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妖精日和、カラメル気分。  作者: 沙φ亜竜
第2章 美化委員セレナーデ
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-7-

 それから毎日、俺は麻実子ちゃんとふたりで放課後の見回りを続けた。

 視線を感じると言っていたこともあり、周りに気を配りながらではあったけど、それでもふたりでいろいろな話をしながら、俺としては有意義な時間を過ごしていた。


 プリンは今までどおり、どこかに隠れて俺たちの様子をうかがっているだろう。

 ただ、周りも気をつけて見ておくようには言ってある。


 もしも誰かが麻実子ちゃんに危害を加えようとしているのであれば、近くに潜んでいるという可能性が高い。

 その場合、当然こちらに注目しているはずだから、違う目線から見ることのできるプリンの存在は有用だと考えたのだ。

 もちろん、杞憂であってほしいと願ってはいるのだけど。


 見回りをしている時間は、まだ部活などで残っている生徒も多い。

 ほとんどの先生がたが、職員室や他の場所に残っている時間帯だろう。

 それに加え、なにが楽しいのかよくはわからないけど、放課後に校舎内の散歩をしている神林とも、たびたび遭遇していた。


「神林はどうして学校内を散歩なんてしてるんだろ。麻実子ちゃんは知ってる?」

「え? う~ん、理由までは知らないかな。でも、小学校の頃からそうだったよ。一緒に行こうって誘われたりもしたんだけどね」


 麻実子ちゃんは苦笑を浮かべていた。


 普通、校舎内を歩くのは散歩とは言わない気がする。

 学校内でも、普段行かない場所とか開かずの間みたいな場所なんかがあったりすれば、探検といった目的で行ったりする人もいるかもしれないけど。

 神林の場合、そういう感じでもなく、校舎内をただ歩いているだけのようだった。

 いったいなにをしているのだろう。


 ともあれ、その理由を追求するつもりはなかった。

 真美子ちゃんとお喋りする話題にはなるし、今後もせいぜい神林のおかしな行動をネタにさせてもらおう、とすら考えていた。


 こうやって話していると、見回りの時間はすぐに終わってしまう。

 危険があるかもしれない緊張感は確かにあったものの、麻実子ちゃんと一緒にいられるという、俺にとって最高に嬉しいひととき。

 やっぱり楽しい時間は、あっという間に過ぎ去ってしまうもののようだ。


「それじゃあ、お疲れ様」

「お疲れ様。麻実子ちゃん、気をつけて帰ってね」

「うん、優歩くんもね」


 手を振り合ってそれぞれの道へと別れた。



 見回りを終えたあとプリンに尋ねてみたものの、怪しい人影を見たり感じたりはしなかったそうだ。

 プリンは妖精だから、なにか特殊な力が働いているとか人の憎悪の念だとか、そういったものも感じやすいのではないかと考えていたのだけど。


「べつにオイラたちも万能ではないからね。そんなに優歩たちと違わないんだ。それに、実体化して消えることもできなくなったオイラじゃ、なおさらだよ」


 そうつぶやくプリン。


 教室のゴミ箱にゴミが入っていたのはプリンがやったことだと、前にも聞いていけど。

 実はその他にも、妖精としての力を使って、少しだけ麻実子ちゃんを驚かせて俺にくっつくように仕向ける、といったことはやっていたらしい。

 いきなり廊下に猫が飛び出してきて、ぶつからないように飛びのいた麻実子ちゃんがすぐ横を歩いていた俺の腕にしがみついた、なんてことが確かにあったのを思い出す。

 そういうのは、グッジョブ、って感じなのだけど。



 数日間、こんな日々が続いた。

 でも、明日からはそれもなくなってしまう。

 ……とはいっても、たった二日間だけのことなのだけど。



 ☆☆☆☆☆



 というわけで、週末になった。今日は土曜日だ。

 学校が休みなのだから、美化委員の見回りだってあるはずがない。


 危険かもしれないという状況ではあったけど、麻実子ちゃんに話を聞いてみると、どうやら視線を感じるのは学校にいるときだけで、校門を出てから先はそんなことはないらしい。

