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いろいろなことがあった一日が終わり、俺はぐっすりと眠った。
夢の中にまでプリンの声が響いていたように思うのは錯覚だろうか。
もちろん夢でのことだから、よく覚えてはいないけど。
ともかく、朝になったらしい。
カーテンから朝の心地よい日差しが俺の頬を温かく包み込み、雀の鳴き声が聞こえてくる。
「う~ん」
まぶたを開けた俺の目に飛び込んできたのは、昨日はプリンの顔だったけど今日は違っていた。
「あっ、お兄ちゃんおはよう~!」
「わっ!」
すぐ目の前にいたのは優佳だった。
「な……なんでお前がここにいるんだよ!?」
「だってぇ、お兄ちゃん、全然目覚まし止めないんだもん」
「だからって、勝手に入るなよ」
「え~、いいじゃん。私とお兄ちゃんの仲じゃない♪」
「あのなぁ……。まぁ、それはいいとして、どうしてすぐ目の前にいたんだ?」
「ついでだから、お兄ちゃんの寝顔を観察してただけ~♪」
きっぱり言ってのける優佳。
う~む、そんなことをして楽しいのだろうか。
昔からいつも俺にべったりな妹だったし、そういうのも趣味みたいになっているのかもしれないけど……。
さすがに最近は、そうそうくっついてきたりはしなくなったな。
それにしても、パジャマのままで俺の部屋に入ってくるかねぇ。
もっとも、妹のパジャマ姿なんか見てもどうということはないし、べつに構わないか。そもそも、小学生だし。
それはともかく、プリンはどうしたのだろう?
思わず、部屋の中を見回す。
「ま、ほんとは起こそうと思って近づいたんだけど。……って、お兄ちゃん、どうかした?」
「あ……いや、なんでもない。起こしてくれてありがとな。んじゃあ、そろそろ着替えるから出ていけよ。お前もそろそろ着替えて学校行く準備しないとだろ?」
「はぁ~い」
優佳は甘ったるい声を残して、そそくさと出ていった。
さてと、プリンは……。
俺は、部屋の中を隅から隅まで見回してみた。
ベッドの裏……には、いないな。
見える範囲だと、もう他に隠れられそうな場所はない。
外に出ているのか?
いや、寒いから嫌だなんて言っていたし、それはないか。
とすると……。
俺はクローゼットを開けてみる。プリンはここにもいなかった。
「ぐっも~にぃ~ん」
不意に、背後から寝ぼけた声が響いてくる。
プリンは押入れの上の段から顔を出していた。
なるほど、そっちだったか。
「妹さんが来てたからね。物音を立てないように気をつけていたんだよ」
そう言って、布団の間からもそもそと這い出してくるプリン。
俺の部屋にはベッドがあるのだけど、当然ながら季節に応じてベッドの掛け布団は使い分ける。
そのため、押入れには布団が仕舞ってあった。プリンはそこを寝床としていたようだ。
……どうでもいいけど、妖精でも寝たりするのか。
「そりゃあね。人間の睡眠とまったく同じ原理なのかは、わからないけどさ」
それはともかく、布団から出てきたばかりなのに制服を着ているのは、どういうことなのやら。
「ほむ? べつに構わないでしょ」
「シワになるだろ。それに、寝苦しくなかったか?」
俺は反射的に声を上げていた。
プリンの発言にすかさず言葉を返すっていうのが、ほとんどデフォルトになりつつあるような……。
「ああ、そういうことね。これは素材が違うから、寝ているうちにアイロンがかかるみたいな感じなんだよ。寝苦しいってのは、よくわからないかも。オイラはべつに気にならないよ」
妖精だから感覚も違うのだろうか。素材が特殊だからなのかもしれないけど。
まぁ、どっちでもいいか。
とにかくプリンはすでに起きていて、学校に行く準備も万端ということだ。
「じゃあ、着替えるから」
「わかった」
窓のそばで外の景色を眺め始めたプリンの後ろ姿を気にしながら、素早く着替える。
こうして今日も一日が始まった。
昨日と同じようにプリンには窓から外に出てもらい、俺は一階へと下りる。
今日は急いで朝食を終え、プリンに文句を言われないように心がけた。
「優ちゃん、もっとゆっくり噛んで食べなさい」
母さんからそんなお小言を浴びせられてしまったけど。