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偽りだらけの、この世界で。  作者: 成瀬トモノリ
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世界は誕生したそのときから常に表裏一体であり、一方が欠ければ、その世界のバランスは乱れるだろう。しかし、どちらかがもう一方よりも強大となり、世界を包み込もうとしたとき、君たちはどちらの世界を選ぶだろうか...


『ピロリロリン♪ピロリロリン♪』


新庄ヶ丘高校二年 霧崎きりさき 真也しんやの一日はこの軽快な携帯のアラーム音から始まる。

枕元にある携帯をどうにか顔の前まで引き下げ、半分開いている目で画面を見てスヌーズをクリックする。


ねむい。


俺はまだ完全に起きていない身体をゆっくりと起こし、う〜んと一度大きく伸びをした。

「さて、支度するかぁ。」

ベッドから脚を下ろし、昨日の体育教員による猛烈な指導のせいでこびり付いた筋肉痛をジワジワと実感しながらそっと立つ。

少し冷たい感覚が足の裏全体に染み渡る。

これがまた、心地いい。


フラッ


「!?」

急にめまいが俺を襲い、危うく倒れそうになった。

「おかしい・・・俺、疲れてんのかな?」

と同時に、隣の部屋(妹:あかねの部屋)からもドスッと何かが落ちる音がした。

「またあいつ、朝早くから馬鹿みたいなことしてるんじゃないだろうな。」

早朝であったせいか、特に気にするわけでもなかった。

ふわふわの食パンを口にねじ込みながら登校。



午前の長ったるい授業を、時折襲ってくる睡魔と戦いながらどうにか終えてようやく迎えた昼休み。

程よく日差しが照りつける中、学校の屋上にて俺はゴロンと仰向けになる。

今日も特に変わったところはない、はずだが・・・。


何かが妙だ。


俺はこの日の朝から(正確には、めまいがしたその時から)なぜだか、ちょっとした"違和感"を感じていた。

まるで、朝起きた時から別の世界に入り込んだような、そんな違和感である。

それが何なのか考察するのはさておいて、特に何かすることもなく暇を持て余していた俺は、遠い昔の、曖昧な記憶という沈殿物を掘り起こしてみることにした。

昔から様々な物事をよく客観視していた俺は歳を考えさせないほど美人だった婆ちゃんによく言い聞かせられていたことがある。

「この世界には、表の世界と裏の世界があるんだ。表の世界で生きる私たちは裏の世界の存在を感じることはほとんどない。だからと言って表の世界ばかりを見ていてもダメだ。」

みたいなことだ。

ここでいう"表の世界ばかりを見ていてはダメ"というのは、表の世界に"囚われるな"ということなのだろう。

この年頃になってようやくその言葉の意味を理解できたのだから、当時まだ小学生だった俺には婆ちゃんの言ってることが分からなかったのも無理はなかった。

現実における裏側(ここでは個々の性格のこと)というのならまだしも、裏の世界という存在自体がほんとにあると信じられるわけでもないため、今でもまだ理解していて理解できてない状態であると言っていいだろう。

