのように聞いてきた。きっと世間を知らない女剣士でも、あの人達の未来が見えたのだろう。口先だけでも希望のある言葉を聞いて現実から逃げたかったんだろう。それは、俺も否定はできなかった。


「あの人達次第だろうな…… でも、女剣士が行った行動は、きっとあの人達の運命を変えたよ。お前が助けなければ、あの人達は路頭に迷った挙句砂漠の真ん中で天国を向かえていたさ」


 女剣士が俺の顔をじっと見ている……


「なんだよ?」


「勇者が私を慰めてくれるなんて珍しいわね」


 女剣士は本当に驚いたのか、目をパチクリとしていた。


「う、うるさい…… さっさと今日の宿を探しに行くぞ!」


 女剣士に改めて言われると、顔から火がでるほど恥ずかしかった。俺は自分の頬が赤くなっているのを気づかせないため、女剣士を置いてさっさと歩き出した。


「あれぇ~ もしかして照れてるの……勇者? 頬が赤いわよ! ふふふっ、かわいいとこあるのね。初めてあなたの心を覗いた気がするわ」


 ―― 監察者に自分の弱味をみられるなんて一生の不覚!――


 俺の背中に女剣士の嬉しげな声が聞こえてくる。俺は、その声を振り切るかのように街の中心街へと歩みを早めた。


「あ、勇者ちょっと待ってよ! お供を置いていくなんて勇者失格よ!!」


 女剣士もすぐに勇者の背中を目で確認しながら後を追った。俺と女剣士がギャメロットで夜を迎えようとするころ王の城では不穏な気配が漂い始めていた。部屋は王の間。


『今…… あいつらはどこにいる?』


『はっ、 姫に持たせたレーダーを見るとギャメロットにいると思われます 』


『…… 例の部隊は?』

 

『もう、ギャメロットに侵入させております』


『成功の報告を待っとるぞ!』


『はっ、必ずや成功させます。王のために!!』


 シュっという音ともに王の前から姿を消す謎の黒づくめ。


『これで、我が道を邪魔する奴はいなくなる。最後にあいつの苦しみに歪んだら顔を見られないのは、おしいなぁ…… あの顔は最高じゃったのぅ』


 ふっ、ガハッ、ガハッ、ハッ、ハッ、ハッ、王の間に響き渡る悪魔の笑い声。悪魔の笑い声は、俺たちのすぐそこまで迫っていた。


「ねぇ、 勇者これなに?」


 女剣士がお皿に溢れんばかりにもられた料理に指をさす。


「何って…… この土地特産のサソリの唐揚げだけど?」


 それを聞いた瞬間、女剣士の顔がぞっと青ざめた。


「そ、それ……食べられるの?」


 女剣士の指が小刻みに震えている。


「女剣士は食べたことないのか? 硬い殻のパリッとした食感と中の身は鳥のささみみたいな味がしておいしいぞ」


 そう言ってサソリの尻尾をつまみ上げバギボキとかみ砕き食べる。俺の姿を青ざめた表情で見つめる女剣士。


「ヒィッ、私やっぱりそれいらないわ。また今度の機会にしとく。ここの空気も悪くなってきたみたいだし……」


 女剣士が最後の言葉だけ、妙に重苦しく言った。すると、周りの客がピクッと少し反応する。


「どうやら俺達は相当な人気者らしいからな。周りからの視線がビクビクと感じる」


 俺は周辺に神経を尖らせる。一人一人の行動、脈の音、臭い、すべてを感じとる。敵は10はいるな…… 王の手先のものか? あるいは魔族。どちらにしろ俺達が狙われているのは確実…… 後、注意するのはこの女剣士に対する敵の反応だ。監察者であれば攻撃はされず、俺だけ狙われる。場所を特定されたのも話がつく。もし、攻撃されれば白か……


 どちらも相手の出方を伺っているのかなかなか動かない。殺気だけが高まり、ここ周辺が殺伐とした空気に包み込まれる。

 

長い沈黙が続く――

 

 ビュッ! 痺れを切らしたのか敵から数本の針が俺達の視角をついてなげこまれる。それにいち早く気づいた女剣士が鞘から剣を抜き、見事な剣さばきで全て打ち落とす。


 やっぱり、こいつ相当な剣士だな…… 一瞬で針の全軌道を読み、的確に切り落とすとは…… こんなの相当な実践をつまないと無理だぞ!

