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其の三

非常にゆっくりと進んでおります。お付き合いいただけるとありがたいです。

みるみるうちに水面が近付き、視界が広がるとともに新鮮な空気が肺に飛び込んでくる。

岸に手をつき、荒ぶった息を整えていると、先ほどの声がまたかかる。

「水蛇様、どうなされたのです?」

目を上げると、そこには皺だらけの顔を苔むした甲羅から突き出した亀がいた。

「何?俺?」

突然のことに驚いていると、亀はまた口を開いた。

「あなたが、新たなる水蛇様であらせられるのでしょう?」

亀はかしこまった口調で静かにそう述べると、言葉を切った。

「先代の水蛇様は操水や変化の術のみならず呪術にも通じられ、太古の昔に自らに永遠の呪いをおかけになったのです。」

「永遠の……呪い?」

「左様で御座います。水蛇を直接的に倒した者が次なる水蛇となる呪いで御座います。自分は長らく先代にお仕えしておりました故、あの場面も陰から見ておりましたが、先代は重要な部分において真実を隠しておられました。」

驚くクオーレを置いてけぼりにするかのように、見た目からは想像もできないくらいの早口でまくし立てる亀は、漸くここで口を閉ざした。

「嘘を……吐いていたと、言うのか?」

「先代はあなたの村へ死にに行くつもりはなかった。あなたになりかわり、村の直接支配を目論んでいた。」

亀の口から発せられる嗄れた声は、はっきりとクオーレの耳に届き、それは瞬時に更なる驚愕へと変容した。それを更に突き放すかのように亀は続ける。

「先代は人間を常々下賤な存在と考えておりましたので、直接支配を行うことで集団内闘争を引き起こし、集落の滅亡を謀ろうとしておりました。この村を手始めに、隣村へ、またその隣村へと。」

「なぜ、」

クオーレが口を挟むと、亀は目を丸くして首を伸ばした。

「なぜ、そこまで人間のことを?」

話は当の水蛇から聞いてはいたが、そこまで憎むとは相当な理由があったのにちがいない。

「おや、お聞きになっていたはずでしょう。先代はその身に多くの傷を人間の手によって受けられたのです。憎むのも当然の話では御座いませんか。」

だとすると、相当な仕打ちを受けたのだろう。よく生きていられたものだ。

「私とて百数十しか生きながらえておりませぬ故、数百年間のお命であった先代のすべてを存じ上げるわけではありませぬ。すべて先代からの伝聞でしかございません。正確なことは、今となっては誰も知り得ぬのであります。」


沈黙を破ったのは、一匹のトカゲだった。

そいつは梢から音もなく落ちてくると、短い叫び声と同時に着地し失神した。

「またコンテですか。困ったものです。」

「コンテ?このトカゲがか。」

気を失ってのびている黄色いトカゲをつまみ上げる。

「左様でございます。盗み聞きされていたとは都合が悪いですが、何せ彼は情報に精通しておりますので……」

「なるほどな。」

トカゲの尻尾を持つと千切れるので腹あたりをつまんでゆっくりと振ってみる。

トカゲの目がゆっくりと開くと、目が合った。

しばしの沈黙のあと、突然トカゲは暴れだした。

「ごめんなさいごめんなさい悪いことはしてないんです許してください食べないでくださいごめんなさいごめんなさい」

「コンテよ」

亀が呼びかけると、哀れトカゲは体を硬直させ、コマ送りのような動きで後ろを振り向いた。

「ア、アプローズ様……」

この亀はアプローズと言うのか。

「違うのです。私は情報収集に来たのではないのです。ご報告に参ったら話し中でしたので待っていたのです!」

「そうか。その報告と言うのは何なのだ?」

亀改めアプローズが低い声で聞く。

「人間の集団が森へと入ってきました!」


「なぁテリオス、クオーレは見つかったか?」

「全然。足跡ひとつ見つからない。マテリアんちの犬も匂いわかってないみたいだし。」

「だからウチのハローはもう老犬だから無理って言ったでしょう?」

「仕方ないよ姉貴、ハローが村の最後の犬なんだから。」

クオーレと特に親しかったシリオン、テリオス、マテリア、クーを先頭に、名乗りを挙げた村民たちはクオーレの捜索に山へと入ってきたのだった。

「ボクは永遠にクオーレに適わないと思うよ。」

シリオンがぼやく。

「アンタ、クオーレが死んだみたいな言い方止めてよ。ミラの大切な人なのよ?」

怒ったようにマテリアが反論する。

「死んだとは言ってないさ。同い年で命を賭ける選択をできる奴は本当に尊敬するよ。口先ばっかの誰かさんとは違ってな。」

「誰が口先ばかりですって……あれ?」

マテリアが何かに気づいたように立ち止まる。

「どうしたんだ?」

テリオスの問いかけにマテリアは指を指して答えた。

「あれ、水蛇の歩いた跡じゃない?」

人外の仲間たちが増えていきます。

コンテ(トカゲ):ムーヴの追加車種。トヨタにピクシススペースの名前で供給されている

アプローズ(亀):過去に生産していたリアウィンドウからハッチが開くという特殊なボディ形状を持つ3ボックスセダン。火災事故さえなければ…

ハロー(犬):過去に生産していた3輪バイク。50㏄モデルとEV仕様が存在した。

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