やはり、無理して考える必要は無い。

これは、この十七年という短い人生の中で得た数少ない経験論のうちの一つである。

そんなことをあれこれ思い出しているうちに俺の瞼がだんだんと重みを増してきた。

「やべぇ、やっぱ疲れてるのかな・・・」

目の前にうっすらと霧がかかっていく。



「・・ちゃん・・兄ちゃん・・ねえ、兄ちゃんってば!」

「・・ん?」

俺を呼ぶ声と、それに同期した揺さぶりに起こされてうっすらと目を開ける。

と、目の前に、鼻。

「うわっ!」

「うわって何よ!人の顔見て驚くのやめてくれない?」

「顔じゃねえよ!!」

明らかに無理がある。

いくら何でも、顔を鼻がくっつくぐらい近づけられたら誰だって驚くはずだ。

「す、すまん。俺、寝てたのか?」

「知らないふりしてんじゃないわよ。」

キツイ言葉がぶっ刺さる。

半分正解。

「すっごく気持ちよさそうに寝てたわ。もう少しで期末考査だってのに、ほんと兄ちゃんは呑気ね。」

「呑気で悪かったな。・・って、今何時だ?」

「もう、一時半。とっくにチャイム鳴ってるわよ。私が妹で且つかわいいから起こしに来てあげたの!感謝してよねっ!」

妹が起こしに来るのは決まって昼休みだ。

朝はあいつ自身が相当忙しいのでとてもそんな時間はない。

これから先もおそらくこんな感じだ。

「はいはい、分かったよ。ありがとな茜。」

「わ、分かったならとっとと行くよ。先生またキレてるから。」

「おいおい、マジかよ。まだ五回目だぞ。」

「もう五回目じゃない。怒られて反省しろっ!」

とまあこんな感じで俺たち兄妹は至って普通(?)な学校生活を送っている。



そう、 "アレ"に出会うまでは普通だったのだ。




その日の帰り道、いつもより早めのホームルームを終えた俺は妹を校門前にて待っていた。

「ケーキ買いたいからついて来いって、小学生かよ。」

平日の昼頃であるためか、車は2〜3台ほどしか走っておらず、人通りも少ない。

そのため、学校と住宅街を挟んだ道路は東西百m先までほぼクリアな状態である。

時折見かける小学生がチラチラとこちらに視線を向ける。

ふと、俺の目の前をゆっくりと通る人影から視線を感じた。


いやまて、いつ現れた!?

確か、俺がここに立ってから人なんて一人も見えなかったはず・・・。

その存在に気付くと同時に、そいつから言葉が放たれた。


「ー君に本物の覚悟はあるかい?ー」


俺はそいつが歩いて行くのを直視はともかく、目の端で捉えることすら、できなかった。

一瞬、まるで蛇に絡まれたような不気味な感覚に襲われてゾッとしたからだ。

実に例え難い。

人のいないこの場であるからこそ、それが俺に向けられた言葉であるのは疑いようのない事実だ。


覚悟?覚悟ってなんの覚悟だ?

正直俺は混乱していた。

通り過ぎた人影よりも、その言葉の方が気になっていた。

それが今後のなにかを暗示しているようでならなかったからだ。

そいつに関して覚えていたのは黒のベレー帽に同じく黒のコート姿。

そして、あの言葉ー


それから間もなくして、お疲れ気味の妹が昇降口からスタスタと降りてきた。

「兄ちゃん、さっきの人誰?」

どうやら茜もそいつを見たらしい。

「さあな。俺も知らない。」

「ふーん、まあいいや。

とっとと帰るわよ。」

「はいはい。」


あいつは一体何なんだろうか...

帰宅の途に着く頃には既にあの謎の人影を、その忠告らしき言葉と共に忘れ去っていた。



その日俺たち兄妹は真っ赤に染まる紅葉街道を通って帰宅していた。

この時期になると、その枝枝が伸び重なって一つのトンネルを形成する。葉々は1円玉ほどの隙間しか残さないほど重なり合っていたが、その隙間から射す光は赤々としたトンネルの輝きをさらに増幅させていた。

それがまた、美しいのである。

小学校時代から今までずっと、この紅葉街道を通って登下校していたので、街道の風景はほとんどが見慣れたものであった。

家々の配置も昔とほとんど変わっていない。

「とうとう高校生にまでなっても、この風景にお世話になるとはなぁ。こうなっちまうと、昔がほんと懐かしく感じれるな。」

「今更なんでしみじみと語ってんの?

キモいよ。」

「なんでお前にそこまで言われなきゃならないんだよ!」

「当然、キモいから。」

妹に即答され、肩を落とす。

どうせキモいよ、俺は。


妹となんだかんだで話をしているとき、俺はまたもや朝や昼感じたものを感じた。

「な、なんだ・・・!?」

茜もおそらく俺と同じようなものを感じ取ったらしく、表情が一変していた。

緊張しているかのような、そんな表情だ。

俺達二人は揃って歩みを止めた。

吹いた風が地の木の葉たちを掻き上げる。


俺達が歩みを止めたちょうど真正面に、一つの奇妙な扉のようなものがあった。

いや、"突然現れた"という方がここは正しいのかもしれない。

扉のようなものは全体的に緑青色で、様々な紋様が施されていた。

とてもこの時代のものではないことは少し見ただけでもすぐにわかる、そんな感じだ。

「こんな目立つものさっき気づいたんだけど・・兄ちゃんは・・・気づいてた?」

「いや、さっき気づいた。

それこそ、こんなとこにあったら邪魔だろ、普通。」

そこで、俺が感じ取ったこと、それは・・・。


ー 空気が重いー


そう、 まるで異質(?)なモノたちが俺達の周りを徘徊しているような、朝、家で感じた違和感に近いものを俺は感じ取っていた。

茜も今悟ったようで、表情が一気に強ばった。

今の様子だと、こいつもおそらく同じことを思っているんだろう。


「ねぇ・・なんか・・へ、変な感じが・・す・・る・・」


ドサッ。


と突然、茜が倒れた。

急だった。

「おい、茜、どうしたんだ!」

茜を揺さぶってみたが起きる気配はない。

次第にでてきた焦りを落ち着かせ、ひとまず茜を自宅まで運んだ。


自宅では顔を真っ青にした母さんが玄関で突っ立っていた。

俺が事前に連絡していたためである。

「茜!

