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今日も麻実子ちゃんとたくさん話せたな。美化委員のある日は、やっぱりいい。
反対に、他の日は全然話せないけど……。
麻実子ちゃんとの会話を思い出して、俺はちょっとニヤついたりしながら歩いていたのだろう、唐突にツッコミが入る。
「なにひとりでニヤニヤしてるんだか。気持ち悪いよ」
言うまでもなくプリンだ。すっかり存在を忘れていた。
こいつは俺から離れられないのだから、どこか近くに潜んでいるのは当たり前だった。
気持ち悪いなんて言っているくせに、プリンは俺のそばに来るなり腕を絡めてきた。
「こらこら、まだ学校から近いんだから、誰かに見られるかもしれないだろ?」
「もう下校中の生徒なんてほとんどいないって。それに、ずっと言われたとおり離れて隠れてたんだから、これくらい許してよ」
まぁ、いいけどさ。
それにしても、隠れてたといっても、あれじゃあ……。
「ほむ? 上手く隠れてたつもりだったんだけど……。ダメだったかな?」
「いや、ダメとは言わないけど。今後はもう少し考えて、なるべく見つかりにくいように隠れてくれるか?」
明らかに不満そうな顔になるプリン。
「ほむ。でも、しっかり隠れたりすると、優歩と麻実子の様子が見れないじゃん」
やっぱり、のぞいていたのか。
「そりゃあ、面白いしね♪」
プリンはコロッと笑顔に戻って、きっぱりと言い放った。
「べつにいいでしょ? キミのドキドキは、オイラのご飯みたいなものなんだよ? だいたい、ちょっと手伝ってあげたっていうのに、文句言うなんてひどくない?」
ああ、そういえばそうだった。
あの教室のゴミの件は思ったとおり、というか他には考えられなかったけど、プリンの仕業だったというわけだ。
「うん、それは感謝してるよ。ありがとう」
「ふんっ」
突然の感謝の言葉に驚いたのか、プリンは赤くなって顔をそむけていた。
「ご褒美に、苺ミルクをおごってやろう」
「ほんとかい!? やったぁ!」
こんなことでよくそこまで喜べるな、とも思ったけど。
それがこいつ、プリンってやつなんだ。
可愛い顔をした、妙な口調の守護妖精。
いきなり俺の目の前に現れ、そのままなにやら居座って、学校にまでついてきて……。
こんな状況になって戸惑いはあるけど。
これはこれで楽しくていいかもしれないな。
苺ミルクを幸せそうに飲んでいるプリンを見ていると、そんなふうに思えてしまう。
「これからも、いろいろ手伝ってあげるよ!」
苺ミルクを飲み終えたプリンは、いたずらっぽいニヤニヤ笑いを浮かべながらそう言った。
それはありがたいと思うのだけど、プリンのこの面白がっているだけのような笑顔を見ていると、とんでもないことをしでかしそうで、ものすごく怖い……。
そんな俺の不安をよそに、プリンはよりいっそうの輝かしい笑顔をこぼす。
もう地平線近くまで落ちかけている夕陽は、腕を組みながら歩く俺たちふたりの姿を赤く染め上げていた。