episode3
「昨日の戦闘。魔法に頼るだけの危なげな戦いだった。もっと近接格闘術を身に着けてもらわないと……」
「わかってる」
「ほんとかニャ〜……」
気温もまだそんなに高くなっていない夏の朝。一人と一匹が学校へ向けて歩いていた。
クロが背中のカバンからほんの少しだけ顔を覗かせていた。
昨日の戦闘。サキは自身の魔法の力によってその勝利を収めた。
「でも、あの力なしだったら私避けられる自信ないわよ」
「そんなに堂々と言われても困るんだけど……」
サキが有する時の魔法でサキは時の流れをコントロールすることができる。
件の戦闘においては、自身の周りの時の流れを遅くすることによって、敵の動きを捉えることができた。
いわば動画における倍速を下げるような感じだ。
だからサキにとってはあのナイフを避けた、というよりは当たるわけがなかったという表現の方が的確だった。
「使うなとは言わないけど、あんまり使うと老けるよ」
「えっ……?」
サキは驚きの一言を発し、切れ長の目が少しだけ見開いた。
「時の魔法の力の源は時間。だから使うとすぐオバチャンになるのニャ」
「それ……ホント?」
真実を確かめるべく、ゆっくりと問いかける。
「嘘ニャ」
「……」
サキはまたもとの無愛想な表情に戻り、無言のまま歩いていく。
「……驚かせてゴメン。でも、時魔法の中には自分自身の時間を大量に消費して発動する魔法も存在するニャ。サキが使ってる魔法は低級魔法の部類だからそんなに気にする事はないのニャ」
「……ちょっとは老けるのね」
「気になるほどじゃないニャ」
「でも……他の人より歳をとるのよね」
「ほんのちょっとね」
「…………」
しばしの沈黙。
「もう戦いたくないとか言わない……よね?」
「今度から、時魔法はクロが使ってくれると嬉しい」
「それはダメ」
「けち」
「けち。じゃないのニャ。サキはどんどん魔法を使って、高位な魔法も使える特訓をする必要がある。だから……」
「めんどくさい」
サキは心の底から思っていたことをそのまま発した。
「オレも時魔法は使えないことはないけど、歳食いの老いぼれ猫ニャ。だからこそ、将来性のあるサキに……」
「そろそろ学校に着くから、ここから先は普通の猫になっててね?」
言い方こそは優しかったが、それはもう喋るなという威圧的なニュアンスを含んでいた……。
「にゃお〜ん♪」
クロは普段の言動からは想像もつかないほどの愛らしい鳴き声で応じると、カバンの中に潜り込んでいった。
「おはよう、早紀」
後ろからショートカットの快活な少女が走ってきて、早紀に声をかけた。
「おはよう」
それにサキも返す。もうすぐ目の前に校門があった。
二人(と一匹)は並んで一緒に入っていく。