episode1
夏の夜のことである。
その公園では最近変質者がでるという噂があった。
というのにも関わらず、この案件で被害に遭う人間というのは、大概自分は大丈夫というような根拠のない根拠を有している場合が多い。
そして例に漏れず今日も変質者はいた。それはやはり男だった。
視線の先には女子高生がいた。白い肌に、凛々しいという表現の似合う目と眉。小さい口を一文字に閉じている。
長い髪を頭の後ろの高いところで結っている。いわゆるポニーテールだ。本来提げて使うような学校指定のバッグを背負って歩いていた。
「おい、そこの女。死にたくなかったら服を脱ぎな」
品の欠片もない言葉。まさにこいつこそ一流の変質者だ。
「……」
少女は黙ったままピタリと足を止めた。
「ナイフ突きつけられてビビっちゃったぁ? 分かってるとは思うけど選択肢は一つしかないよねぇ?」
少女は表情一つ動かさず凛とした表情でその男を見据えていた。
と、ここで少女が背負っていたカバンから黒い猫がひょっこりと顔を出すと、
「サキ、アイツ魔物に取り憑かれてる」
流暢な日本語を使ってサキという名の少女に助言する。
「……分かってる。クロ、魔物殺しの剣を」
「はいよ」
クロと呼ばれた猫が目を閉じて念じると、サキの右手に突如として魔物殺しの剣が具現化した。
剣というよりは小剣にあたるもので、とても小振りなものだった。といっても人を殺めるのには十分で、ただの女子高校生が持ってていいような代物ではないことは確かだった。
サキは特に構えをとったりはせず、前方の男の出方に注目している。
「へぇ、俺を殺る気なんだ? そういう気が強い女も嫌いじゃないよーっ!」
その狂った青年は言い終えると同時に走り出し、間合いを詰めてきた。
「懐ががら空きなんだよぉ!」
青年はナイフを胸にめがけて一直線に突きつける。当たるはずだった。……が、肉に突き刺さる感触が得られず、
「……?」
周囲を見渡した。先ほどまで目の前に棒立ちでいたあの少女はいなくなっていた。
「後ろよ」
「なん……だと? 馬鹿にしやがってェ!!」
またしてもその青年は愚直なまでにまっすぐ襲い掛かってくる。
「戦闘パターンは見えた。決着をつける」
サキは真っ向からくるナイフを掠めるようにひらりとかわし、先ほどの魔物殺しの剣で、青年の身体を貫いた。が、血飛沫が辺りに撒き散るというようなことはなく、代わりにおぞましい化け物の姿をした物体が青年の身体から飛び出てきて、苦しみながら煙のごとく消滅する。
戦いを終えると自然と剣は消失していった。
「ふぅ……」
サキは深く呼吸をして落ち着かせた。
「おつかれ、サキ」
黒い猫がサキの後ろから声をかけた。
「ありがと……。この能力使うとホント疲れる……」
「時魔法か? 時空を捻じ曲げる力だから使う魔力は大きいのニャ。今日はもう帰って寝た方がいいのニャ」
「……そうね」
うつぶせに倒れて気絶している男。ポツリと光を放つ電燈。ようやく夜は静寂に戻ったらしい。
「これで少しは平和になったのかな」
「どうだろ。……?」
クロは突然周囲を見渡す。
「どうかした?」
「いや、……気のせいだったかな。帰ろう」
「うん」
凛々しい表情の彼女も、今は少しだけ顔が穏やかになっているようだった。
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その場合は早い段階で修正します。