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妖精日和、カラメル気分。  作者: 沙φ亜竜
第2章 美化委員セレナーデ
13/48

-5-

 そんなわけで、授業の時間はあっという間に過ぎ去った。

 とくに今は、なにかとちょっかいをかけてくるプリンもいるから、つまらない授業でも暇にはならない。

 もっとも、プリンがいなかったとしても、俺はちらちらと麻実子ちゃんを観察することに余念がないのだから、どっちにしろ時間はすぐに過ぎていくのだけど。


「さぁ~て、みなさん! 今日も一日お疲れ様~!」


 掃除を終えて綺麗になった教室で、相変わらずな甘野先生が今日も元気にホームルームを始める。

 ちなみに、美化委員の顧問ということもあってか、教室の掃除が行き届いていない場合には、結構目くじらを立てて怒ったりするから油断はできない。


「それにしても、春は暖かくて気分がいいわねぇ! 心も晴れやかになる感じ!」


 一日の終わりなのに疲れた様子もなく、爽やかな笑顔を振りまく甘野先生。

 晴れやかなのは、そのど派手なフリフリ衣装のせいもあるのではなかろうか。


「それなのに……」


 先生は突如として、表情を曇らせる。

 そして、


「あの校長ときたら、ちょ~っと汚れたところがあったからって、美化委員顧問のあなたがしっかりしていないからだとか、ぐちぐちぐちぐち文句を言ってきてさっ!」


 泣きそうな表情で、というか実際に涙でうるうるしながら訴えかけてきた。


「そういうわけで、美化委員のふたり、これから強化月間ってことで、毎日しっかりと見回りするように! お願いねっ!」

「はぁ……、わかりました」


 素直に返事をする麻実子ちゃん。

 俺としても、べつに異論はない。

 麻実子ちゃんと一緒にいられる時間が長くなるのだから、むしろありがたいくらいだ。


「あの……他のクラスの美化委員への連絡もしたほうがいいのでしょうか?」

「あっ、その必要はないわ!」


 麻実子ちゃんの申し出を、甘野先生はあっさり却下する。


「うちのクラスの担当部分だけは先にちゃんとしておけば、さすが美化委員の顧問が担任しているクラス、ってことで校長の印象もよくなるって寸法よ! う~ん、我ながらナイスアイディア!」


