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妖精日和、カラメル気分。  作者: 沙φ亜竜
第2章 美化委員セレナーデ
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-2-

 プリンは相変わらず腕を絡めてくる。

 振り払うと怒鳴りつけてくるだろうし、周りを気にしながら仕方なく静かに登校する。


 そのうち絶対誰かに見られるだろうな……。

 噂になったらやっぱり困るよなぁ……。

 もっとも、たった一日にして、「仲がよすぎるほどべったりしすぎな、いとこ同士」なんてクラスメイトに言われていたのだから、今さらという気もするけど。


「おい、優歩!」


 背後から声がかかった。

 むっ、この声は。


 振り返ると、背がすらりと高く、少々たれ気味ではあるけど切れ長の目をした、爽やかな笑顔が似合う男が立っていた。


 桑島宵夢(くわしまよいむ)。こいつとは小学校に入学してから中学二年生までのあいだ、ずっと一緒のクラスだった。

 ここまで腐れ縁が続くと、お互いのこともさすがによくわかってくる。

 今でこそクラスは違ってしまったもの、一番気の知れた友人と言えるだろう。親友と表現してもいいくらいだ。


 爽やかで結構カッコいい上に、宵夢は俺と違って女の子とも積極的に喋れる。

 だから結構人気もあるらしい。

 目つきの悪さのわりに積極性に欠けると言われるような俺にしてみれば、ちょっと悔しいというか、うらやましく思っている部分だった。


「あっ、宵夢。微妙に久しぶりだな。また女の子追いかけるのに忙しかったのか?」

「こらこら、人聞きの悪いことを言うな。最近は部活が忙しくてな。春の予選も近いし、気合いを入れて練習してるんだよ」


 宵夢は爽やかな笑顔を崩さすに訂正してくる。


 こんなに爽やかな容姿だけど、実は体育会系で、空手部所属だったりする。

 それほど強そうには見えないのだけど、どういうわけか、県大会で上位に進出するほどの実力の持ち主だ。

 顔に似合わず負けず嫌いで、さらに上を目指して特訓だ! なんて去年も言っていたっけ。


 三年生となった今年は最後の大会となるため、とくに気合いが入っているようだ。

 空手の全国大会は夏休み中に行われることになるけど、県ごとの予選会は五月末にあるのだとか。


「へ~、頑張ってるんだな」

「当たり前だ。……と、そんなことより」


 宵夢が視線を俺から逸らし、俺の陰に隠れるようにして警戒しているプリンのほうへと向けた。

 プリンは普段の調子とは違って、人見知りしているような雰囲気だった。

 そんな恥ずかしがり屋な性格でもないと思うのだけど……。


「それが、例のいとこの子か。確かに噂どおり、随分と仲がよさそうだな」


 そう言うと、宵夢は無理矢理俺の腕をつかんで引っ張り、その腕に絡みついていたプリンを引き剥がす。

 そのまま、プリンには聞こえないように俺の耳もとまで顔を寄せてくると、こう言った。


「麻実子ちゃんは、どうしたんだよ?」


 その声には、若干の怒りもまじっているように思えた。

 爽やかさを売りにしている宵夢にしては、かなり珍しいことかもしれない。


 中学一年の頃、俺と同様、麻実子ちゃんと一緒のクラスだった宵夢。

 明るく背も高くスポーツも結構できる宵夢は、クラスの女子にも人気があった。

 そして、二学期が始まって少し経った頃だっただろうか、クラスでも可愛いと評判の子から告白された。


 そのままつき合ったりするのかな、と思っていたのだけど、宵夢はきっぱりと断ったそうだ。

 好きな子がいるんだ、と。


 その宵夢が好きな子というのが、よりにもよって麻実子ちゃんだった。

 俺も好きなのだから悪い言い方はしたくないけど、クラスの男子の評価では、おとなしくて地味な感じの目立たない女の子だというのに。


 そりゃあ、好きになるのに明確な理由なんて必要ないとは思うけど。

 でも俺としては宵夢がライバルだと、舞台に上がる前から負けているような気がして心底嫌だった。


 その後、積極的な宵夢は麻実子ちゃんを呼び出して告白したらしい。

 結果……ふられた。


 麻実子ちゃんはひと言、ごめんなさい、とだけ答えた。

 続けて繰り出された「好きな人がいるのか?」という問いにも無言だったという。

 さらに宵夢は、「優歩か?」とも訊いたようだ。


 そんなことを訊くなよ、とは思ったけど。

 ともかく、そう訊かれた麻実子ちゃんは、変わらず無言だった。

 だけど宵夢は、最初の答えとは明らかに違った雰囲気を感じたのだとか。


「本人が言ったわけじゃないが、彼女はお前に好意を持ってるはずだ」と宵夢は語る。


 俺は、麻実子ちゃんが好意を持ってくれているかまではわからないけど、少なくとも嫌われてはいないはずだし、一緒に話していられればそれで幸せだから今のままでいいや、なんて思っていた。

 余計なことを言って今の関係を壊したくないのだ。

 ……自分でも臆病なだけだというのは、重々承知しているけど。


 それが宵夢には許せないみたいだった。

 宵夢は麻実子ちゃんにふられてから、当たって砕けろ! と言いたげな目で俺を見るようになっていた。

 一方の俺は、砕けたくないし、と思うばかり。

 結局そのまま、麻実子ちゃんとは以前と変わらない微妙な距離感を保ち続けている。


「プリンは単なるいとこだってば! くっついてくるのは、昔からだし、仕方ないだろ!」


 過去の記憶を頭から振り払い、俺は強めの口調で宵夢に反論した。


「それもちょっと納得いかないんだよな。ずっと一緒のクラスだったのに、いとこの話なんて聞いたこともなかったぞ?」


 うっ……鋭いな。

 まぁ、長年一緒にいたのだから、それくらいは感づかれてしまうのも当然か。

 とはいえ、本当のことを話してしまうわけにもいかないし、ここは嘘をつき通すしかない。


「だって、いとこの女の子がべたべたくっついてくるだなんて、恥ずかくて言えないだろ?」

「そうか?」


 疑いの眼差しを向けられているように思えて、内心焦ってしまう。

 とりあえず、さらに反撃しておこう。


「……お前に女の子のいとこの話なんて、できるわけないだろ~? しつこくいろいろと訊いてくるだろうし、紹介しろとかまで言い出しそうじゃん!」

「むっ……。お前、親友の俺のことを、そんなふうに思ってたのか?」

「もちろん」


 きっぱり言い放つ。


「……ま、いいさ。大切ないとこ、ってことだな。よくわかった」


 本当にわかってくれたのだろうか?

 微妙になにか含みのあるような口調だった気がしなくもなかったけど。


「最後にひとつ聞かせろよ。麻実子ちゃんのことは、今でも好きなんだな?」

「……うん」


 なんだか宵夢が相手だと、不思議と恥ずかし気もなく本心を口にできてしまう。

 やっぱり、俺にとって宵夢という存在は、クラスの離れた今でも変わらず親友のままなのだ。

 そんな思いは宵夢のほうも同じなのだろう。

 爽やかな笑顔に戻った宵夢は、


「わかった。頑張れよ、優歩」


 とだけ言うと、訓練も兼ねているから、と断って走って先に行ってしまった。


「宵夢も、大会頑張れよ~!」


 遠ざかる親友の背中に向かって、俺は大きな声援を送った。


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