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妖精日和、カラメル気分。  作者: 沙φ亜竜
第2章 美化委員セレナーデ
16/48

-8-

 週休二日。

 ゆっくりできるのはいいのだけど、二日間、暇で持て余したりすることも多い。

 結局ぼーっとテレビを見たりマンガを読んだりして、無駄に過ごしてしまうなんてこともしばしば。


 昨日は思いがけず麻実子ちゃんと出会えて嬉しかったけど、今日もやっぱりとくにすることはない。

 朝から少々勉強したあと、居間のソファーに寝っ転がってテレビを見ていた。


 一応自分の部屋にもテレビはあるものの、なにせ小遣いをせっせと貯めて買った小さいテレビだから……。

 勉強中にちょっと見る程度ならともかく、普段はせっかくだから居間の大きなテレビで見たいのだ。


 プリンが俺の前に現れてから、ちょうど一週間が経つ。

 女王様とやらの決定が下されるまで一週間くらいと言っていた。そろそろ連絡が来る頃に違いない。

 どうもプリンは、思い立つとじっと待っていられない性格のようで、こっちから連絡を取ってみると言っていた。


「お兄ちゃん、またゴロゴロしてる~」

「べつにいいだろ? 休日なんだから」


 突然かけられた声に文句を返しつつ振り向くと、奥のソファーに寝っ転がりながらポテトチップスの袋に手を突っ込んでいる優佳の姿があった。


「おいっ! お前こそ、だらけすぎだろ」

「いいのよ~、休日なんだから♪」


 こいつは……。

 まぁ、とりあえずお菓子を少々いただき、テレビに視線を戻す。

 今日はこのままゆったりとしていようかな。

 そんなふうに考えていたのだけど。


 ……あれ?


 ふと視線を感じた気がして見回してみると、隠れて手招きしているプリンの姿が目に入った。

 おいおい、両親は出かけたみたいだけど、妹がいるときに一階に下りてくるなんて。


「さてと、仕方ないから勉強でも始めるか」


 わざとらしくため息をついてから立ち上がる。


「頑張ってね~」


 と言いながらパリパリ音を立ててポテチを頬張っている妹を残し、俺は居間をあとにした。



 ☆☆☆☆☆



「どうしたんだ?」


 部屋に戻るなり、プリンを問い詰める。


「うん、悪かったね。連絡が来たんだよ」


 そう言ってプリンは話し始めた。


 守護している相手に姿を見られてしまう妖精というのは、実は結構いるものらしい。

 その場合、通常は規定されている処置を実行するのだけど、中には悪質な状況もあるという。

 例えば、わざと見つかって守護している相手と仲よくなろう、なんて考えることが悪質と見なされるのだそうだ。


 そのため、そういう理由で見つかったのかどうかなど、様々な調査が行われる。

 だからこそ、調査に一週間もの時間がかかってしまうのだとか。

 今回のプリンに関しては、無事、わざとではないことが証明されたようだ。

 わざと姿を見られるのがそんなに悪いことなのか、俺にはよくわからなかったけど、妖精にとっては重要なことなのかもしれない。


「というわけで、通常どおりの処置になったんだ。といっても優歩にはわからないよね?」


 もちろんわからない。説明求む。


「ま、いわゆるボランティアというか、奉仕活動をして点数を稼ぐ、って感じだね。実際にポイント制になっていて、活動内容によってポイントが加算されていく。で、一定値を超えたら許されて、姿を消したりもできるもとの状態に戻してもらえるってわけ。連絡に使ってる通信機能を使って、ポイントを確認することもできるんだよ」


 プリンはそう言いながら、ポンポンとノートパソコン風の端末を叩く。

 ポイントって……なんだかゲームみたいだけど。

 それはいいとして、奉仕活動ってなんだろう?


