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擬似温度 × ***

擬似温度 × ぬいぐるみ

作者: 奈々月 郁

目が、覚めた。


ぼんやりとただ瞼を上げているだけで、頭はまったく働いていない、そんな目覚め。

腕の中にいるくすぐったい感触に、微かな安堵を感じて抱き締めなおし、もう一度目を閉じる。


小さな頃から抱きしめ続けてきて、もう毛色もくすんでしまった茶ウサギのぬいぐるみ。


この子がいないと、なんとなく寝つきが悪い。

枕が変わると眠れない、なんてよく聞くけれど、私の「枕」はこの子だ。

さすがに大人の私がぬいぐるみを持って歩くのは恥ずかしくて、そのせいで旅行先ではいつもなかなか寝入るのに時間がかかる。


人並みに恋愛もしてきたから、眠る時、誰かの腕の中にいたことがないわけじゃない。

でも、眠れなかった。

「彼」の、「彼ら」の温かさは、嘘だ。

嘘と言うのが違うなら、夢と言ってもいい。幻でも、影とでも。


出会いは、別れの始まり。「彼ら」はこの子みたいに、私とずっとは一緒にいてくれない。

初めから温かな体温を持つ「彼ら」は、いつか冷たい空気だけを残して去っていってしまう。


だったら。

部屋に帰ってきてすぐは冷たくても、一緒にいれば温かいこの子のほうが、ずっとずっといい。


この子のぬくもりは、私の熱を分けたもの。だから、絶対に裏切られない。置いていかれない。




寂しくないよね。

だって、それは別れなくていいってことでしょう?




寝返りをうちながら体を丸めると、長い耳が顎をくすぐった。

そのまま顔を埋めるように俯くと、ほのかに頬を温めるぬくもり。


ずっと一緒。もう誰とも別れたくないから、出会いたくない。

一緒に眠るのは、キミだけでいいんだ。


抱きしめている安堵感が体中を覆い尽くすと、まだ早すぎる朝の中、あっという間に眠りの世界へ落ちていった。




~Fin~

ねむねむ……奈々月 郁です。

擬似温度シリーズ、今回はぬいぐるみです。

ぬいぐるみに限らず、抱き枕とか、なにかをだっこしている感じって、不思議と安心しませんか?

本能的なものなんでしょうか……。

この主人公はひじょ~うに後ろ向きですが、いつかどこかで、失うことを恐れても、それでも一緒にいたいと思える人に出会うのかも、なんてその後を想像しながら書いていました。

短編はワンシーンを見せるだけなので、想像するとちょっと楽しいです。


それでは、おやすみなさいませ……。

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