episode2
家に着く頃にはすでに夜も遅くなっていた。
「クロ、鍵とって」
クロはサキの言葉に従い、ひょっこり出していた頭をカバンの中に潜り込ませてもぞもぞし始めた。
しばらくして口に鍵を加えて、再びカバンから頭だけ姿を現した。
「まったく……、オレはサキのペットでもなければ、下僕でもないんだけど」
サキはその鍵を受け取り、アパートの一室を開ける。305号室。3階だ。
ドアを開き、足を一歩踏み入れてから、
「ここからは母さんか、私か、私のペット以外は立ち入り禁止よ」
「……オレはサキのペットだにゃ〜ん」
「……ちょっと気持ち悪い」
「言わせないで……」
中に入ってまずは電気を付ける。
それからコンビニで買ってきた夕飯の入った袋とカバンをゆっくりと降ろす。クロはすぐさまカバンから飛び出て、手足を伸ばして床にごろりと転がった。
「ご飯出すからちょっと待ってて」
サキの父は幼い頃に他界し、それからずっと母と二人暮しをしていた。
母は仕事で帰ってくるのが遅いのは日常茶飯事だった。夕飯も一人で済ませることの方が多い。
「クロ、ご飯だよ」
キッチンの方から戻ってきたサキがご飯を持ってきてクロに差し出した。
「毎度お馴染みキャットフード」
ぽつりと一言。
「嫌なら食べなくてもいいわよ」
「……頂きます」
サキもテーブルの前に座って、テレビを付けた後、食事をし始める。
今日の夕食はコンビニ弁当と野菜ジュース。野菜ジュースは栄養不足を補うつもりで買ったが、全然不足していることだろう。
朝は時間があれば母さんが作ってくれる。しかし、昼と夜は自分で用意しなければならないから、自分で作るという選択肢を除くとどこかで買ってくるしかなくなる。
「やっぱり料理できるようにならなくちゃいけないかな」
「いいお嫁さんになるには、料理は必須科目ニャ」
「いいお嫁さんねぇ……」
と言いつつ、コンビニ弁当の蓋を開けて、まずはから揚げを食べる。今日の弁当はから揚げ弁当。から揚げもご飯もたっぷり。ボリューム満点だ。
「なんでそんな他人事みたいに言ってるのニャ!? いつかはサキもお嫁さんになるんだよ?」
「イメージ湧かないんだけど……。逆にいい旦那さんの条件てなんなのかしら」
「紳士的で、決断力があって、頼りがいがある。――まさにオレのことだニャ」
「……」
「なんでそこで黙っちゃうの!?」
「次のニュースです」
ここで会話を遮ったのはニュース番組だった。
少女誘拐事件。最近、頻繁に少女が誘拐される事件が発生していた。
「この犯人、今日のあいつだと思う?」
「どうだろうね、あくまであれはあの公園の噂だったし、これは場所を問わず夜に出没するって話みたいだし……」
「警察に突出しておいた方がよかったかしら、その方がはっきりしたのに」
と残念そうに口を尖らせて言う。
「それはダメニャ。あれは魔物の仕業だから、あの男には罪はないよ」
「でもクロ、前に言ってたじゃない。魔物に取りつかれるってことは少なからずそういう感情を持ち合わせているってことだって」
「普段はそれを理性でちゃんと抑えてる。でもそれが何かの拍子で増幅してしまって、不安定なところを魔物に付けいれられる。……まあ、運が悪かったってことだね」
「魔物がそうさせたのだとしても、そういう気持ちが少しはあるってことでしょ? やっぱり男って気持ち悪いわ……」
サキは嫌悪感を示して言った。
「そんなこと言ったら男はみんな変質者になっちゃうのニャ……」