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其の一

前置き長いです。切ること想定してなかったので中途半端かもしれませんがお許しを。

春の終わりからしとしとと降り続いた雨は降り止むことなく、むしろその強さを強め降り続いていた。

雨はいつしか川へ流れ込み、吹きすさぶ風とともにその水面を少しずつ堤防の縁へと近づけていった。


「この雨はな、水蛇が怒っているのじゃ。」

集会所の隅で、喜寿を超えたという長老が村の子供たちに話をしている。

集会所には村の人間が集まり、身を寄せ合っている。

「水蛇は水を司る妖怪の一種でな、たまにこうして我々に罰をお与えになる。変化の妖術を操ることができるという言い伝えじゃ。」

「どうしたら水蛇は鎮まるのですか?」

「水蛇は数年に一度お怒りになられるが、いつもはお酒をお供えしておる。じゃが……。」

言いよどむ長老に、集会所の大人も振り返る。子供たちが異様な雰囲気を察知したのか周囲を見回した。

「言い伝えには数百年に一度、水蛇が大いにお怒りになって里に下りてくるときがあるというのだ。そのとき、雨のみならず風や洪水までもを巻き起こし、村を壊滅に近い状態へと追い込んだのだ。今年の雨は、それに近い。」

「村が、なくなってしまうのですか?」

子供の言葉に、村人全員が押し黙り、顔を見合わせる。

当時のことを知っているのは長老だけだ。それも伝え聞いた話でしかない。だからこそ、村民全員が長老の言葉に耳を傾け、さきほどまでの雑音は遠くに消え去った。

「これは儂としてはあまりやりたくはないのだが、その昔は生贄を立てたという。」

集会所にどよめきが広がる。もともと人の少ない村だから、人が減ることは死活問題となる。数少ない女性も、大切な労働力のひとつだ。

「しかし……、女子はこの村では本当にわずかしか……」

子供の母親が声を上げる。しかし、長老はそれを遮るように続けた。

「いや、水蛇は雌だから、贄代は若い男が行かねばならぬ。」

空間が水を打ったような静寂に包まれる。


「俺、やります。」

そんな中、若い声が響く。場にいる全員が男の方を向いた。

「クオーレ……!?」

周囲の人間が驚きの声をあげる。

クオーレは今年で18になる若者だ。体つきは細く力はそれほどでもないが、頭が切れるので色々な指南役として一定の評価を得ている。

「俺が行く。運が良ければ還ってこれるはずさ。勝算はある。」

青年は落ち着いた声でそう断言した。周囲は彼の淀みない発言とそれに関わるリスクの高さに、彼の顔を見つめることしかできなかった。

「本当に、いいのか?」

長老が静かに尋ねると、クオーレは大きく頷いた。

「任せてください。」

かすかな泣き声が聞こえた。クオーレの母親、アイラの声だった。

そしてもう一人、クオーレの想い人であったミラも静かに啜り泣いていた。

「皆の気持ちは儂も同じじゃ。だが、こうするほかにどうすることもできん。クオーレの出発は明日じゃ。アイラ、ミラ、クオーレについておやりなさい。皆は宴の準備を。それから……そうじゃな、テリオス、シリオン、マテリアとクーは手伝ってほしいことがある。こっちへ来なさい。」


宴は太陽が沈む刻を過ぎても続いた。村人は久し振りの宴ではあったが、楽しげなものは誰もいなかった。クオーレは終始口数少なく、酒も殆ど飲むことはなかった。

全員が眠りについたのを確認すると、長老がクオーレに近付いてきた。

「クオーレよ、本当にいいのか?」

「いいんです。さっきも言ったでしょう?勝算があると。」

「では、村人すべての代表として、長老アルティスがクオーレにお願い申し上げる。」

「確かに受け取ります。」

「出発は夜明け前じゃ。誰も起きぬうちに村を立つほうがよいじゃろう。時が来たら儂が起こそう。ゆっくりと体を休めるといい。」


宵の明星が光るころに、水蛇は水面の星を食らわんと雲を晴らすという。

言い伝え通り、さきほどまでの雨は止み、雲さえも空から消え、一面に星が広がっていた。

クオーレと長老は集会所の前に無言で並んでいた。クオーレはテリオス達が用意した白装束を着、腰にリーザの家で作った酒の入った瓢箪と杯をぶら下げていた。

「では、長老様、いって参ります。」

クオーレは長老に向き直ると、深く頭を下げた。

長老は無言で礼を返すと、クオーレの手を再びしっかりと握りしめた。

「帰って、くるのじゃぞ。」

長老の目には涙が浮かんでいた。クオーレは後ろ髪を引かれる思いを断ち切るかのように、くるりと振り向いて早足で進んだ。


「クオーレ」

木陰から呼ぶ声がする。懐かしい声。思わず立ち止まり、呼び返す。

「ミラ……なのか?」

変化の術を操る水蛇にだまされているのかもしれないという怖れから、振り向かず答える。食べられに来たというのに。

「まだ森の外よ。ホント、大事なときに間が抜けているんだから。」

昨日一晩を共に過ごしたというのにもう懐かしく感じるその声の方向を振り向くと、確かにそこには自分の愛する人がいた。

「あなたに……渡したいものがあるの。」

そう言うとミラは首に手を回し、いつも肌身はなさず身につけていたネックレスを外し、クオーレへと近付いた。

「これを私だと思って、絶対に帰ってきてね。帰ってきたら、返してよね。」

抱きつく形になってミラはクオーレの首にネックレスを掛けた。

「あぁ、絶対に帰ってきて返すよ。約束する。」

クオーレはミラをそのまま抱き締めると、手を振って別れた。蛇なぞに簡単に喰われてたまるものか、と気を引き締めなおして。

登場人物がのっけから多いので名付けるのに苦労しました。

結局すべてダイハツの車名から取っています。

クオーレ:日本ではミラの前に販売されていた軽乗用車。現在はミラの輸出仕様に使われている。

ミラ:ダイハツ軽乗用車のベーシック的存在。

アイラ:昨年トヨタと共同開発した新興国向け小型車。

テリオス:過去に販売されていた小型SUV。

シリオン:小型乗用車ブーンの輸出仕様。

マテリア:小型乗用車クーの輸出仕様。

クー:トヨタbBのダイハツ版。生産はダイハツが担当。

アルティス:ダイハツがトヨタ カムリの供給を受けて販売すフラッグシップセダン。ダイハツ唯一の3ナンバー車。

リーザ:過去に販売していた軽乗用車。カブリオレ仕様も存在した。

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