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「今日は放課後になったら、学校の外に行くよ!」
起き抜けのぼやけた頭で制服に着替えている俺に向かって、プリンがそう言った。
「悪霊だな? でも見回りとかあるけど、そのあとでいいんだよな?」
「うん、もちろんだよ。麻実子との時間も大事でしょ? 優歩にとっても、オイラにとってもね」
言葉のやり取りは、最小限で済むようになっていた。だいたいお互いの考えていることもわかる。
プリンのほうは、さすがにずっと俺の守護妖精をやっていただけのことはある、といったところだろうか。
俺のほうもプリンの考えがだいたいわかるというのは、彼女の性格のおかげかもしれない。言葉遣いはちょっと変わってるけど、結構素直な奴だし。
「とはいえ、かなり時間がかかるかもしれない。日が暮れると面倒だろうし、見回りは早めに終わらせるようにしてくれるかな?」
「うん、わかったよ」
プリンの言葉には、素直に従っておく。
今の俺はプリンの手伝いをしなければならない身なのだから。
最近は結構慣れてきているけど、プリンがずっと俺のそばから離れられず姿を消すこともできないままでは、いつか問題になるだろう。
そうでなくても、いとこのプリンとイチャイチャしながら登校している上に、クラスメイトにも想いを寄せる二股野郎なんて噂まで流れ始めているのだから。
麻実子ちゃんへの想いまでバレバレっぽいのは恥ずかしいところだけど、宵夢が言うには、見ていれば誰でもわかるらしい。
う~ん、そんなにわかりやすいのだろうか。
そういった噂は、麻実子ちゃん本人だって耳にしてはいると思うのだけど……。
迷惑に思われていたら嫌だけど、そんな素振りは見せないし、ちょっとは期待してもいいのかな……?
それはともかく、俺は素早く着替えを終えた。
「う……。お兄ちゃん、もう起きてる。ちぇ~っ!」
なんて言いながら自分の部屋に引っ込んだ優佳の声を聞きながら、俺は学校へ行く準備を進める。
このところ、プリンが情報ネットワークチェックとやらで朝っぱらから端末のキーボードをカチャカチャ鳴らすため、目覚めるのは早いのだ。
残念だったな、優佳!
☆☆☆☆☆
「今日ね、梨乃ったら、ポケットに苺大福入れて持ってきたんだよぉ? ……潰れてたけど。苺大福なんて、そんなの売ってるんだね。知らなかった」
放課後、いつもどおり見回りをしながら麻実子ちゃんとのお喋りの時間を楽しむ。
神林は相変わらずのようだ。
苺大福って、かなり前に話題になった食べ物だよね。アンコと苺が入ってるんだっけ、確か。
「よぉ、優歩」
不意に目の前に現れたのは、宵夢だった。
「あっ、桑島……。こんにちは」
宵夢に対して微妙な視線を向けつつ、それでも一応挨拶する麻実子ちゃん。
昔、自分がふった相手だし、変に意識してしまうのかもしれない。
当の宵夢は、今となってはもう全然気にしてないようだけど。
「笹樹、相変わらず可愛いね」
ニコッと爽やかな笑顔を見せる。
中学一年の当時は、本人に対しても「麻実子ちゃん」と馴れ馴れしく呼んでいた宵夢だったけど、俺に気を遣ってなのか、それとも興味がなくなったからなのか、今では普通にクラスメイトを呼ぶのと同じように名字で呼んでいた。
「あ……ありがと」
麻実子ちゃんは控えめにお礼を述べながらも、微かに頬を染めてうつむく。
やっぱり、話しづらいのは確かなようだ。
そんな麻実子ちゃんに優しげな視線を向けたあと、宵夢は俺に話しかけてきた。
「美化委員の見回りか。甘野のクラスだし、お前たちも大変だよな。……優歩は嫌ではないんだろうけど」
なにもかも、お見通しな宵夢。
ま、頑張れよ。視線でそう語っていた。
「このところ、ずっと見回ってるからかな、みんなちゃんと掃除してるみたいなんだ。だから、結構楽になってきてるよ」
「そうかそうか」
「それより宵夢、もうそろそろ予選会じゃなかったっけ? こんなところをふらふら歩いてていいのか?」
「ん、まぁ、ちょっと気分転換ってやつだ。こうやって歩いてると、よく神林と会うんだけど、あいつは今でもまだあんな感じなんだな。そりゃあ、そうそう変わったりはしないだろうけどさ」
一年生の頃、麻実子ちゃんに想いを寄せていたわけだから、宵夢も彼女の親友である神林のことは知っている。
あんな変わった感じの子だから、知らない生徒のほうが珍しいとは思うけど。
そういえば一時期、神林は宵夢のことが好きなのでは、なんて噂も流れていたっけ。
それを聞いて、あれはあれで可愛いんじゃないか? と平然と言ってのける宵夢にちょっと驚いたものだ。
「さてと、そろそろ練習に戻るかな。トイレだからって言って抜け出してきただけだし」
「おいおい、道場からはかなり遠いぞ、ここ」
「だから、気晴らしなんだって。仲むつまじいふたりの姿も見れたし、また練習に励むさ」
そんな軽口を残して去っていく宵夢を見送り、俺と麻実子ちゃんは見回りを再開した。