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妖精日和、カラメル気分。  作者: 沙φ亜竜
第6章 妖精たちは永遠に
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-6-

 強大な力は、麻実子ちゃんの体から発せられていた。

 いや、正確には麻実子ちゃんのすぐ背後から放たれていた。


「え? あれ? なに、これ……はぅ……」


 至近距離から突然大きな力に当てられたからなのか、麻実子ちゃんは気を失い、その場に崩れ落ちる。

 俺は麻実子ちゃんの体をとっさに支えて、床にぶつかるのを防いだ。

 強大な力を発するその気配は、倒れた麻実子ちゃんと入れ替わるように姿を現した。


「む……」

「え?」


 それは、よく見慣れている姿だった。


「優歩!?」


 そう、それは俺と同じ姿をしていたのだ!


 倒れかけた麻実子ちゃんを抱きかかえている俺からは、俺とそっくりなその顔を見上げる格好になっていた。

 そんな俺を見下ろし、ものすごい形相で睨みつけてくるそいつ。


 確かに……目つき悪いんだな。

 なぜか意外なほど落ち着いていた俺は、そんなことを考えていた。


 そいつが、明らかに俺に向かって叫び声をぶつけてきた。


「お姉ちゃんから離れろ! お姉ちゃんは、僕だけのものだ!」


 声と同時に、さらに強烈な力が周囲一帯に放出され、身動きすらできなくなる。


「お姉ちゃん!?」

「どうやら、彼は麻実子さんの双子の弟さんのようですね。魂の色が、ほとんど同じです」


 柚子葉さんが冷静に分析する。

 麻実子ちゃんに弟がいたなんて、全然知らなかった。


「知らなくて当然だよ、僕は生まれてすぐに死んでしまったんだからね」


 力はよりいっそう強くなり、壁が振動するほどにまでなっていた。


「僕は生まれてすぐに死んでしまったけど、そのとき、お姉ちゃんも危険な状態だったんだ。僕にはそれがわかった。だから、お姉ちゃんの守護妖精になった。それからずっと、麻実子お姉ちゃんを見守り続けてきたんだ」


 目つきこそ変わらなかったけど、心なしか優しげな表情になって語り続ける。


「お姉ちゃんは、僕が見守っていることにいつしか気づいてくれた。そして優しく語りかけてくれたんだ。名前もつけてくれたんだよ、白馬って。……それなのに!」


 キッと、俺を鋭い目で睨みつける白馬くん。

 ……でも麻実子ちゃんは、白馬の王子様というつもりでそう言っただけで、名前をつけたわけではなかったんじゃ……。


「お前が現れなければ、ずっと麻実子お姉ちゃんは僕のものだったのに!」


 白馬くんは、俺に向けて右手を伸ばす。

 今まで全方向に放出されていた力は、一直線に凝縮した光となり、白馬くんの手のひらから俺目がけて解き放たれた。

 至近距離から放たれたレーザー光線のようなその力は、麻実子ちゃんを抱えたままの俺へと向かう。


 さすがに、これはヤバい!

 そう思った刹那、目の前になにかが飛び出してきた。


 ……えっ? 麻実子ちゃん?


 後ろ姿しか見えなかったけど、短めのその髪型は、麻実子ちゃんとそっくりだった。

 ただ、麻実子ちゃん本人は今、俺の腕の中で気を失っている。

 ということは……あれは、優佳の守護妖精か!


 彼女は白馬くんからの攻撃を受け止め、その力を周りに分散させて弾き飛ばす。


「なんだ、お前!? 邪魔するなよ!」


 鬼のような形相というのは、こういう顔のことを言うのだろう。

 ……自分とそっくりな顔をしている相手に対してそう言うのも、なんだか微妙な気はするけど。

 とにかくそんな表情で、矢継ぎ早に力を放出してくる白馬くん。


 もう周りのことなんてほとんど見えていないのだろう。

 自分がどうなってでもすべてを破壊する、それくらいの勢いだった。

 すぐ足もとで俺に抱きかかえられている状態の麻実子ちゃんさえも巻き込んでしまう、そんな可能性にすら気づかないほどに、自分自身を見失っているようだ。


「彼が麻実子さんの守護妖精なのは確かですが、完全に悪霊化していますね。今そうなったというよりは、以前からそうだったような感じを受けますが……」


 こんな状況でも柚子葉さんの声は冷静だった。

 といっても、冷静なのは声だけのようで……。

 柚子葉さんはどうしたらいいのかわからないという様子で、両手を無意味に動かしながらおろおろわたわたしていた。


「守護妖精は主人がドキドキを感じることでエネルギーを得るのは確かですけれど、麻実子さんが優歩さんに対してドキドキしてエネルギーを得るたびに、嫉妬の念が高まっていった、というところでしょうか」


 冷静に解説だけは続ける柚子葉さん。

 それはいいけど、今はこの状況をどうにかしてほしかった。

 とはいえ、柚子葉さんはやっぱり、おろおろしているだけ。この人ではダメだな……。


 俺は観蓮さんに視線を向ける。

 観蓮さんは、じっと見つめていた。


 ――プリンのことを。


「ねぇ、白馬。キミは自分でも気づいてるんでしょ?」


 突然発せられた声の主に、白馬くんは反射的に顔を向ける。

 今までずっと黙っていたし、白馬くんの敵意は明らかに俺のほうに向けられていたから、プリンのことなんて目に入っていなかったのだろう。

 プリンは落ち着いた様子で目を閉じながら問いかけているものの、白馬くんの放つ力の前に少々圧され気味なのか、その額には玉のような汗がにじんでいた。


「なんだと?」

「認めたくないのは、わからなくもないけどさ」


 閉じていた目をそっと開き、横から見ている俺ですらうっとりしてしまうほどの綺麗な優しい笑顔を見せ、プリンは白馬くんに向かって語る。


「ずっと守護妖精をやってたキミには、痛いほどよくわかってるんでしょ? キミの姿が優歩にそっくりなのは、麻実子の心が優歩に向かっているなによりの証拠だってことがさ」


 白馬くんが、はっとした顔をする。

 プリンが言うように、わかってはいたのだろう。でも認めたくない。そういうことは往々にしてあるものだ。


 それにしても、麻実子ちゃんの心が俺のほうに向かっているだなんて。

 俺自身もそうだったらいいなと思っていたし、俺が想っているのと同じように、麻実子ちゃんも俺のことを想ってくれているんじゃないかというのは、なんとなく感じていた。

 自分の勝手な思い込みなのかもしれない、と考える自分もいて確信は持てなかったけど……。

 それでも、改めてそうはっきり言われると、やっぱりちょっと恥ずかしい。


 白馬くんは、気が抜けたように、その場に倒れ込んだ。


「ううううう……」


 うなっている白馬くんに、静かに近づいていったプリンは、優しく手を伸ばし、そっと肩に添える。


「現実を見つめてちゃんと認めようよ。自分の成すべき役割を」


 プリンの言葉に、答えはなかった。

 だけど、嗚咽を漏らす白馬くんからはもう、さっきまでの強大な力なんてまったく放たれていなかった。


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