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妖精日和、カラメル気分。  作者: 沙φ亜竜
第5章 女王様のお導き
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-5-

 石段を上り終えると、そこには麻実子ちゃんがいた。


「なんで麻実子がここにいるのさ!? 帰れって言ったじゃないか!」

「ご……ごめんなさい……。どうしても気になって、来ちゃった……」


 顔を伏せる麻実子ちゃんに、プリンは呆れた表情を返していた。

 だけど俺は、危険だというのはもちろんわかっていたけど、それでも正直ちょっと嬉しかった。

 どんな状況だったとしても、好きな子の顔が見られるというのは嬉しいものだ。


「ま、仕方ないね」

「ありがとう、プリンちゃん!」


 麻実子ちゃんは明るい表情になって喜ぶ。


「でも、麻実子はここで待ってるんだよ。門から中には絶対に入っちゃダメだからね!」


 そう言い残して、プリンは門の中へと身を滑り込ませる。

 慌ててそれを追う俺。ふと、麻実子ちゃんと目が合った。

 麻実子ちゃんは微かに笑みを浮かべていたけど、その瞳には少し寂しげな色が宿っているように思えてならなかった。


 気にはなったけど、今優先すべきは悪霊のほうだ。

 俺はプリンに引っ張られるような格好で門をくぐった。


「わわっ! やっぱり増えてるね」


 想像はしていたけどさ。そうつぶやくプリン。

 庭の中を漂っている悪霊たちの数は目に見えて増加し、お互いがぶつかり合うたびにさらなる輝きを放っていた。


「これ以上増えると、溢れて外にまで出てしまうだろうね」

「どうするんだよ、プリン。短刀で切ってもきりがないんだろ?」

「うん。だから、一気に消すしかない。本当は大もとを断ってからのほうがいいんだけど、この状況の中で探るのは不可能だろうからね。まずは今いる悪霊だけでも消し去る。それが先決だよ」


 そう言って、手に持っていた物を俺に見せる。

 プリンの手のひらに乗っていたのは、ピンク色で奇妙な形をした、いくつかの小石だった。

 十字架のようにも見える形状をしたその石は、下側の長い部分の先端が少しだけ尖っていた。

 プリンがぐっと手を握ると、小石が手のひらでジャラジャラと音を立てる。


「フェアリークロスっていう石だよ。命名したのは柚子葉さんらしいけど。フェアリーコンピューターもあの人のネーミングだったかな」


 なんというか、そのまんまだ。

 柚子葉さんって、ネーミングセンスが足りないのかも。


「まぁ、ともかく。壁沿いの地面にこの石を立てて庭全体を囲むんだ。そうすることで、庭全体を妖精界に送り込める。飛び回る悪霊ごとね。そして妖精界に送ったところで石の囲いを解けば、向こうの世界に悪霊たちを置いてこれるってわけ」


 このピンク色の石は、あの端末に使われている素材と同じものなんだよ、とプリンはつけ加える。

 言いたいことはなんとなくわかったけど……。


「庭全体を囲むって、門の外にいる麻実子ちゃんは大丈夫だろうけど、お屋敷の中にいる厳島夫妻とか、俺やプリンは巻き込まれてしまうんじゃないか?」

「そのとおりだよ」


 プリンは事もなげに言う。


「でも、固定されている物体は一旦妖精界に送られたとしても、囲いが解除されたらもとに戻るんだ。だから囲いを解除するとき、どこかにしっかりつかまっていれば、問題なくここに戻ってこれるはずなんだよ。もっとも、試したことなんてないんだけどさ」


 だけど、これしか方法はないんだよ。

 プリンは真面目な顔で言い放った。


「おじさんとおばさんには、伝えている時間がない。妖精界に庭全体を送り込んだら、囲いを解く前に優歩がふたりのもとへ行って、どこかにつかまるように言うんだよ。もちろん、優歩もどこかにつかまってね」


 俺は小さく頷いた。


「よし、これ以上悪霊が増える前に、急いでやるよ! しっかりついてきてね!」


 門の近くから屋敷の裏側を回って、再び門の辺りまで。

 屋敷の周りを囲っている塀に合わせる形で、俺たちは素早く小石を配置していく。


 そのあいだも悪霊たちは俺やプリンにその身を突撃させ、明確に邪魔をしてきた。

 そんな悪霊たちを、短刀を振りかざして排除するのが、俺の役目だった。

 短刀はさっきまでとは違い、青白い光を放っている。

 輝いているそのパワーは、プリンの右手から、つないだ俺の手を通して短刀へと与えられていた。


 どうして俺が短刀を握っているのかといえば、プリンが小石を配置することに集中するためだ。

 フェアリークロスを配置するには、下側の先端を地面に突き刺して固定しなければならない。そのため、襲いかかってくる悪霊に意識を向けている余裕はないのだそうだ。

 そんなわけで、短刀にエネルギーだけ伝えてもらい、俺が悪霊たちをなぎ払う。


 クレープの悪霊のときには、相手は一体だけだったから問題なかったけど、短刀に込められたパワーは悪霊を切り裂くことで消えてしまうらしい。

 無数の悪霊を相手にしている今は、一体を切り裂くたびにパワーを注ぎ込み直す必要があった。

 だからこそ、俺はしっかりプリンと手をつないでいる。


 ここでプリンが傷つけられたら、すべてが無駄になってしまう。

 俺は汗まみれになりながらも、次々と迫ってくる悪霊を切りつけ、プリンの動きに合わせて走り続けた。


 この屋敷は尋常ではないほどの広さがあった。

 といっても、全速力で外周を走っていてもなお、何十分もかかったりするような、そんな大きさでは当然ながらない。

 ともあれ、無数の悪霊たちに阻まれつつ駆け抜ける俺には、永遠とも思えるような時間に感じられた。


「優歩、頑張れ! もう少しだよ!」


 励ましの声をかけてくれるプリンは、俺なんかよりもっとつらい状態に違いない。

 つないでいるプリンの手は汗でベタベタになり、激しく震えているのだから。


 門が見えた。

 あそこまで行けば準備完了だ!

 俺とプリンは最後の力を振りしぼり、一直線に門を目指した。


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