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至極透明な膜  作者: 多加也 草子
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警察と俺

 大学の講義に久しぶりに集中することができた。俺は大学生で建築を学ぶ身だ。何があろうと、学び続けなければいけない。時々、早苗の顔が脳裏に浮かび、その度に安堵感が沸いてきた。

 講義が終わると、俺は早苗のアパートに向かった。新宿駅を出てルミ子さんの店の前を通る。通り過ぎたところで目立たないように手を合わせた。ルミ子さん、きっと充と仲良くやっているよね。だって会いたかったんだもんな。充が死んでいることも知らずにいたから悲しんでいるかもしれないな。

「君、ミツルだね」

 不意に背後から男の声がした。俺は振り返らなかった。怖くて振り返られなかった。ミツルと言う呼び名は限られた人しか使わない。

「ミツルだね」

 再び、声が聞こえ肩に手が掛けられた。目の前にも、厳つい男が現れた。

「警察の者だが、君に聞きたいことがあるんだ」

 俺は臆病だ。逃げようとも服従しようともせず、そこに立ち尽くすことしかできなかった。

 やはり、俺がルミ子さんを殺したのか?


 そのまま俺は警察に連れて行かれ、無機質な1室に入れられた。学生証を持っていたため、俺の本名は明かされてしまった。彩子さんにもすぐに連絡が行くだろう。俺は夢の中にいるような感覚だった。目の前に移る映像にもやがかかっていた。男たちに質問されるが、頭に入ってこない。俺は初め、ただ1つのことしか考えられなかった。


 彩子さんに、どう言い訳をしよう。


 俺は警察と1言も会話をしなかった。

その日の取調べは終わり、俺は留置場に入れられた。1人になり少し落ち着いてきた。なぜ、俺の事がミツルだとわかったのだろう。ミツルと言う名はルミ子さんの携帯電話の履歴からわかったのだろう。しかし、店の前を通った俺がミツルであるとなぜわかるのだろう? サヤがルミ子に会いに来たのを見ていたのだろうか? しかし、この前のサヤの様子ではそんな事はないように思える。俺が聞かれているのは、ルミ子に会っていたと言うことの確認であった。ルミ子と会っていたと言って、その先はルミ子さんと抱き合っていたかと言うことになるだろう。そして、その先はルミ子さんを殺したかと言う問いになるのだろう。俺がそれは聞きたい。殺害のなんの手がかりもない状態で会っていたことを認めれば、俺は容疑者になってしまう。ただ、会っていたことを認めなくても、ルミ子さんの身体にはルミ子さんと俺が抱き合った痕跡が残っていないはずがない。


 俺は容疑者になる!


 恐怖が全身に震えを起こした。息がうまくできない。俺は何かに覆われてるようだ。このまま、窒息してしまいそうだ。


 ルミ子さん、一体、誰に殺されたんだ?


 俺はもがいた。息をしなければならない。落ちつかなければと深く息を吐いた。吐いたことにより肺が酸素を欲し、勢いよく空気が気管を流れた。肺を思い切り膨らませた後、ゆっくりと息を吐く。俺はそのまま深呼吸を続けてなんとか落ち着きを取り戻した。そして、この場をどう逃れるかを考え続けたが、答えが見つからなかった。どちらにしろ、彩子さんは息子が警察にいることを知らされただろう。彩子さんはショックだろう。優秀な俺が警察にいるんだ! そうだ、もうすでに良い子の俺は取り繕うことはできない。ならば、全部話してしまってもいいのかもしれない。もう、優秀な良い子の拓也は存在しないんだ。そうに思いつつ、躊躇していた。今まで拓也とミツルと言う人間を、俺は分けてきた。早苗に2つの俺のことを話そうと思っていた矢先だ。2つの俺のことを警察で理解してくれはしないだろう。このまま黙り続けよう。ああそうだ、早苗は俺が行かなくてがっかりしているだろう。寂しがっているだろうな。

「あっ、早苗か!」

 俺は不意に声をあげた。早苗は俺をミツルと思っている。


 早苗が俺を……、いやっ、そんなことはないだろう。


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