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千羽鶴

……私は崖から落ちて、一命を取り留めた。助けてくれたのはライスだったのかも知れない。そうだ、そうに決まっている……


 和華子は今となってはそう思うことしか自分の気持ちを支えるものがなくなっていた。


……また、この世でたった一人になっちゃた……


 さらに和尚は、和華子にとって最も耐え難いことを伝えた。

「米山の霊はついに成仏為された。お嬢を『女』にして、此岸しがんの未練を払拭したようじゃ……。のう、お嬢。これより御仏みほとけはお嬢とは棲む世界が違うのだ。冥福を祈り続けることこそが、お嬢の為すべきことなのだ」

 万人の涙は悲しみのストレスを解消するために流れるという。しかし、夜を徹して泣き続けた和華子にはもう流す涙すらなかった。彼女はその日から食べることを止めた。彼女には米山と同じ末路をたどる覚悟があった。そして、彼女は和尚から譲り受けた経典の冊子を一枚ずつ切り離し、その日から本堂の片隅でひたすらに千羽鶴を折り始めた。


 和華子の祈りはただ一つ。 

 あの世で米山に会い、そして結ばれることだけだ……。


◆◇◆


 和華子は日が落ちると表の厠へ行き用をたし、傍らの古井戸で水を飲み本堂へ戻ってくる。

 それから何かにとり憑かれたかのように、一心不乱に鶴を折り続ける。眠ることも食べることもしない。いったい何日経ったかも彼女自身わからない。

 和尚は和華子のことを心配して、粥などを差し入れてくれたが、和華子が口にすることはなかった。

 和尚は驚きの目をもって彼女の姿を見ていた。

……お嬢は、即身仏にでもなるつもりなのか ……


 和華子は鶴を折り続けた。そしてとうとう千羽目を折り終えると、和尚の肩を借りながら納屋へ降りていき、それを無縁仏、米山英悟の遺骨にかけた。


◆◇◆ 

 

 その翌日、和尚が納屋を覗いた時、米山の遺骨にかけた筈の千羽鶴がなくなっていた。和尚は納屋の中を探し回ったがもともと探すまでもない。折鶴は一目で判るほどのかなりの量であった。

 和尚は訳がわからずにぼうっとしながら本堂へと戻った。そこには、床に横たわる和華子の姿があった。和尚がこれに駆け寄り抱き起こすと、彼女は僅かに微笑んだようにも見えた。


 そして……。


 とうとう和華子は絶命した。今度こそ本当の最期であった。


 和尚は彼女の安らかな表情を見て、明日の朝まではそこで横にしておいてあげることにした。

 米山の遺骨のある寺。その寺の本堂で、和華子は哀しくも短い人生を閉じた。

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