こわ~いお買物
米山が廃墟になっていると言ったその店は、洞窟から寺と反対側へ山を降りたさびれた商店街の中にあった。しかし見た目は全然廃墟ではない。小綺麗な洋品店が二軒、軒を並べている。
「君の霊力で当時の立派な店になっているんだよ。店員は皆、地縛霊だ。成仏できない霊は地縛霊といって、普通は同じ場所にいて遠くに動き回ることはないんだ。逆に動き回る霊は浮遊霊といって、すでにあっちの世界に逝った霊がこの世に姿を現すものだ。浮遊霊は人に悪さをしない」
「私は浮遊霊なの?」
「いや、地縛霊さ。人に悪さすることはあるけど、すげえパワー持ってるやつだ」
「でも私、勝手に動いちゃってるじゃん」
「はは。君は変わってるからね」
……変わってるから? その通りだけど全然説明になってない! ……
「いらっしゃいませ」
美しい店員がにっこりと微笑んだ。
「ああ。パンツくれないか。この子のパンツ」
美しい店員の表情は一変して不愉快そうになった。
「こちら、インナーショップですので、パンツ(語尾を上げる)は扱っておりません」
米山も負けじと言う。
「パンツ(語尾を下げる)だよ。パンツ。ああ、そうだ。シリの全部見えるやつはないか」
美しい店員の表情はみるみる変わって口角が段々と裂けていくように見えた。和華子は慌てて二人の会話に割って入った。
「あの。ブラとショーツが欲しいのですが……」
美しい店員の口がもとに戻った。しかし、米山の言葉が消えかけた火にまたぞろ油を注いだ。
「そうそう。ショーツは生シリの全部見えるやつね」
今度は美しい店員の前歯が牙に変わっている。
「ムキッ! もしかしてハンガータイプのことですか?!」
牙をむいた美しい店員は一枚のショーツを引き出しから出してきた。
「ラ・ペルラのハンガーです。八万五千円になります」
「ゲっ! ドラム式の洗濯機が買えるぜ!」
今度は米山の表情がさっと変わった。
米山の表情を見て、美しい店員の姿が急に店長らしい紳士風で金縁の眼鏡をかけた男の姿に変わった。
「当店は商品の代金分の金銭を貸し付けております。年利率は特別に二百%で結構です。どうぞご利用下さいませ」
和華子はインナーショップとその隣の洋品店をはしごして、上から下まですっかり綺麗な衣服に着替え、『次は廃墟の遊園地に行かない? 』と米山におねだりした。
米山は、頭を垂れながら、とぼとぼと和華子の後ろに付いて歩いていた。
遊園地の入口には、入園料大人一人十万円と書いたプレートがあり、その脇には先ほどのショップにいた金縁眼鏡の店長が立っていた。