彩子さんと俺2
俺は家に帰る道すがら、猿渡が言った言葉を思い出していた。
「あそこでルミ子は恋人と抱き合っていたんだよ」
充、俺、殺人者なんだろうか?
頭の中で充に問い続けるが、充からは何の返事も帰ってこない。充に見放されてしまったのかもしれない。充の母親を殺した俺を怨んでいるのかもしれない。俺はそんなことを考えながら、自宅のマンションにたどり着いた。
マンションを見上げる。俺の家には明かりが点いていた。彩子さんだ! 俺は心が弾んだ。急いでエレベーターに乗り込み、エレベーターが開くと飛び降りた。一呼吸おいて玄関のドアを開けた。
「ただいま、彩子さん今日は早かったんだ」
「お帰り。今日は休みだったのよ! 午前中で仕事を終わらせて帰って来たの」
「夕飯、食べた?」
「あっ、昼も食べるの忘れていたわ」
「やっぱりな。俺、チャーハン作るね」
彩子さんが俺の方を向いて笑顔になった。
「拓也、いつもありがとうね」
「なんだよ、急に」
俺は彩子さんの言葉に照れていた。俺はやっぱり彩子さんのいい息子で居続けたい。こんな俺がルミ子を殺すはずがないんだ。俺はそうに思いながら、チャーハンを作り始めた。俺は手早くサラダとスープまで作ると、彩子さんをダイニングに呼んだ。彩子さんは、頬張りながら笑顔になった。彩子さんは、最近はほとんど料理を作らない。嫌いではないらしいが、惣菜を買ってきてしまった方がおいしいし楽だと言う。
「拓也、料理の腕上げたわね。最近、私が作るよりおいしい」
「やっぱり、惣菜を買ってくるより家で作った方がおいしいだろ? 彩子さんが家にいる時ぐらいは俺作るよ。どうせ出張先では外食ばかりなんだろ?」
「そうね。外食しかしないわね。でも、最近一緒に仕事をしている地元の人の奥さんに、たまにお呼ばれするのよ。おいしい手料理いただいているわ。でも、拓也の作ってくれるチャーハンの方がおいしいわね! そうだ、そこのお子さんが今、高校2年生なのよ。奥さんに、私がこんなに家を空けている仕事をしているのに、拓也が良い大学に入ったのはどういう秘訣があるのかって聞かれたわ!」
「なんて答えたの?」
「うちの子は優秀だから! なんて答えたかったけど謙遜して、たまたまですって答えておいたわ」
俺は一生、彩子さんの優秀な息子でいたかった。そして、彩子さんがやりたい仕事を集中してできることに何よりも喜びを感じていた。
「さてさて、仕事に戻りますか。明日は6時に出るわ」
「彩子さん」
「何?」
「身体に気をつけてよ」
「はい、気をつけます」
翌朝、俺はベッドの中で彩子さんが出かける音を聞いていた。それとともに、またあの言葉を思い出していた。
「あそこでルミ子は恋人と抱き合っていたんだよ」
俺は恐怖で震えた。猿渡は俺たちを知っている! 俺は捕まるかもしれない! そうになってしまったら彩子さんはどうするだろう?