 だから大丈夫だよ、と麻実子ちゃんは微笑んでいた。


 はぁ……。麻実子ちゃんに会えないのは、やっぱり寂しいな。

 かといって、どこか遊びに行こう、なんて誘えるわけもなく。

 そんなこんなで、家から出る予定のないつまらない一日が始まった。


「お兄ちゃ~~ん!」


 いつもながら、優佳がいきなり俺の部屋に飛び込んでくる。

 ノックくらいしろって散々言ってるのに。ま、言ったところで聞かないのはわかりきっているけど。

 プリンもすでに慣れたもので、素早く音も立てずにベッド脇の隙間に体を滑り込ませていた。


「なんだよ? 一応勉強中なんだけど」


 俺はぶっきらぼうに答える。

 それは本当だった。

 さすがに最近いろいろとあって勉強時間が減っていたため、土日でしっかり取り戻そうと考えていたのだ。

 他にすることが考えつかなかっただけ、というのもあるのだけど。


「まぁまぁ。息抜きも必要でしょ? ちょっと外の空気でも吸ってこない?」


 ニコニコしながら提案してくる優佳。


「う~ん、それもいいか。……で? なにを買ってきてほしいんだ?」

「わっ、さすがお兄ちゃん、話がわかる!」


 今までに何度同じようなことがあったかを考えれば当然の予測なのだけど。


「とりあえず、レモン味のキャンディーが食べたい! あとね、お母さんに頼まれてるから、歯磨き粉も買ってきてね!」

「ちょっと待て! 母さんに頼まれたのなら、お前が行けよ」

「え~? だってお兄ちゃん、息抜きに行くって言った~。ついでだし、いいじゃ~ん。ね?」


 優佳はそう言うと、俺の手を握ってくる。

 お金を握らせたのだ。


「ほらほら、ちゃんとお金出すからさ!」

「それは当たり前だ」


 こんな感じで甘やかしていいのだろうか、なんて思わなくもないけど。

 どうしても妹のお願いには逆らえなかった。

 プリンがジト目でこっちを見ていそうな気配を感じながらも、それじゃあ行ってくる、と部屋を出る俺だった。


「優歩って、ダメだなぁ、ほんと」


 プリンのぼやき声を無視しつつ、コンビニまでの道のりを歩く。

 今日は朝起きてから、食事を取ってちょっとのんびりテレビを見たあと、ずっと勉強していた。

 さすがに気分転換でもしようかと思っていたところだ。


 それに、お菓子類や飲み物の調達もしたかった。

 どうも俺は勉強中もなにか口にしながらでないと集中力が高まらないらしい。

 受験のときはそうも言っていられないだろうから、慣れないといけないとは思っているのだけど。


 ちなみに。

 コンビニに向かって歩いていく最中、プリンはしつこく苺ミルクも買ってよと駄々をこねた。

 うるさいし仕方ないので買ってやることにしたのだけど。やっぱり俺って甘すぎるのかな。


「あれ、優歩くん?」


 コンビニに着くと、自動ドアから出てきた女の子に声をかけられた。

 わっ、私服の麻実子ちゃんだ!

 思わず感動してしまう。

 中学に入ってから出会った俺としては、制服姿以外の麻実子ちゃんを見たのはこれが初めてだったのだ。


 水色のブラウスと白いスカートが春のそよ風に揺られて俺の目に爽やかに映り込む。

 高級な感じというわけではないけど、可愛いデザインで、春らしいセンスのよい服装だった。

 なんだか、仕草まで普段と違って見えるのが不思議だ。


 俺のほうはTシャツの上に薄手のジャケット、下はジーンズといういたってラフな格好だったから、ちょっと恥ずかしくも思えてくる。

 もう少しマシな服を着てくればよかったかな。

 と、それはともかく。


「麻実子ちゃん、あれから視線とかって感じてる?」


 俺は気になっていたことを尋ねてみた。


「ううん、大丈夫みたい。心配してくれて、ありがとう」

「そっか、よかった。今日はコンビニで買い物?」

「うん、そうなの。ちょっと、その……あはは、甘いものとか食べたくて……」


 苦笑を浮かべつつ手に持つ袋を少し掲げる。

 中まではよく見えなかったけど、たくさん買ったというわけではなく、デザート系とお菓子や飲み物なんかを少し買った程度のようだ。


 勉強中っていろいろ食べたくなるから、と弁解するようにつぶやく麻実子ちゃん。

 確かにそれには同意。だからこそ、俺も今ここにいるわけだし。

 妹に無理矢理押しつけられたお使いの用事もあるけど。


「あっ、私もお父さんのお使いを頼まれたのよ。DVD-R。コンビニってほんと、いろいろあって便利だよね」

「そうだね。名前のとおりだけど。でも、だからこそ手軽にお使いに出されるんだし、お互い大変だね。麻実子ちゃんのお父さんって確か、大学で教授をやってるんだっけ?」

「うん、そうなの。研究のバックアップを取るためにたくさん使うんだって。それなら大量に買っておけばいいのにね」

「買ってもすぐになくなっちゃうんじゃない? でも、研究かぁ。なんか、すごそうだね」

「あはは、どうなのかな。うちのお父さん、すごくのんびりした感じだから……」


 そのあと、もう少しだけ他愛のない会話を続けてから、麻実子ちゃんは帰っていった。

 さてと……妹に文句言われないように、俺も早く買い物を終わらせて帰るとするするか。


 それにしても、休日に麻実子ちゃんと会えて嬉しかったな。それだけで、ちょっと幸せな気分になれた。

 プリンは、もっと進展しなよキミたち、と言っていたけど。

 恋愛のドキドキがプリンのエネルギーになるというのなら、俺はもっと積極的にならないといけないのかもしれない。


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