 

 続けざまに四方八方から針が飛んで来る。俺達はすぐに机を飛び越え盾にして後ろに隠れた。机に針が何本も突き刺さる。


「あいつら、何者なんだ!」


「私が知るわけないでしょ! 勇者、上!!」


 俺が頭上を見上げると二人の黒づくめが剣を振り上げていた。俺は咄嗟に聖剣を手に取り


「おぉらぁぁああーー!!」


 聖剣を横一線に振り切った。

 ズバァァン!!

 という斬撃とともに黒づくめ達が吹っ飛んでいく。


「さすが、勇者!」


 横で女剣士が歓喜の声を上げているが俺は斬った瞬間、妙な感覚を覚える。妙な感覚は斬った黒ずくめにすぐ現れた。


「おいおい、魔族以上のバケモノかよ!」


 聖剣によって斬られた黒ずくめの体を見ると、グニャグニャと液体状になり人間の体の原型を留めていなかった。


「あいつら、何者なの!?」


 女剣士も驚きの声をあげる。液体状のものが徐々に人間の体に戻っていく。ヌハァーという人間でも魔族でもない声とともに再び元の形に戻った。


「どうやら、こいつらは不死身らしいな…… 」


  俺はまだ自分でもこの状況は理解できていない。聖剣で斬れるのは世界の悪のみ、つまりこの世界の場合は魔族のはずなんだが……こいつらはなんだ? 斬れるのは斬れるが、塵にならない――ということは人間? いやそれはおかしい! そもそも人間なら斬ることもできない…… この世界で何が起こっているんだ!!

 

「不死身って…… じゃ、私達どうするのよ!」


 俺の言葉に女剣士は不安をあらわにする。

 敵はおそらく全員このバケモノだろうな…… いくら俺達でもこの状況は危険過ぎか――


「女剣士、ここは退くぞ」


「あいつらはどうするのよ! ほっといたら他の人達が狙われるかもしれないじゃない!!」


「それは大丈夫だ。あいつらの目的は俺達だ…… まぁ、お前まで狙われるとは思わなかったけどな」


 俺の言葉を聞いて女剣士は少し顔を曇らせた。


 ――やはり、この女剣士は何か隠してるな…… まぁでもどうやらとりあえず、信用はしてるよ女剣士――


「よし、俺の合図で飛び出せ。1、2、3…… 今だ!!」


 俺と女剣士は一気に飛び出した。敵は俺たちに向けて再び何本もの針を飛ばしてきた。俺たちは針の雨をかいくぐり窓を破って外へと飛び出した。俺達の後を追いかけるように黒づくめも飛び出してくる。


「勇者、どこに向かうの!」


「このまま、馬に乗って魔族の城まで一気に攻め込む! 早く魔王を倒さないと嫌な予感がする!!」


 俺達は、馬に再びまたがり『ギャメロット』を後にした。


 ダッ、ダッ、ダッ、馬が力強く地を蹴る度にはやくなっていく俺の心臓の鼓動…… 馬の足音が俺の不安を煽ってるように聞こえてしまう。


 次第に、周りの空気が重くなりだし息が詰まりかける。周りにはかつて青々しく生えていた草木が力なく褐色してしまっている。魔族の城が近づいている証拠だ。俺たちはいくつもの不安を心にまとって魔王の城へと到着した。


 ギー、ギー、バッタン…… 


 重苦しい音ともに大きな魔王の間に繋がる門が開かれた。門が開かれるとともに緊張感が増していく。俺は鼓動が早くなる心臓を押さえつけるように心臓のあたりをギュッと握った。そして女剣士と目を合わせる。強い視線から女剣士の強い意志が俺に帰ってきた。なぜか俺はその視線を見ると落ち着いた。ここまでの旅で何回も死闘を戦い抜けてきた二人の間には、いつのまにか信頼関係が築かれていた。