「前にも言ったと思うけど、オイラたちみたいな存在の中には、人間を守っている妖精以外に、人間に危害を加えるような奴らもいる。悪霊と認識される存在のことだね」


 恐怖のドキドキ感を求めて、人間を脅かしたりする存在、ってことか。


「うん。オイラたちは、基本的にこの世界には不干渉が望ましいとされている。だけど、そいつらのせいで起こった事柄なんかは、この世界では自然ではないもの。大きな目線で見たら、オイラたちの世界全体としての責任ということになる。そういうふうに女王様は考えてるんだろうね」


 一旦言葉を切って、苺ミルクをすするプリン。

 昨日、ひとつだけじゃ足りないよ! というので、いくつかまとめて買わされたのだ。


「悪霊たちをどうにかするのも、妖精としての使命なんだよ。でも、通常オイラたちは人間に深い影響を与えたりはできない。ただ、こうやって姿を見られてしまって、姿を消したりできない状態になった場合は別なんだ。実際に物に触ったり、積極的に人と話したりもできるからね。

 だから、ついでというわけじゃないけど、悪霊退治の奉仕活動で普通の妖精にはできないことをやってもらおう、というのが処置の内容なんだよ」

「なるほど、大変そうだな。ま、頑張れよ!」


 と声援を送る俺に、プリンは事もなげにこう言い放った。


「なにを言ってるんだか。優歩も手伝うんだよ? オイラだけじゃ、この世界に不慣れなんだから、キミにもいろいろとやってもらわないと」

「おいおい、俺には特別な力だとか、そういうのはないんだぞ?」

「それはわかってるよ。でもね、キミたちから見たらオイラたちは普通ではない存在だろうけど、オイラたちからすれば、キミたち人間のほうこそ普通でない存在なんだ。そして、相手になる悪霊もオイラたちと同じ世界の存在。ゆえに! キミたちの存在自体が、ある意味『力』になるんだよ!」


 そういうものなのだろうか。

 とはいえ、俺はこれでも受験生なんだけど……。


「その辺りは、落ち着いてからにしたほうがいいだろうね。どちらにしても、奉仕活動の人員として登録済みの状況だし。オイラだけじゃなく、優歩もね。悪霊にはすでに目をつけられていると思っておいたほうがいいと思うよ」


 う……。なんか、ひどくないか?

 俺は静かで平穏な生活を送っていきたいのに。


「まぁ、ここは諦めて頑張ってよ。べつに悪いことばかりでもないんだから」


 ……どう考えても悪いことばかりのような気がするけど。


「ほら、言ったでしょ? 恋愛のドキドキがオイラのエネルギーになるんだって。悪霊を相手にするにも、エネルギーが必要なんだ。だから、キミは頑張って麻実子とラブラブになる必要があるんだよ」


 ラブラブって……。


「ドキドキの度合いがエネルギー量になるから、キミたちの場合、そばにいて話してるだけでもかなりのエネルギーになってるんだけどね。それはそれで初々しい感じでいいんだけどさ。でも、もうちょっと進展してもいいんじゃないかな?」


 プリンは俺をからかうようにニヤニヤ顔を向けてくる。

 ふん、悪かったな、奥手で。


「ドキドキしてさえくれれば、それでも構わないってば。ただ、そういう恋愛感情に関しては、オイラたちはあまり直接的な干渉はできないことになってるんだ。なるべく手を貸すようにはするけどね」


 そう言ってウィンクをする。


「とにかく、明日から活動開始だよ。情報収集はオイラがやるから、優歩はオイラの指示どおりにしてくれればいい。基本的には普通に学校に行って、放課後の時間で活動すればいいと思う。美化委員の見回りがあるのは、ちょっと厄介な気もするけど、エネルギーも大切だしね。ま、お互い頑張ろう」

「お……おう!」


 なんだか面倒なことになりそうではあったけど。

 でも、勉強だけしながら平穏無事に過ごしていく生活と比べたら、ずっと有意義かもしれない。

 プリンのエネルギーのためという口実のもと、麻実子ちゃんとも頻繁に話すことになるだろうし。

 もしプリンがいなかったら、俺はそこまで積極的になんてなれなかっただろう。


 とりあえず、明日からの今までとちょっと違った日々に思いを馳せつつ、今日の夜は受験勉強という普通でつまらない日常を過ごしておこう。

 そんな決意をして勉強の準備をしているその横では、プリンがふたつ目の苺ミルクを飲みながら、連絡用のチャットで情報収集とやらを始めていた。


「わわわ、優歩。ゴメン、苺ミルクこぼしちゃった。あとさ、お菓子もほしいんだけど。なにかないかな?」


 ……プリンがいる時点で、すでに普通でつまらない日常ではないのかもしれない。

 というか、こぼした飲み物くらい自分で拭いてほしいものだけど。

 俺は思わず深いため息を漏らしていた。


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