・・・真也、茜は大丈夫なの?」

「ただ気を失ってるだけかもな。」

「今すぐ病院に連れて行くわ。」

「たのむ。」

こうして、茜は病院に運ばれた。

幸い、やはり気を失っているだけだと担当の医師から告げられた。

ホッと息をつく。


茜の病室から退出すると、ひとまず考えてみる。

なぜ茜は突然気を失ってしまったのか。

そして、あの扉は一体なんなのか。

ひとまず俺はあの扉のある場所へ行ってみることにした・・・。

しかし、いや、やはりといったところか、あの扉は既になかった。

扉があったはずの場所では何も感じなかった。

「なんだよ、一体何が起きてんだ?」

ひとまず一旦家に戻ろう。

そう思ったとき、全身を白いコートで覆ったスカイブルーのフレームの眼鏡を掛けた一人の男がやってきた。

身長はざっと百八十cmはあるだろうか、羨ましいくらいの長身だ。

「君、探し物をしているみたいだね?相談に乗ってやらんでもないのだが。」

初対面の人に対して少々上から目線が過ぎるんじゃないか、この人・・・。

これが俺の、その男の性格に対する第一印象。

「あぁ、すまない。失礼をしたね。」

当然の様にいきなり謝るその男。

まるで、俺の思っていたことをズバリ当てるかの如く。

「あんた、俺の考えてることが分かるのか?」

「はっきりと分かるわけではないが、ざっとなら理解することは可能だ。僕は普段は探偵をやっていてね。

つまり、職業柄だ。」

・・・なるほど。



探偵と名乗るその男は 相田あいだ 雅和まさかずというらしい。

俺と相田はとある喫茶店にて話し始めた。

「さっきのあんたの問いなんだが、あんたは俺の探し物が何か分かるのか?」

「ああ。それが何なのかはだいたい知っている。

いや、僕もその件について関わっているんだ。」

"関わっているをとは妙な言い方をするもんだと思った。

「君が探しているのは、突然現れた"奇妙な扉"についての情報、だろ?」

「!?・・あ、ああ。」

思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

そうくるとはほんの少し考えてはいたが、やはり実際にこられると驚きを隠せない。


レモンティーが静かに運ばれてきた。


「では、その"扉"について少し話してあげよう。このことは他言無用で頼みたい。」

そう言って相田は眼鏡を外して真剣な表情で語り始めた。

「僕は失礼ながら、君たち霧崎兄妹の様子をある人に依頼されて観察していた。」

「はぁ⁉︎」と心の中で思いっきり叫んだ。

まさかとは思うが、プライベートまで見られてないよな?