「おう…… 勇者よ。我に何かようか?」


 王の間の玉座に深く腰を落とし、低い声で俺たちにズンと重くのしかかるような殺気を放ってくる。


「わざわざ聞いてんじゃねーよ! 勇者がここに来たということはどういうことか分かってんだろ魔族の王よ!!」


 俺は自分を奮いたたせるため声を張り上げる。城中に俺の声が反響していく。


「そうだったな…… どれ、勇者の最後の生き残りの力、存分に我に見せて見ろ」


 魔族の王はそう言って玉座から立ち上がり、勇者と向き合った。俺も鞘から聖剣を抜く。


「ほう、聖剣も使えるのか…… おもしろい」


 魔族の王は聖剣を見ても眉をピクリとも動かさず、静かに勇者へと構えた。魔族の王の手には何の武器も見当たらない。


「気を付けて、勇者…… 何かが妙だわ」


 女剣士も魔族の王の妙な行動に異変を感じる。


「あぁ、わかってる」


 俺は聖剣を手に魔族の王に斬りかかった。魔族の王が腕を振り上げ俺に攻撃してきた。俺はその攻撃を足のステップを変え避ける。そして左足を力強く踏み込み、魔族の王の顔の付近まで跳躍する。


「終わりだ! 魔族の王!!」


 上から聖剣を斬り込んだ。真っ二つに割れる魔族の王の体そして王討伐―― のはずだった…… グニョとした感覚が剣の先から伝わってきた。


――まさか、この感覚は! ――

 

俺はすぐに真っ二つになった魔王から距離をとる。俺の異変に気づき女剣士が俺に駆け寄ってきた。


「どうしたの、勇者!」


「どうやら、この世界は相当おかしくなっちまったらしい」


「えっ、それってどういう…… う、嘘でしょ」


 女剣士は魔族の王の斬られた姿を見て驚愕する。魔族の王の体は聖剣が斬られた部分がグニョグニョと液体化して真っ二つなった体を再び繋ぎ合わせようとしていた。徐々に魔王の体が元に戻りヌハァーという声と、ともに再び復活した。


「フッ、ハハハハハ!! 最高じゃ、この力は!!」


 魔族の王が声を高らかに上げ勇者の前に立ちはだかった。


「このバケモノが!!」


「まあ、そう蔑んだ目をするな勇者…… お前の近くにもいるだろうがバケモノが」


 そういって魔王はスッと腕を上げて女剣士を指さした。


「ち、違う! 私は、私は…… ガハァッ」


 突然飛んできた一つの剣が女剣士の体をを背後から突き刺した。口から血を吐き出し、その場で倒れ込む女剣士。俺は倒れかけた女剣士を抱きかかえ剣が飛んできた方向をキッと睨む。俺はその瞬間、頭が真っ白になった。


「遅かったな、人間の王よ!」


「すまんな、魔王よ! しばし道草してての」


 人間の王の背後には先ほどの黒づくめがズラッと並んでいる。


「な、なんでお前がいるんだぁぁあああ!!」


 俺の心からは怒りしか出てこなかった。人間の王が魔族の王の城に来るなんて聞いたことがない。ましてや親密な関係などあってはならないはずなのに…… この王は!!


「なんだ、まだ生きていたのか勇者。またお前の顔いやその額の傷が見れて嬉しいぞ」


 法悦の笑顔を浮かべる人間の王。


「お、お前は自分の娘もそうやって笑って殺すのか!!」


「何を、勘違いしている勇者よ。そんなバケモノが我の娘であるわけではないだろ、見て見ろそのバケモノの姿を!」


 俺は王に言われるがまま倒れている女剣士を再び見た。


「…… ない」


 女剣士の体には先程貫いた剣の傷がどこにもなかった。俺は驚きのあまり息をするのを一瞬忘れた。


「…… ん」


 剣が突き刺さったまま女剣士はスクッと立ち上がった。立ち上がった女剣士の顔には涙がスッと流れていた。


「ごめんね、ごめんね…… 勇者。私、バケモノなんだ……」


 女剣士の目からは止めなく涙があふれる。女剣士は袖の服で涙拭いでいるが止まることはない。


「ハハハ、その顔だよ勇者! 我はその顔を見たくてここまで来たのじゃ!!」


 人間の王が腹を抱えて更に笑い出した。


 ダッ!


