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妖精日和、カラメル気分。  作者: 沙φ亜竜
第1章 妖精さん、いらっしゃい
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-7-

 委員会の集まりのあとは、やはり見回りの時間となった。

 各クラスの美化委員ふたりずつで、それぞれ自分たちのクラスの担当になっている掃除場所を見て回ることになる。

 床は綺麗になっているか、ゴミは捨てられているか、黒板のある教室の場合はちゃんと消されているかなど、美化委員日誌にチェック項目が書いてある。


 俺は麻実子ちゃんとふたり並んで、廊下を歩いていた。

 クラスの掃除場所は自分たちの教室も含めてだいたい五~六ヶ所ほどある。

 美化委員になってまだ日が経っていないけど、どういう順番で回っていくと効率がいいかを、そろそろ考え始めている頃だった。


「ねぇ、プリンちゃんって、名取の家で一緒に住んでるの?」


 家庭科室へと向かいながら、麻実子ちゃんが訊いてきた。


「うん、そうだよ」

「すごく仲がよさそうだよね。うらやましいなぁ、って思って見てたの」


 うらやましいって……一瞬ドキッとしたけど。

 あ……そっか、そういうことか。


「笹樹って、ひとりっ子だったよね」

「……うん。名取って、妹さんもいるんだよね? いいなぁ、私も兄弟ほしかったんだ」

「妹もプリンも、うるさいだけだけどね。笹樹は男兄弟と女姉妹(きょうだい)、どっちが欲しかったの?」

「う~ん、そうだなぁ。可愛い弟が欲しかったかな」


 ちょっと頬を赤らめながらつぶやく麻実子ちゃん。

 もし弟がいたら、ものすごく可愛がるんだろうなぁ。


「あ……」


 麻実子ちゃんはなにか気になったのか、背後を振り向いてきょろきょろと辺りを見回していた。

 プリンのバカ、気づかれたか?


「どうしたの?」


 とりあえず、俺はなにも気になるようなことはなかったよ、という感じを装っておく。


「……ううん、なんでもない」


 麻実子ちゃんは笑顔を浮かべて振り返る。

 どうにか気づかれずにすんだかな?

 まったく……しっかり隠れていてくれないと困るじゃないか。


 それから俺たちふたりは、家庭科室、音楽室、視聴覚室を見回った。

 そのあいだも、俺がふと後ろを盗み見ると、本人は上手く隠れたつもりなのだろうけど、髪の毛の一部やらスカートの一部やらがしっかりと見えているプリンの姿が目に映った。

 俺は麻実子ちゃんに積極的に話しかけるようにして、こちらに気を引くことで、プリンが見つかってしまわないように気遣っていた。


 さて、あとは教室掃除の確認だけだ。

 それが終われば、美化委員日誌を職員室の甘野先生に渡して、今日の仕事は終了となる。

 職員室は下駄箱の近くにあるため、教室でカバンを持ったあとに日誌を渡しに行くのが効率的なのだ。


「あれ? ゴミ箱がいっぱいだ」

「ほんとだ」

「おかしいなぁ、さっき教室を出るときには入ってなかったのに……」

「え? そうなの?」


 そのとき、教室の後ろのドアからチラチラと中をうかがうプリンの姿が見えた。

 俺の視線に気づくと、人差し指と中指を立てて、ピースサインを作る。

 ……なるほど、お前の仕業か。


「捨てに行こっか」


 麻実子ちゃんはゴミ袋を取り出して口をしばる。


「笹樹、俺が持つよ」


 そう言って、そっとゴミ袋を手に取る俺。

 いいよ、私が持つから、などと言わせる間もなく、素早く持ってしまうのがポイントだ。なんてね。


「あ……ありがとう」


 俺たちは、ゴミ袋を持っているということで、カバンは持たずに教室を出た。

 ゴミを捨ててから教室に戻ってくればいいだろう。

 ……せっかくだから少しでも長く楽しい時間を過ごしたいしね。


 プリンが微妙に気を回してくれたおかげで、裏門近くにある焼却炉までの往復分の距離だけ、麻実子ちゃんと一緒にいられる時間が増えたことになる。

 プリンには感謝しないといけないな。あとでまた、苺ミルクでも買ってやるか。


「ふふっ」


 上履きから靴に履き替え、中庭を歩いて焼却炉へ向かっている途中、突然麻実子ちゃんが微かな笑い声を上げた。


「どうしたの?」

「プリンちゃんって、ほんと可愛いわよね」


 そんなことを言い出す。

 一瞬、隠れて追いかけてきているプリンのことがバレたのかと思ったけど、どうやらそういうわけではなさそうだった。

 それにしても、可愛い、か。確かにぱっと見、可愛いとは俺も思うけど。


「名取は、ずっと前からプリンちゃんとあんなに仲よくしてるの?」

「えっと……」


 やっぱり仲よしに見えるんだ。

 プリンは守護妖精としてずっと俺のそばにいたみたいだけど、実際は昨日初めて会ったようなものなのに。

 ともあれ、いとこ同士っていう話になっているのだから、麻実子ちゃんには嘘をつくことになるけど、ここは適当に合わせておくとしよう。


「そうだね、小さい頃からよく一緒に遊んだりしてたんだ。でも落ち着きがないから、一緒にいるこっちに迷惑がかかることが多くてさ。そういう部分はもう少し自覚してもらいたいと、ずっと思ってるんだけどね。あんな感じの子だから難しいかな」


 ははは、と乾いた笑いを浮かべながら言う。


「ふふ。やっぱり可愛い。プリンちゃんみたいな妹がいたら楽しいんだろうなぁ~」


 同じクラスに転入してきているわけだから同い年ってことになるはずなのに。

 プリンはイメージ的に年下っぽい雰囲気を漂わせているのだろう。

 もっとも妖精の実際の年齢がどうなのかは、俺には全然わからないけど。

 十万歳とか言い出しそうで怖いし、本人には聞かないことにしておくべきかな。


 俺たちが焼却炉に着くと、ちょうど用務員のおじさんがゴミを燃やしているところだった。

 これもお願いします、と言って、持ってきたゴミ袋を焼却炉の近くに積んであったゴミの横に置く。


「はい、ご苦労さん」


 人のよさそうな微笑みを向けてくれる用務員さんにお辞儀をして、俺たちは職員室の甘野先生のもとへと向かった。

 カバンは教室に置いたままだったため、焼却炉から戻るとなると下駄箱で上履きに履き替えなければならなかった。

 そこで、先に職員室に寄っても距離的には変わらないからと、先に日誌を渡してしまうことにしたのだ。


 甘野先生は、いつもどおりのハイテンションで日誌を受け取り、労いの言葉をかけてくれた。

 その後、職員室を出た俺と麻実子ちゃんは、一旦教室に戻ってカバンを持ち、そのままふたりで昇降口を通って校門まで歩いてきていた。


 夕焼けがやけに綺麗に見えたのは、愛しの麻実子ちゃんと一緒にいるからだろうか。


「今日はお疲れ様。それじゃあ、また明日ね。……プリンちゃんにも、よろしく」


 手を振って背中を向ける麻実子ちゃん。

 彼女ちゃんの家は俺とは反対方面だから、一緒に帰ることができるのもここまでとなってしまうのだ。

 さすがに遠回りしてまで一緒に帰ろうとするのは、図々しすぎるだろうし。


「うん、また明日!」


 俺も麻実子ちゃんに手を振り返して、素直に家路に就いた。

 麻実子ちゃんとふたりきりだった幸せな時間を、心の中で何度も思い返しながら――。


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