棋士、赤い光に包まれる
<投了します>
<神屋さんの勝利です>
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<竜さんが退出しました>
「ふん、雑魚が。」
コンピュータを睨めつけながら男はぽつりとつぶやいた。
男はオンラインで対戦できる将棋ゲームをやっていた。
「棒銀の守り方がなってないだろ。俺に勝てないとか、オンラインでは強いだろうが屁でもないな。」
そう言いながら男は暗い部屋でずっと将棋をやっていたことに気づき椅子から、立ち上がり伸びをしながらカーテンを開ける。
「なんだもう朝になるのか・・・んじゃもう寝るか。」
男は開けたカーテンをすぐにシャッと閉めると、ベッドにダイブする。
「はぁ、俺こんなんでいいのかな・・・」
ベッドに寝そべり天井に張られているある棋士の写真を眺めながら誰に言うでもなく声にだす。
「いや考えるのやめよう。明日考えりゃいいか・・・ん、今日か。・・・どうでもいいや寝よ」
ベッドに入るなり、寝息をたて始めた男の名は志水信也。22歳。ニート歴2年。オンライン将棋ランクA。オンライン上ではそこそこ強いが、プロにはなれなかった中途半端な男である。将棋のプロになるために奨励会にぎりぎりまで挑み続けたが、結局20歳になるまでに入れなかった。自分でも途中で才能がないと気づいていたが、夢を追っている自分が好きだったし将棋がとにかく好きだった。しかし20歳になってからは覇気をなくし、将棋しかやってこなかった彼は大学にも通っておらず、親のすねをかじり続けている。
そんな彼を天井に張られた棋士の目が見つめ続けていた。
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「んー、どこだったかな。」
彼は夕方に起きると、自分の部屋の押入れの奥底に押し込んだ将棋盤と駒を探していた。
「一旦将棋から離れるために思いっきり本気で爺さんと戦おう。そんで勝っても負けても将棋から離れよう。ま、一度も勝ったことねーけど。だが、見つからないな・・・お、これか!」
彼は、押入れの奥から古ぼけた将棋盤と駒箱を取り出した。
「いやーしかし古いな。これ使ったのいつ以来だっけ。」
どんっと、彼は部屋の中心に将棋盤と駒箱を置く。そして彼も将棋盤の前に胡坐をかいて座り、駒を並べ始める。
「本物の駒を触るのも二年ぶりか」
そう言いながらも、彼は淡々と駒を並べていく。
「ふぅ、これで完成だ。さて、爺さんでも呼びに・・・ん?」
天井から視線を感じ、見上げると写真に写っていた棋士の目が赤く光り志水を照らしていた。
「ーーーーー」
彼は驚いたのか、声を出せずにその目から視点を逸らせられなかった。
と同時に、彼を中心に胡坐をかいた足元から魔法陣のようなものが広がり光輝いていく。
「な、なんだよこれ!意味が―――」
彼の声は最後まで発せられることなく消え、彼の身体も消えていた。