 俺は怒りのまま人間の王に斬りかかった。聖剣に自分の血がにじむほど握りしめて―― しかし、俺の覚悟はこの世界においてちっぽけな存在だった。ガギンという音ともにはじかれる聖剣、正しくは俺が聖剣に弾かれた。


「無理じゃよ、その剣じゃ我は斬れん。なぜならこの世界において我が善だからじゃ!!」


 それでも俺は何度も斬りかかった。斬れないのは分かっている。無駄な努力なのは分かっている。けれど俺は斬るのを止めなかった。俺がこの世界を認めないから……


「見苦しいぞ、勇者!!」


「グハッ!」


 王の拳を腹にもろにくらい地に転がり苦しむ。聖剣もその衝撃で自分の手から離れた。決意を固めて握っていた聖剣だったがたった一つの拳でその決意は砕かれた。


「勇者!」


 女剣士が俺の傍まで駆け寄ってきた。そして俺を守るかのように王たちの前に立ちはだかった。


「なんだ、バケモノ? その無力な勇者を守るのか?」


「バケモノよ、旅の中で情でも沸いたのか? これは傑作じゃ!」


『ガッ、ハハハハハハハハ』


 二人の王の愛もなき笑いが城全体に響き渡る。


「だ、だまりなさい!」


 女剣士が大声を張り上げた。


「勇者はこんな私に自然を教えてくれた、人との繋がりを教えてくれた、世界を教えてくれた。そしてなにより、勇者はあなたがたよりも世界をなんとかしようとしていた! 自分たちの私利私欲のために世界を利用するあなたがたが勇者を馬鹿にする資格なんてない!!」


 女剣士は王たちに言い放った。今の言葉は勇者に向けての感謝の言葉にも聞こえた。


「その私利私欲の塊がそなたじゃろうがバケモノよ! お前の存在は世界からも外れた存在…… そんなバケモノが世界を語るではない!!」


 人間の王と魔族の王の容赦がない攻撃が女剣士に襲いかかる。


「…… うぐっ」


 女剣士はまともに攻撃を受け、何回もボロボロになりながらも再生を繰り返して俺を守り続けた。その姿に俺はボロボロになりながら俺を守ってくれた過去の勇者の姿が重なる。


 ――やっばり、あの目は本物だったな…… ――


 俺は新たな一歩を踏み出すために立ち上がった。


「ハァ、ハァ、よかったなバケモノ。お前だけの勇者が目を覚ましたぞ」


 王たちは連続の攻撃に息を切らしたのか女剣士に続けていた攻撃をやめた。


「ゆ、勇者、大丈夫?」


 女剣士は俺を心配しつつも俺と顔を合わせなかった…… 合わせてくれなかった。俺は何も言わず、女剣士の背中に刺さっていた剣を針に糸を通すよりも繊細にそして母親が我が子を抱くようにやさしく抜いた。


「痛かったか? アリス」


「ど、どうして私の名前を呼んでくれたの勇者?」


 女剣士は驚きか喜びか分からないが俺と顔を合わせてくれた、目を合わせてくれた。


「それは俺がお前の世界に行くからだ」


「えっ?」


 俺はアリスの腰に手を添えて引き寄せた。そしてじっとアリスの顔を見つめる。世界が俺を存在を拒絶するなら、目の前の大切な人を守れないのなら俺は…… そっと女剣士の唇に自分の唇を合わせる。


「……ん」


 ゴクッ 


 俺の喉に新たな世界が流れ込む。俺の血液が体全体に新たな力を運ぶ。確かに感じる…… アリスのぬくもり。ただの剣に、俺は新たな力を流し込んだ。ただの剣が俺の力に応じて新たな世界の善を導く聖剣へと変化する。


「俺が新たな世界の王になる!!」


 新たな聖剣を俺は世界の悪に斬り込んだ。


「そ、そんなバカな…… わ、我らが新たな世界の善のはずだったのに!!」


 聖剣は見事に悪を塵へと返した。


 それから数年後、世界は勇者とい名のもと長い歴史を刻んだという。勇者という名はきっと他の世界でも名を刻むだろう。



――勇者とは、必ず人の苦しみの中で生まれ勇者という名だけを歴史に残す…… ――





みなさんの作品を楽しみにしてます。辛口評価よければお願いします

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― 新着の感想 ―
[良い点] ・文章に勢いがあり、主人公である勇者の気持ちが伝わってきます。 ・勇者の対比となるように王の娘のどこか抜けた感じが良い味を出している思いました。 ・勇者が魔族の王を討つ。王道的な物語の展開…
2015/11/15 00:52 退会済み
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