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妖精日和、カラメル気分。  作者: 沙φ亜竜
第6章 妖精たちは永遠に
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-5-

 家に戻ると、優佳と母さんがいた。

 自分の家なのだから、それは当たり前なのだけど。


「あらあら、こんなかたがたまでお友達なのねぇ。優ちゃん、顔が広いわぁ」


 なんて、わけのわからない感心をしていた母さん。

 こんなかたがた、というのはもちろん、柚子葉さんと観蓮さんなのだけど。

 あなたがたは、姿を消したりしないんですか?


「いいじゃありませんか。せっかくのお祝いの席のようですし、私たちもご一緒させていただきますわ」


 乗り気な柚子葉さんに、観蓮さんも肩をすくめていたけど、止める気はなさそうだった。

 母さんや優佳はプリンのことを知らなかったはずだけど、神林や宵夢も一緒だったからか、友達のうちのひとりだと思ってくれたようだ。


「そうねぇ、人数も多いからお鍋にしましょうか」

「わ~い、お鍋~~~♪」


 なぜか優佳が一番はしゃいでいる。

 それに、鍋の季節でもないだろうに。

 ま、べつにいいけど。


 ふと、ちらっと麻実子ちゃんに視線を向けてみる。

 最近いろいろあって、ふたりきりの時間はほとんどなかったけど、少しでも長く一緒にいられるというのは、やっぱり素直に嬉しかった。


「鍋といえば、当然闇鍋だよね!」


 なんて言っている神林は無視する方向で。

 とにかく俺たちは、母さんが素早く用意してくれた鍋を囲んだ。


 全員座れるほどのテーブルはなかったから、四人がテーブルのほうの椅子に座り、残りは床に座ってちゃぶ台の上で鍋を囲むことになった。

 テーブルには、柚子葉さん、観蓮さん、神林、宵夢の遠慮を知らない四名が陣取っている。


「笹樹さん、だったっけ? お兄ちゃんって学校でどんな感じなの~?」

「え? う~ん……。ちょっと、おとなしい感じかな? 私のほうがひどい人見知りだから、あまり人のことは言えないんだけど」


 優佳が麻実子ちゃんにしきりに話しかけている。

 ちゃぶ台を四人で囲っているのだけど、母さんの席も空けつつ、俺をあいだに挟んでさらに隣の麻実子ちゃんに話している状態。

 そんなわけで、優佳が俺のほうにまで身を乗り出してくると、自然と俺も麻実子ちゃんのほうに近づく感じになった。


 俺の目の前で、こっちを向いて軽くウィンクをしていたところをみると、わざとやってるんだろうな、優佳は。

 この前、家に麻実子ちゃんを連れてきたというのもあるし、優佳なりに気を遣っているつもりなのだろう。


 奥手なお兄ちゃんのために、優しい私がお手伝いしてあげるよ、とでも思っているのかな。

 余計なお世話だとは思ったけど、まぁ、これはこれでいいか。


「え~? お兄ちゃんがおとなしいなんて信じられない~! 家ではすっごくうるさいのになぁ~。しかも、怖い目つきで睨みつけるしさ!」

「目つきが怖いのは、いつもどおり……あ、ごめんなさい」


 麻実子ちゃん、結構さらっと、ひどいことを言ってない?

 いや、べつに構わないけど。軽口なんかを気楽に言える仲、って麻実子ちゃんのほうも思ってくれているってことだろうから。

 ここは素直に喜んでおこうかな。


 テーブル側はテーブル側で、どうやらすごく盛り上がっているみたいだった。

 なにを話しているのかはわからないけど、深く考えないことにしよう。

 どうでもいいけど、うちの家族、物怖じしなさすぎな気がする。神林や宵夢もだけど。


 と、そんな和やかな雰囲気の中、プリンだけがなぜか、さっきから黙ってうつむいたままだった。

 いったいどうしたというのだろう?