 クラスのみんなが、苦笑を浮かべていた。


「そういうわけだから、お願いね~! じゃ、今日は解散~!」


 先生はそう言うと、さっさと教室を出ていってしまった。


 さて、とりあえず見回りだ。

 ということは、またプリンには先に帰るフリをしてもらわないといけないことになる。

 一緒に見回りに行ってもいいのかもしれないけど、俺としては言うまでもなく、麻実子ちゃんとふたりきりになりたいのだ。


 どうせプリンは、どこかの物陰から俺たちの様子をのぞくだろうし、ふたりきりとは言えないのかもしれないけど。

 まぁ、気分的な問題だな。


 プリンにそう素早く伝えると、素直に頷きカバンを手に取る。

 それと同時に、麻実子ちゃんが俺のそばまで歩み寄ってきた。


「それじゃあ、行きましょう……優歩くん」


 クラスメイトもまだ残っていたため、ちょっと名前を呼ぶ声だけ小さくなってはいたけど。


「うん、行こう、麻実子ちゃん」


 席を立ち、麻実子ちゃんを促して歩き出そうとする俺に、茶々を入れる声が……。


「ほれ、そこで手をつないで!」

「余計なことは言わなくていい!」


 言うまでもなくプリンだったわけだけど。


「ちぇ~っ! ま、オイラは帰るから、おふたりさん、頑張ってね!」


 軽やかな足取りで、長い髪を揺らしながら教室を出ていくプリン。

 もちろん教室を出たらすぐ、どこかに身を隠すのだろうけど。

 もし誰かがこそこそ隠れているプリンに気づいたら、どう考えても不審者としか思わないだろうなぁ。


 ともあれ、ふたりきりの時間のためだ。許せ、プリン。

 そっちもある意味、頑張れよ。


「……それじゃあ、頑張って見回り、行きましょうか」


 プリンが言った「頑張って」は、別の意味だったと思うけどね。

 心の中でつけ加えつつ教室を出る。

 さあ、麻実子ちゃんとともに過ごす時間の始まりだ。



 ☆☆☆☆☆



「それにしても、甘野ってすごいよね」


 俺はそうつぶやく。

 本人がいる目の前で呼ぶ場合なら「先生」とつけるだろうけど、生徒同士で話すときには教師は呼び捨てにするのが普通だった。


「うん。もうこのクラスになって一ヶ月くらい経つけど、まだ慣れないよ。あのフリルの服には慣れてきたけど」


 苦笑を浮かべる麻実子ちゃん。

 俺たちは最初の見回り場所、家庭科室に入りながら会話を続けていた。


「校長には怒られてるみたいだけどね。それでも、衣装だけは絶対に変えようとしないのって、やっぱりこだわりなのかな?」

「そうね。可愛くていいと思うんだけどな~、私は」


 そう言ってにっこりと笑う麻実子ちゃんのあまりの可愛さに、恥ずかしくなって思わず目を逸らしてしまう。

 と、逸らした視線の先に、風で揺らめくカーテンが見えた。


「あ……窓開いてるね。閉めてくる」


 すかさず窓のそばまで駆け寄った麻実子ちゃんの短めの髪を、そよ風がなびかせる。

 窓を閉めると、当然風も止む。

 ただ、微かに乱れた髪を整える麻実子ちゃんのちょっとした仕草も、俺の心にほのかな温かさを与えてくれるようだった。


 俺は視線を合わせるのも恥ずかしかったため、麻実子ちゃんがこちらに向き直る前に、ゴミ箱のチェックへと回る。

 うん、ゴミはない。


「家庭科室はこれで大丈夫だね」

「うん、そうね。でも、見回りに来てよかったよね。もし開いたままだったら、先生がまた怒られちゃうところだったかも」


 甘野先生のことなら、心配しなくてもいいとは思ったけど。

 たとえ怒られても、絶対にめげないだろう、あの人なら。


「あっ、麻実子発見! おやおや? 名取もいたんだ。……ああ、そっか、美化委員の見回りだっけね。ご苦労さん!」


 突然、そうやって明るい声を上げながら近寄ってきたのは、麻実子ちゃんの友人、神林梨乃(かんばやしりの)だった。


 麻実子ちゃんの前の席に座っている神林。よく後ろを向いて話している姿を見かける。

 俺の席から見えるのだから、反対に後ろを向いて麻実子ちゃんと話している神林には、俺の顔が丸見えということにもなる。

 斜め方向に位置しているおかげで、意識して見ようとしない限りは、気にも留めない可能性は高いと思うけど。

 それでも、もし神林が視線を移動させたら、俺が麻実子ちゃんをじっと見つめていることにも簡単に気づかれてしまうだろう。

 その点では、ある意味、敵とも言える存在だ。


「梨乃、なにしてるの? こんなところで」


 ここは家庭科室から音楽室へ向かう場合に最短距離となる階段なのだけど、通常そのふたつの教室を行き来することはない。

 そのため、校舎内でも極端に人気(ひとけ)がない場所となっていた。

 時間によっては、授業をさぼった生徒なんかが、ここら辺にいたりすることもあるらしいけど……。

 今はすでに放課後だから、そういった生徒がいるはずもない。


「校舎内の散歩をしてるのさ!」


 神林は、胸を張って堂々と答えた。

 散歩って……。

 校舎内じゃなくて、外のほうがいいのでは。


「……名取、なにか言いたそうだね? 人の趣味に、とやかく言わないでほしいなぁ」


 べつになにも言う気はなかったのだけど。

 俺は麻実子ちゃんのほうに視線を向けて助けを求める。彼女は苦笑を浮かべていた。


「梨乃~、優歩くんはべつになにも言ってなかったよ~」


 麻実子ちゃんは若干呆れた様子ながらも、友人をなだめようとする。

 その言葉に、神林は別な方向から食いついてきた。


「うわうわうわっ! 優歩くん、だって! きゃ~~~っ! 麻実子ってば、いつの間に名取とそんな仲になったの!?」


 黄色い声を上げ騒ぎ立て始める神林。

 困り顔の麻実子ちゃんを、必要以上に攻め立てている。


「も~、親友のあたしにすら内緒でつき合ってたなんて~! あ、そっか、ここに来たのってそういう……きゃ~~~っ! そっかそっか、そうなんだ~~~!」


 なんだか、ひとりで盛り上がってますよ? この人。


「ちょっと梨乃ぉ~! そういうのじゃないってば~。ここだって本当に見回りで通りかかっただけなんだよ~」


 麻実子ちゃんは真っ赤になって反論している。

 ともあれ、つき合ってるなんて言われて、俺としては悪い気はしなかったのだけど。


「はいはい、わかったわかった」


 神林はニヤニヤしながら、そんなぞんざいな対応をする。

 全然わかってないだろ、キミは。

 なんて考えながらも、友人同士の微笑ましいやり取りを見て、心和ませている俺だった。


 神林はひとしきり、麻実子ちゃんをおもちゃにするかのごとくからかっていた。

 やがて、飽きてきたのか、神林は「ふぅ~っ」と大きく息をつく。


「さてと、あたしは散歩の続きでもしようっと。んじゃ、またね、おふたりさん。……麻実子、頑張ってね!」

「うん、見回りの続き、頑張るね」


 そう言葉を交わすと、神林は去っていった。

 麻実子ちゃん、神林の言った「頑張って」も、別の意味だったと思うよ。


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