身も心も……
寂しくてたまらなかった和華子は、とうとうその男と一夜をともにした。
今春高校生になるはずの和華子は初めてその男に身も心も全てを委ねてしまったのだ。
その男の名は米山英悟という。
彼は小説家を目指していて、過去一度文学誌の運営する企画に応募し最後まで入賞の選考に残っていたが、選考寸前のところで一人の心無い審査員の『これは小説としては群を抜いているが、児童に与える影響が心配される』の一言で落とされたのであった。
その一篇に全ての望みをかけていた彼は酷く失望し、食事も喉に通らなくなり、そのまま死に至るような状態だったという。
「その時のことは自分でもよく覚えていないんだ」
しかし彼は現に今、和華子の目の前にいる。立ち直って生き返ったのだ。米山は大きく息を吸い込みこう語った。
「意識がもうろうとしていた中で、僕に生きる力を与えてくれた人がいた。当時、中国から日本語の通訳として来日していた一人の女性だ。その人は僕のことをこよなく愛してくれた。僕は彼女の愛に救われたんだよ」
「ふうん……」
和華子はその話を聞いて、心の中にその中国人女性に対し嫉妬している自分を発見し、思いもかけず彼への思慕を自覚することになった。
彼女は一夜にして米山に心奪われてしまい、今後彼のもとを離れることができそうになくなってしまっていたのだ。そして、もっともっと彼の話を聞きたくなってきた。
まずはおねだり作戦だ。
「ねえ、私に服買ってくれるっていったでしょう? ジャージじゃなくってもっとちゃんとした可愛いワンピかなんか買ってよ。あっそうそう。血がいっぱい付いちゃったから、インナーも買ってくれない?」
「インナー?」
「やだ。肌着のことよ。小説家がそんなことも知らないわけ?」
「いやいや、よし。まずそのインナーから買いに行こう」
……しめた! 餌に食いついてきたぞ! ……
「君は霊だから普通の店には行けないな」
「ええ? そうなの?」
「すでに廃墟になってしまった店に行くんだよ。そこには、僕の知っている『霊』の店員がいる」
和華子は一瞬背筋がぞくっとした。
「やだ。怖いよう。米山さん」
「阿呆! お前の方が怖いんだよ。あと、俺のことは『ライス』って読んでくれていいよ。『米』のライスだ。ちょっとカッコイイだろう。はっは」