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至極透明な膜  作者: 多加也 草子
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猿渡と俺

 サヤはルミ子が殺された日、帰りがけにルミ子の携帯電話に掛かってきた相手の名前を見たと言う。「もう、すぐ来れるのね」ルミ子はそうに言っていたそうだ。

 バーのドアが開いた。一同がドアの方を向くと、猿渡が立っていた。

「サヤちゃん、捜したよ」

 猿渡は杖と足を交互に出しながら、俺たちに近づいてきた。サヤの隣にいる俺に視線を移すと一瞬、表情が曇った。しかし、すぐにサヤの方を向きなおし笑顔を作った。

「店をきれいに掃除してくれてありがとう」

「いいえ。あのままじゃ悲しくて……」

 猿渡はカウンターではなくテーブル席に腰を掛け、俺に話しかけた。

「君はサヤの知り合いか?」

「オーナー、違いますよ。ここのお客さんで私がママの話をしていたのよ」

「そうか失礼した」

 猿渡は少し笑顔を見せ、バーテンに赤ワインをオーダーした。


 猿渡京一郎。

 今、俺は信じられない気持ちだった。この男、俺はずっと以前からミツルに聞いて知っていた。

 ルミ子の父親と共に不動産業を経営していた猿渡は、高校生のルミ子と付き合い充を身ごもった。ルミ子の父親は、ルミ子との関係を理由に猿渡から会社を奪おうとした。そんな中、ルミ子は出産。ルミ子の知らない間に、充は高杉家にあずけられた。その直後、ルミ子の両親は交通事故で死亡。ここまでが小学5年生の充が調べたことだった。その後の2人の動きは充には調べられなかった。

 俺は充が死んだ後、2人を捜した。俺の親友が恋焦がれていた両親だ。猿渡京一郎と言う、不動産会社の社長がいるのを見つけ、身辺を探った。結果、ルミ子が見つかったのだ。ルミ子は猿渡を頼りにして生きてきた。「就職を機会に猿渡とは手を切ったの。でも結局、仕事をすぐにやめてしまって猿渡を頼ったの」ルミ子は以前、そうに言っていた。俺にとっては、親友の父であり恋人の愛人だ。話せる位置に猿渡がいる。


「君はあの店には言ったことがあったかね?」

 猿渡の言葉に俺はルミ子と一緒に寝そべったあの店の床が思い出された。

「いいえ、残念ですが入ったことはありません」

「あの店の床はこのワインのような深い赤色のカーペットが敷いてあるんだよ」

「オーナー、どうしたの急にカーペットの話をして?」

 サヤは不思議そうに猿渡の回すワイングラスを眺めた。猿渡は赤ワインを口に含みゴクリと喉を鳴らした。そして、立ち上がった。

「勘定してくれ!」

 少し荒い口調で財布を出し会計をすると、ゆっくりと杖をついて出口へ向かった。サヤが先に立ちドアを開けた。

「ありがとう。君は良い娘だ」

 猿渡はサヤに笑顔を向けた後、俺の方へ向き直った。

「店のカーペット。あそこでルミ子は恋人と抱き合っていたんだよ。警察でもはっきりとした証拠が取れている。そのまま死んだんだ。本望だろう」

 それだけ言い残すと猿渡は出て行った。

「オーナーどうしたのかしら? 少し変だったわ」

 サヤは席に戻るとバーテンに話し掛けた。

「まあ、愛人だった女が恋人と会っていたと言うし、全裸で発見されるしでショックなんだろう」

 そんな2人の会話を聞きながら俺は、硬直していた。

 あの鋭い眼、そしてあんなことを言うなんて! 猿渡は俺が、ルミ子と付き合っていたことを知っているんだ! 

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