周美美という女
「霊でもお腹減らすんだね」
和華子はまず、遊園地の中にあるレストランに行こうと米山を誘った。
米山はレストランの辺りに金縁眼鏡の店長がいないことを確認して一人呟いた。
「まさか、昼飯は普通の値段だろうな……」
米山はレストランに入るなり、後ろからウエイトレスの女性に声をかけられた。
「あんた! あんた、何ばしよっとね!」
米山はその声に敏感に反応し、急に明るい表情になって勢いよく振り向いた。
「メイメイ! メイメイじゃないか! おまえこんなところにいたのか!」
……メイメイ? 中国人? もしかして彼を愛で救ったという通訳の女? でも、何か日本語ヘンじゃない? ……
その『メイメイ』と呼ばれた女性がさらに言う。
「こないに可愛か女子ば連れようて……。うち、ほんなこつ悲しかあ!」
……これって、博多弁か何かじゃないの? なんで? ……
米山とメイメイはその場で抱き合った。
「和華子。こいつが話していた日本語の通訳だ。僕を救ってくれた……。紹介しよう。周美美だ。メイメイ、この子は里藤和華子。まだ高校前の子供だよ」
メイメイは怪訝そうな目をして、和華子の周りをゆっくりと回り、舐めるような視線を注いだ。
「ライス。手ば出したらいけなかよ! まだ子供じゃっけん」
和華子は上目使いにメイメイを見ながら小声で主張した。
「あの。私もう大人です。大人になりました」
米山が慌てたのは言うまでもない。
「おい! おまえ、何てことを! まるで俺が君を大人にしたみたいな言い方しやがって!」
「だって、そうだもん。ライス。夕べ、私のこと可愛い可愛いっていっぱい、あちこち撫でてくれたじゃないのよ」
「おっ、おまえ、言うにこと欠いて、違う違う! メイメイ! 違うんだ!」
メイメイの髪の毛がみるみる逆立っていくように見えた。
「おい!ライス! どん面さげてうちとこ来よっとね!!」
「ひっ、ひいいいいい」
ビリビリビリビリ…………グワシャーン!…………
……ヘンな中国人だわね。ホントにライスのこと愛で救ったようには見えないけどなあ……
そのあと和華子はレストランで三万円のフルコースをいただいてすっかり満腹になった。
その間、米山は『食欲がない』と言って、メイメイの出したぬるい水を時々すすっていた。
「和華子。何だか目が半分見えないよ。僕の顔どうにかなってる?」
「ん? ああ、海老蔵状態になってるよ」
「病院行った方がいいかな」
「嫌よ。廃墟の病院だけは怖すぎ! ライス一人で行ってくれない?」
「冷たいなあ。もういいよ。おまえとはもう一生遊んであげないからな!」
途端に和華子の顔は泣き顔になった。
「ライス! ライス! ううう……」
やっぱりまだ、和華子は子供のようである。