無縁仏
神奈川県某市の市街地郊外にある山寺。
急な階段を数十段上がったところ、山の中腹辺りに寺の所有する納屋があり、そこには多くの『無縁仏』の遺骨が保管されている。
身寄りのない、遺骨の引き取り手の全くない者が亡くなった時に、公費でお経をあげ火葬されて、そこへ保管されているのである。無縁仏であるから、普通いくら待っても遺骨の引き取り手が現れることはない。寺が存在する限り、これらは埋葬されることなく保管されたままとなっている。何十年も経った遺骨は散骨されることになっているが、年数の管理が世代レベルなため、世代を超えて管理することは困難であり、このため一般的には歴史の旧い寺院ほど無縁仏の遺骨は多くなっている。その骨が将来どうなるのかは誰にもわからない。生きている者はこれらを意味なく保管し、次の世代へと引き継いでいく。
和華子は気が付くとその山寺の本堂の中央にただずんでいた。
……あれ? ここはどこだ? 私はどうしたの? ……
その時の和華子の姿は、崖の上から落下して服がぼろぼろになった状態だった。しかも衣服のいたるところに血のりがべっとりと付いている。動く度に体のあちらこちらで痛みが走る。和華子は誰もいない静まりかえったお堂に立ったまま、あれこれ考えをめぐらして、自分なりに一つの結論らしきものを導いた。
……そうか。私は崖から落ちて死んだんだ。それで、死に方が悪かったからあの世に行けずにここにいるんだ……
……私って死んでもやっぱりまともじゃないのよね……
和華子は寺を出てしばらく山の中を歩いた。そして、大きな洞窟を見つけると自然と体が吸い込まれるようにそこへ入って行った。洞窟の中は少し暖かかった。すでに日が暮れかかっていたので、そこで和華子は今晩睡眠をとることにした。
……霊だって疲れるもんね。だからね。眠るワケよ。そうそう……
和華子は自分勝手に納得し、ほどなくして深い眠りについた。