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妖精日和、カラメル気分。  作者: 沙φ亜竜
第3章 クレープでも食べながら
19/48

-3-

 開いたドアから飛び出してきたもの。

 速すぎて正体を捉えることはできなかったけど、それは一直線に麻実子ちゃんへと向かった。


 すぐ横で俺の腕につかまっていた麻実子ちゃん。

 俺がとっさに守ることもできないほどの速度で麻実子ちゃんの腕に絡みついたその物体は、信じられないような力で彼女を教室の中に引きずり込もうとしてきた。

 俺につかまり抵抗する麻実子ちゃんの腕をどうにか引き戻そうとはしたものの、あまりの強烈な力の前に太刀打ちできない。

 俺は自分の無力さを痛感した。


 と、そのとき。

 なにかが視界を塞ぐかのように現れた。

 それは、長い藍色の髪を振り乱した少女――プリンだった。


 プリンは右手に綺麗な飾りのついた短刀のようなものを構えている。

 そして、すぐさまその短刀を、麻実子ちゃんに絡みつく物体目がけて振り下ろした。


 ズシャッ!


 形容しがたい音を立てて千切れる物体。

 同時に、引っ張る力を失った麻実子ちゃんは、抵抗していた勢いで俺の胸の辺りに顔面から突っ込む形になった。

 俺は麻実子ちゃんを受け止めたけど、そのまま勢いあまって廊下に倒れてしまう。


 麻実子ちゃんが俺の上に覆いかぶさるように倒れてきたため、その体重を全身に受けて廊下にぶつかったのだけど。

 勢いと重さで痛かったという本音は飲み込み、麻実子ちゃんの肩にそっと触れ、「大丈夫?」と声をかける。

 麻実子ちゃんは、なにが起こったのかわからないといった表情で肩を震わせていた。


 教室の中から出てきた物体は、プリンの短刀に怖気づいたのか、するすると引っ込んでいく。

 切られた物体の残骸は廊下に落ちるとともに、霧になったかのように空気に溶け込み、消えてしまった。


「麻実子、大丈夫!?」


 神林もようたく状況を把握できたのか、麻実子ちゃんを心配して声をかけてきた。

 麻実子ちゃんも少しは落ち着いたらしく、視線を周囲に巡らせている。


「プリンちゃん……?」


 麻実子ちゃんの目はある一点で止まり、驚きを浮かべてつつ名前をつぶやく。

 その声がプリンに届いたのかどうかはわからない。プリンはなにも答えなかった。


 仁王立ちになっていたプリンが、一旦は閉じられたドアを開け放つ。

 その視線の先には、奇妙な空間が広がっていた。

 そこは教室のはずだけど、少なくとも今俺の目に見えているそこは、教室ではない空間だった。


 様々な色が入りまじってうごめいている、そんな印象を受けた。

 その空間を、プリンは鋭い眼差しで睨みつけている。


 意を決したプリンが教室内に足を踏み込んだ。

 と、それを待っていたかのように、ドアの両脇からとんでもない速度で飛び出す物体が見えた。

 さっき麻実子ちゃんに襲いかかってきた、あの物体だ!

 プリンはその物体にぐるぐる巻きにされ、教室の中へと引きずり込まれていく。


 カラン……。


 俺の足もとになにかが転がってきた。

 それはプリンが持っていた短刀だった。

 その短刀とともに、


「ゴメン、優歩、あとは頼むよ……」


 か細く力のない声が、俺の耳に微かに届いた。



 ☆☆☆☆☆



「ええええええ!? 頼むって、プリン! 俺にどうしろって言うんだよ!?」


 戸惑う俺の目の前で、プリンを引っ張り込んで満足したのか、ごくん、といった感じの妙な音を残してドアは閉まった。


 俺はとりあえず、プリンの短刀を手に取る。

 綺麗な飾りのついた柄の部分には、周りの装飾とは不釣合いな藤の紋様が刻まれていた。

 その部分だけ、やけに和風で浮いている感じだった。


 短刀を手に取りはしたものの、俺はその場で立ち尽くしていた。

 その横では麻実子ちゃんも怖がって震えている。

 ただひとり、神林だけは、こりゃ行くしかないっしょ! とノリノリな感じだったけど。目もキラキラ輝いてるし。


「ほら、名取! 麻実子が見てるぞ!」


 なんて焚きつける神林の声に後押しされ、俺は閉じられた教室のドアを一気に開け放った。


 中には机や椅子が並び、さっきまでとは一変して、普通の誰もいない寂しい教室の風景になっていた。

 若干薄汚れた感じなのは、使われていない空き教室だからだろう。鍵がかけられて誰も入らない状態でも、ホコリは溜まるものだ。

 美化委員としては、空き教室も掃除するように進言するべきかもしれない。


 教室の中央付近には、班ごとに向き合わせるように、六つの机が配置されていた。

 それらの机の中央に目を向けると、大きな白いお皿が乗せられているのが確認できる。


 お皿というものは、なにかを盛りつけるために使われるもの。

 今そのお皿に盛りつけられているのは、ついさっき教室に引きずり込まれたばかりのプリンだった。

 プリンは黄色っぽいなにかでぐるぐる巻きにされた状態で、お皿の上に横たわっている。

 さらにその黄色の上には、赤い色をしたなにかが覆いかぶさっているように見えた。


「おお、あれはクレープ生地に、ストロベリーソースだねぇ!」


 ひょっこり俺の横に顔を出した神林が叫ぶ。

 なぜに、クレープ……。

 それより、キミは驚いたりもしないのか?

 いろいろとツッコミどころではあったけど、そんなことを気にしている場合ではないだろう。


 クレープ生地に包まれたプリンは、顔をこっちに向けてはいたけど、鼻の辺りまですっぽりと覆われて身動きが取れない状態のようだ。

 涙目になって俺のほうを見つめている。


 その、命名「プリン巻きふんわりクレープ・ストロベリーソース仕立て」の横には、ナイフとフォークを両手に持って掲げている太った男がいた。

 よだれをだらだらと垂れ流してプリンを見下ろしているその男。

 おそらく俺たちと変わらないくらいの年齢だろう。ガクランも着ている。


 でも……。

 そいつの背中からは、最初に会ったあの日、プリンの背中に見たのと同じような、綺麗で優雅な模様をたずさえた蝶の羽根が生えていた。


 こ……こいつ、妖精なのか!?


 そう思うよりも先に俺の頭に浮かんだのは、こんな感想だった。


 う……うわぁ~~! 似合わねぇ~~~!!


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