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大空の彼の元へ

 朝になった。

 山の頂から見える地平線からは朝日が顔を出していて、一面に輝くような陽が差していた。


 がさがさがさ。ばさばさばさ。

 本堂の方から異様な音が聞こえる。

 和尚は不思議に思い、本堂に行った。ふすまを隔てた脇の部屋から、けたたましい羽音が聞こえる。和尚はふすまを開けてみてその光景に仰天しひっくり返った。


 その部屋にはぎっしりと鶴、そう、本物の鶴が羽根を羽ばたかせていた。その部屋から廊下、廊下から裏庭へと続き、延々と鶴が連なり羽ばたいている。

 先頭の一羽が大きな鳴き声をあげたかと思うと、鶴たちは一斉に本堂へ走りこんできた。それらは本堂に横たわる和華子の亡骸を幾重にも取り囲み、数羽ほどが彼女を器用に羽根に乗せ、本堂から一気に助走をつけて空へと飛び発っていった。後に続く鶴たちも次から次へと本堂から飛び立っていく。

 

 和華子を乗せた鶴たちは遥か地平線の彼方へ飛んでいった。おびただしい数の鶴たちが連なって大空を飛んでいく。すさまじい光景。まさに正真正銘の『千羽鶴』だ。

 飛ぶ鶴の上で和華子の目は開いていた。生きている筈はない。しかしその目はしっかりと見開かれていた。


……あれえ? 私、飛んでる。大空を飛んでるよ! ああ、富士山だあ。私、富士山見下ろしてるよう……

……へへーん! みんなざまあみろい。私、飛んでるぞう! 今年の抱負、抱負実現だよー! ……


 前方、雲の中から別な鳥の群れがこちらへ向かってくるのが見えた。何だろう。


……えええっ! ペッ、ペンギンの群れ? ペンギンが空飛んでる。ウッソー! ……

 先頭の大きなペンギンの背中には見覚えのある女性が乗っている。


「あっ、メイメイ! メイメイでしょ? あなた何やってるのよう!」

「おーい。あんたこそ、何ばしよっとう!」

「あんたも死んでたのかあ。ははは。廃墟にいたもんね。みーんな一緒だ。あはは」

 和華子の額は朝日を受けて光輝いている。そして瞳も。


 メイメイは何故か色鮮やかな黄色の靴を履いている。そして空の上で彼女はその靴を脱いで和華子に手渡した。

「これ、履きんしゃい。もうあんた、ライスから離れられんよ」

「ほんとに?」

 メイメイはにこにこしながら、「あんたには負けたばい。いんや、あいつにはもう興味、のうなったとね。じゃけんあんたに譲っちゃるけん」

 気が付くと靴が独りでに和華子の足にまとわりつき、彼女は黄色い靴を履いていた。そして、彼女を乗せていた鶴が大空の中へと離れていった。

…飛んでいる。飛んでいる。私、一人で大空を飛んでいる。朝日に向かってまっしぐらだあ! ……


 日本アルプス連峰、大きな山々のそのまた向こう。大きな川が見える。そのまた向こうには大きな海が見える。日本海? いえいえ、水平線が見えなくなって海が空へとつながっていく。

 和華子は一層スピードを増して天まで昇る、昇る。そしてまた昇る。


……この先に彼がいる。ライスがいる。今から行くからね!! ……

……ありがとう、ありがとう。私、ライスと結ばれる……


 突然、かつて彼とイタリアンレストランでデートした時に聞いた、あのメロディーが聞こえてきた。

……そう、たしかチューリップっていうグループの歌……

……たしか、『魔法の黄色い靴』、だったっけ、かな?……

 お陽様の方から聞こえる。そしてどんどんはっきりと大きな歌声になっていく。


君、僕の靴をすてて逃げて走っても

ほらね、僕の靴は君をつれてくるよ

君は知らない、僕の黄色い靴を

だから君はもう僕からかくれられない


大きな海を川を越えて

僕のちっちゃな(ちっちゃな)家まで

帰ってくるう~!!


0h、そうだよ!

誰にもあげない魔法の靴さ


0h、そうだよ!

誰にもあげない魔法の靴さ


0h、そうだよ!

誰にもあげない魔法の靴さ


0h、そうだよ!

誰にもあげない魔法の靴さ


<了>

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