「心配はいらない。観察していたのは登下校の間のみだ。」

「ならいいんだが(いやよくないけど)、一体誰からそんなことを依頼されたんだ?」

相田はさらに真剣な顔になった。

「あなた方の祖母にあたる方、つまり 霧崎きりさき 和枝かずえ氏からだ。」

婆ちゃんから・・・。

俺は驚きのあまり、それから少しの間、口を開くことができずにいた。なぜなら、祖母はもういないはずだから。

レモンティーを一口含んで。

「婆ちゃんは、まだ、い、生きてるのか?」

俺のその問いに対する相田の答えは『No』だった。

「そりゃあそうだ。婆ちゃんが生きてるわけねぇよな。」

俺が覚えている婆ちゃんとの記憶は、"あの日"以来パッタリと途絶えている。

そう、あの日、婆ちゃんは俺を庇って何者かにさらわれたんだ。

先の見えない、真っ暗な闇の中に。

俺は婆ちゃんを誰よりも慕っていたため、しばらくは立ち直れなかった・・・。


ふと、頬に水滴が垂れた。


「使うといい。」

相田がそっと俺にハンカチを差し伸べてきた。

そっか、俺泣いてたのか・・・。

その紺色の柔らかなハンカチでそっと涙を拭う。

「すまん、すこし涙脆いんだ。」

「気にしないでくれ。」

少しの間俺は落ち着きを取り戻すため、さらにもう一口、レモンティーを含む。


俺が落ち着いたところを見計らって相田は話を再開する。

「では扉について話をする。数ヶ月前に突然現れたあれは僕の所属する組織では"怪扉(かいひ)"と呼ばれている化け物だ。」

「化け物?」

あいつは活動するということなら、さっきあの場にいなかったのも合点がいく。

いや、それ以外に考えられない。

「あぁ。僕達の組織は今ある理由でその怪扉の行方を追っている。怪扉はある特定の人間たちにのみ見ることのできる存在なんだ。」

「ある特定の人たち?」

「ここでいう特定の人たちとは、つまり、常人よりも多い"魔力"を宿している者たちのことだ。」

「魔力?」

「魔力、身近な言葉だと生命力といったところかな。」

うん、それでもよく分からない。

当然というべきか、俺は信じることが出来ずにいた。

小さい頃に婆ちゃんから言われていた、"表と裏の世界"のこともそうだ。

本当にそんなものが存在しているなんてな。

「そこで、君にお願いがある。既に、怪扉と関わってしまっている以上、もう怪扉から逃げることは出来ない。やつは一度関わりを持ったやつを執念深く追い続ける。一度目は何もしないことが多いが、それ以降見逃すことはない。やつは魔力をもつ人間を喰らう。破壊のためのエネルギーにするために・・・。」

「何を破壊するためだ?」


「世界だ。破壊し、再構築するために。」


再・構・築。


とても理解できなかった。

世界を壊すということは、無論人類も滅びるということになるのだろう。

話がもう現実味を帯びてない。

「怪扉は世界を再構築、つまりリセットするための魔力を蓄積させるために、一定量の魔力をもつ人間を喰らっているんだ。」

「人を、喰うのか・・?」

「正確には、喰われた者の存在が消失するということだがな。」

つい昨日までの俺なら全く信じずに相手にしていなかっただろう。

だが今の俺はなぜか信じる気になっていた。

朝から感じる違和感が何か、未だに分かる感じがしない。

だからこそかもしれないが、この相田という者が話している怪扉とやらを信じることで、何か掴める気がしたのだ。

「つまり、その怪扉と戦えってことか?」

「その通りだ。怪扉と戦うためには、魔力の行使が必要不可欠となる。君たち兄妹からは何故かは分からないが近日、かなりの魔力を感じた。一瞬だったが、それには僕自身とても驚いた。そのせいで、怪扉と関わってしまったと言って良いくらいだ。そして、君の魔力は今も少しづつだが増加している。恐らく、妹さんも・・・」

となると・・・。

「今後、怪扉とやらと接触する可能性が上がってくるってことだな?」

「その通りだ。もし、君たちが協力してくれるなら、世界を救う力になるはずだ。」

俺は、きっと人生で一番大きな壁にぶち当たっているのだろう。

こんなことに巻き込まれるのは、やはり俺が悪運を持っているからなんだろうな。

付き合いきれない運命だよ、ほんと。

世界を救う?そんなこと、俺なんかにできるのか?


俺には昔から心に決めていたことがある。

何が起きても、せめて大事な人の一人や二人は守る。

これはおそらく当時見ていたアニメの影響だろう。

そして、婆ちゃん曰く、

「お前はきっとどんなことに巻き込まれても大丈夫。自分を信じな。」


この二つが、俺の背中を強く押した。


少し温くなったレモンティーを飲み終える。


「分かった、俺はやるよ。ただ、妹にはこのことに関わってもらいたくない。」

「了解した。体調が元に戻るまで、組織の人間に護衛につかせる。このことに関する情報もすべてシャットアウトさせる。」

「そういうことなら、礼を言うよ。思ったんだけど、俺もそのあんたのいる組織に入ることになるのか?」

「それは君の自由だ。どちらにしても敵と闘う訓練は僕が指導するつもりだ。」

「分かった。少し考えさせてもらいたいんだが。」

「あぁ。考えがまとまったら、その時はいつでも言ってくれ。」

そうして、俺たちは喫茶店を後にした。



こうして、俺は"怪扉"と戦うこととなる。

どうも、成瀬トモノリです。

第0章としていたつもりが、長文となり、書いていたときに自分でもわかるぐらい内容が読み取りづらいものとなってしまったと思うのですが、今後の展開に期待していただけると幸いです。

どうぞよろしくお願いします!

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