「プリン、どうかしたのか?」

「ん? うん、ちょっとね……」


 具合でも悪いのか、表情が優れないプリン。

 いきなり、すっと立ち上がり、


「少し、外に出てくるよ」


 そう言って居間から出ていってしまった。

 俺もすぐにそのあとを追う。


「ちょっとお兄ちゃん、ダメじゃん」


 小声でつぶやく優佳の声は聞こえたけど、プリンを放ってはおけなかったのだ。



 ☆☆☆☆☆



「おいプリン、どうしたんだよ?」


 プリンは外へは出ず、階段を上がり俺の部屋に入っていた。

 ベッドに腰かけ、いつものピンク色の端末――フェアリーコンピューターを操作している。


「ん、なんか引っかかるというか、気になる感じが……」


 カタカタと操作し続けながら発していた声は、途中で途切れた。


「うわっ! なんだよ、これは!?」

「ん? どうしたんだ?」


 俺はプリンの横に腰かけ、端末の画面をのぞき込んだ。

 相変わらず文字は読めないわけだけど、数字が大きく表示されているのだけはよくわかった。


「0?」

「ポイントが、なくなってるみたいだ」

「なんだって!?」


 驚きの声を上げたのは、渋さをたたえたおじさん、観蓮さんだった。

 至近距離でいきなりそんな大声を上げられたら、こっちのほうが驚きますって……。


「……本当ですね。いったいどういうことなのでしょう……?」


 観蓮さんに続いて、柚子葉さんまで現れた。

 だから、いきなり出てきたらこっちのほうが驚きますから。


「柚子葉、女王様に聞いてみてよ!」

「すみませんが、それはできないのです」

「どうしてさ!?」


 つかみかかりそうな勢いで、いや、実際につかみかかりながら叫ぶプリンに、柚子葉さんは若干戸惑いの表情を浮かべる。

 柚子葉さんが口を開こうとした、そのときだった。


 …………!?


 なにやらすごい力の奔流が、突然、部屋の外の廊下に現れた。

 俺にすらそれがわかるほどの強大な力を放つなにかが、廊下を伝い、俺の部屋の前まで迫ってくる。


 いくらプリンとともに悪霊退治に巻き込まれたりしていたとはいえ、普通の人間である俺にまでその圧力というか威圧感というか、そういったものが感じられるほどなのだ。

 プリンや柚子葉さんたちが、その力に圧倒されて声すら発せないのも当然のことだったのかもしれない。


 そんな力が、もうすぐそばまで来ていたはずのその力の気配が――、

 いきなり、消えた。


 静寂に包まれる。


 いったいどうしたんだ?

 俺たちは顔を見合わせた。

 誰か状況がわかっている人はいないか、確認したかったのだ。

 全員、首を横に振った。


「あの、優歩くん」


 静寂を切り裂いたのは、麻実子ちゃんの声だった。

 声はドアのすぐ向こうから聞こえた。


「どうしたの? お鍋の用意、もうできてるよ?」

「麻実子ちゃんか、よかった。呼びに来てくれたんだね、ありがとう。今開けるよ」


 俺はドアを開けた。

 麻実子ちゃんの声だったことで、つい安心してなにも考えず開けてしまったのだけど。


「優歩!」


 プリンが制止の声を上げたのは、俺がすでにドアを開けたあとだった。

 ドアの前には、麻実子ちゃんがいた。

 さっきの力のことを思い出し、今さらながらに警戒してしまったけど、とくにおかしな様子はなかった。


「え? みなさんどうしたの? じっと私ことを見て……。あっ、顔になにかついてる?」


 慌てて顔をそむけ、手で自分の顔を触っている。


「あのね、優佳ちゃんに言われて呼びに来たの。階段を上がる音が聞こえたから、みんな部屋にいるんじゃないかって」


 なるほど。

 優佳の様子からすると、麻実子ちゃんを呼びに来させたのも頷ける気はする。


「それに……」


 麻実子ちゃんはうつむいて、もじもじしながら、小声で喋り続ける。

 その声は消え入りそうなほど小さかったため、俺の耳には、はっきりとは届かなかったのだけど。

 でも、こんなことを言ったように聞こえた。


「優佳ちゃん、行かないとプリンちゃんに優歩くんを取られるよ、なんて言うから……。それに私も、少しでも優歩くんと一緒にいたかったから……」


 俺がドキッとして、麻実子ちゃんの顔を見つめようとした瞬間、あの強大な力の気配が再び発生した。


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