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妖精日和、カラメル気分。  作者: 沙φ亜竜
第5章 女王様のお導き
35/48

-6-

 と、突然門から庭に飛び込んでくる人影があった。

 それは……。


「なっ……、優佳!?」


 妹の優佳だった。

 どうしてここにいるんだ!?


 勢いよく飛び込んできた優佳は、髪の毛とその髪を結んでいるリボンを集中的に狙われ、執拗に悪霊たちからの攻撃を受けていた。

 威嚇のつもりなのか直接的な攻撃ではないものの、それでも激しく連続で頭を小突かれるような状態。

 必死に腕で防いでいた妹だけど、耐えきれなくなったのか、その場にしゃがみ込んでしまった。


 さらにその後ろから、もうひとつの人影が優佳に向かって飛び込んできた。

 麻実子ちゃんだ!


「くっ……! 入るなと言ったのに……!」


 プリンが苦しげな声を上げる。

 かすれ気味な声。プリンも限界が近いようだった。


 庭に飛び込んできた麻実子ちゃんは、しゃがみ込んだ優佳に覆いかぶさるようにして、悪霊たちの突撃を自分の身に受ける。

 優佳を、守ってくれているのだ。


 視界に捉えられる距離だというのに……、

 すぐにふたりのそばまで飛んでいきたいのに……、

 俺は悪霊たちに阻まれてなかなか距離を詰められない。


 そのあいだにも、麻実子ちゃんは無数の悪霊たちによる体当たり攻撃を食らい、袖やスカートからのぞく白くて細めの腕や足が徐々に赤く染まっていく。


「麻実子ちゃん! 優佳! もう少しだ、待ってろ!」


 俺は、声を限りに叫ぶ。

 それに気づき、こちらに弱々しい視線を向けるふたり。


「よし、次でラストだよ! 優歩はふたりのもとへ急いで!」

「わかった!」


 俺とプリンは、つないでいた手を離して駆け出す。

 プリンは門のほうへ、俺は麻実子ちゃんと優佳のそばへ。


「優歩くん!」

「大丈夫?」


 俺は近くの悪霊たちを威嚇するように短刀を振るう。

 プリンの力がない今では、悪霊を消し去ることはできなかったけど、一時的にでも追い払えればよかった。

 麻実子ちゃんが身を挺して守ってくれていた優佳は、すでに気を失っているようだ。


 そのとき、不意に声が響いた。


「この悪霊たち……どうやらこの庭にある花の香りに引き寄せられて集まったようです」


 声は麻実子ちゃんと似たような感じだったけど、麻実子ちゃんは今、身を丸めて必死に優佳を守ってくれている状態だ。

 とすると、この声――さっき会った優佳の守護妖精か!


「庭に花壇がいくつもありますね、その辺りになにかがあるのは間違いないでしょう」

「悪霊たちを追い払ったら、頼みますよ」


 ……え?


 優佳の守護妖精と思われる声に続いて、さらに別の声が聞こえたような気がした。

 女性のようにも男性のようにも聞こえる、ちょっと幼くも感じる声……。


 思わず周囲を見回していた俺のもとに、プリンの声が届く。


「優歩! 行くよ!」

「……了解!」


 今はこっちのほうが優先事項だ。

 俺はしゃがみ込み、麻実子ちゃんと優佳のふたりを庇うようにして身を寄せる。

 と同時に、プリンは大げさな身振りで、ピンク色の小石の最後のひとつを門の真下に固定した。



 ☆☆☆☆☆



 白――。


 小石で囲った庭の内部が、強烈な真っ白い光に包まれた。

 そのまぶしさで無意識に目を覆う。

 そして……。


 辺りの景色は、一変した。

 正確には、庭も屋敷も木々も塀も門も、すべてそのままではある。

 でも空や塀の周りは一面、淡い桃色の空間に包まれていた。


 悪霊たちがざわめく。

 実際に声が響いてくるわけではなかったけど、そう表現するのが一番的確と思われる、そんな波動が全身に感じられた。


「優歩! おじさんとおばさんを頼むよ!」


 そうだった。

 俺は「行ってくる」と麻実子ちゃんに言い残し、その場から駆け出した。

 その後ろからプリンの声が聞こえてくる。


「麻実子! 近くの木につかまって! 優佳の体もしっかり抱えて、絶対に離しちゃダメだよ!」


 それに対する麻実子ちゃんの返事は聞こえなかったけど、優佳を引きずりながら近くの木のそばまで這い進んでいるのは、微かに聞こえてくる音で充分にわかった。

 俺は振り返りもせず、ただひたすら走る。

 屋敷の玄関には、厳島夫妻がこちらを心配そうに見つめながら立ち尽くしていた。


「おじさん、おばさん! どこかにつかまってください!」


 俺の声に、戸惑いながらも玄関の柱にすがりつく夫妻。

 そのまま俺も走ってきた勢いに任せてふたりのもとへ。そばにあった柱にしっかりと手をかける。


「プリン! いいぞ!!」


 大声で叫んだ。

 ここからでは、門のそばにいるはずのプリンの姿は見えない。

 それでもすべての力を込めて、俺は声を張り上げていた。


 刹那。

 庭を、塀を、屋敷を――この空間のすべてを包んでいた光が、その強さを一気に増大させる。

 そのまま、まぶたを通してでも感じられるほどの真っ白な世界に、俺も厳島夫妻も、おそらくはプリンや麻実子ちゃんたちも、飲み込まれていった。


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