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妖精日和、カラメル気分。  作者: 沙φ亜竜
第6章 妖精たちは永遠に
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-8-

 プリンは前世で観蓮さんと親子だった。

 ごくごく普通の人間として生活していたものの、ある日、ふたりとも不慮の事故で亡くなってしまった。

 死んだ魂は妖精界に送られ、女王様の裁定で守護妖精になったりすることもあるらしいのだけど、この親子は女王様のそばで補佐をする役目を与えられたのだという。


 プリンは女王様の世話係として仕えていたようだ。

 女王様は自室からほとんど外へは出ないため、その世話係であるプリンのことも、柚子葉さんは知らなかったのだろう。


「とりあえず、戻るぞ」


 観蓮さんは、柚子葉さんとプリンに向けて、そう促した。


「待ってよ。優歩ともう少し話したいんだ」


 プリンが両手を組んだおねだりポーズで申し出る。

 それを、観蓮さんは快く受け入れた。

 こうしてプリンを残し、観蓮さんと柚子葉さんは妖精界へと戻っていった。


 ――って、神林や宵夢はまだいいとして、母さんや優佳にどうやって説明すればいいんだ!?


 俺は頭を抱えていたけど、そこは俺の母親と妹。こんな現実離れした状況であっても、目を逸らすことなく素直に受け止めているようだった。

 もちろん、あまり詳しく理解はできていないのだろうけど。


 こういうことも、あるんだね~。そうねぇ、優ちゃん、貴重な体験したわね。なんて言い合っているふたり。

 なんというか、お気楽な家族で助かった。……ちょっと複雑な気分ではあったけど。


 少し元気を取り戻した白馬くんは、みんなに謝っていた。

 行き過ぎだったとはいえ、白馬くんの想いもわかるからか、誰も責めたりはしなかった。

 それで気をよくしたのか、他のことも白状した。


 プリンのポイントを操作していたのは白馬くんだったらしい。

 このシステム穴だらけだよ、なんて言葉までつけ加える。

 その辺りの技術力は、大学教授のお父さんの血をしっかりと継いでいたということなのだろうか。

 死んで守護妖精になっても残るものなのかは知らないけど。


 ポイントを操作した理由は、プリンを学校の空き教室に向かわせるためだったようだ。

 麻実子ちゃんはどうも霊感が強いというか、悪霊の影響を受けやすい体質のようで、あまりに多くの悪霊が流れ込んでくると体調が悪くなるなど悪影響が出ていた。

 そこで白馬くんは、どうにかしてあの教室に開けられた妖精界とつながる穴を塞ぎたいと考えた。


 ともあれ、自分で力を使うと麻実子ちゃんを消耗させてしまう上、彼女の前に姿をさらすことにもなる。

 もし怖がられたら、そばにいられなくなるかもしれない。

 そう思い悩んでいるうちに、プリンと俺が悪霊退治していることに気づいた白馬くんは、そこへ向かわせるように仕向けたということだった。


 すべて話し終えると、白馬くんの姿は薄れ、消えた。

 でも、単に姿を消しただけなのだろう。麻実子ちゃんは優しげな瞳を、白馬くんがいた空間に向けていた。


 その後、宵夢も家に帰り、優佳の守護妖精と俺の本当の守護妖精もいつの間にか姿を消していた。

 麻実子ちゃんも、神林と一緒に帰っていった。

 最後に「また明日ね」と挨拶を交わす俺と麻実子ちゃんは、お互いに少し頬を赤く染めていて、神林にからかわれたりもしけど。


 というわけで。

 今部屋に残っているのは、俺とプリンのふたりだけだった。



 ☆☆☆☆☆



 改めてふたりきりになると、なにを話していいのかわからなかった。

 黙ってお茶をすする俺。

 そういえば最初に会ったときも、このテーブルでお茶を飲んだっけ。


 プリンも、お茶をノドに流し込む。

 そして――ゆっくりと話し始めた。


「オイラね……厳島のおじさんおばさんのところに転生しようかと思ってるんだ」


 ……え?


「なんかさ、あの夫妻を見てると、すごく切なくてね。ずっと、考えてたんだ。オイラがあの人たちに少しでも元気をあげられないかな、って。もちろん、深鈴の代わりになんてなれないのはわかってるけど……。でも、元気になって欲しいんだよ」


 プリンは、真面目な顔でそう語った。

 決意の固さが痛いほど伝わってきた。


 だけど、俺は戸惑っていた。

 俺の本当の守護妖精ではないというのはわかったのは確かだけど、それでもプリンはずっと俺の近くにいてくれる。

 そう勝手に思い込んでいたからだ。


「どうしてそんな顔をするんだよ? ここにはオイラの居場所なんて、ないわけだしさ。妖精界に帰ったら、女王様にお願いしてみるつもりだよ」


 言いながらも、プリンの顔は今にも泣き出しそうなほどに歪んでいた。


「そんな言い方するなよ。俺はプリンと一緒にいられて楽しかったよ。これからも、ずっとここにいたっていいって思ってるんだ。だから……!」

「もう、決めたから」


 思わず声を荒げてしまっていた俺を制して、そう締めくくったプリンの顔には、晴れやかな笑顔が浮かんでいた。

 立ち上がるプリン。

 妖精界に戻るつもりなのだろう。


「プリン……。転生っていうのもやっぱり、女王様の裁定によるのか?」

「うん、そうだね。だから希望どおりになるかは、まだわからないけどさ」

「転生したら記憶は消えるって言ってたよな?」

「うん。新しく生まれてくる命に宿るわけだしね。どちらにしても、赤ん坊から人生の再スタートになるんだから、余計な記憶があっても邪魔なだけでしょ」


 だとしても……忘れられるのは悲しいよ。

 そうは思ったけど、上手く言葉にすることができなかった。


 そんな俺の気持ちが、プリンには伝わったのだろう。

 藍色の澄んだ綺麗な瞳をまっすぐに向けたプリンは、最上級の温もりをたたえた口調で、優しい声を送ってくれた。


「ありがとう。オイラも優歩と一緒に過ごせて幸せだったよ。転生したらオイラはキミのことを忘れてしまうけど……優歩はオイラのこと、ずっと覚えていてくれたら嬉しいな」

「絶対、ずっと忘れないよ。忘れるわけない!」


 その言葉に満足したのか、プリンは微笑む。

 微笑みの輝きに呼応するかのように、プリンの体から徐々に光が放たれ始めた。


「プリン……元気でな!」


 いろいろ言いたいことはあったけど、引き止められはしないだろう。

 俺もプリンに負けないよう、精いっぱいの笑顔を作り、最後の言葉をしぼり出した。


「うん、優歩も。麻実子のこととか、いろいろ頑張ってね!」


 プリンの姿はどんどんとその光の白さに包まれていく。

 妖精界へと戻っていく彼女の瞳には、周りの輝きよりもさらに明るいきらめきが浮かんでいた。


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