山寺の和尚
和華子はふと回想した。
遊園地に行って米山がメイメイに『ぼっこぼこ』にされた際、和華子が廃墟の病院には行きたくないと言ったら彼は『廃墟』を否定しなかった。この世の人間であれば自分の怪我を治療するのに廃墟の病院に行く必要がない。いや、そこで治療は無理だ。
……もしかして、ライスは私と同じく『霊』の存在なのかも知れない……
こうなれば、もう、そうあって欲しいという願望が彼女にそう思わせたのかも知れない。
和華子はそう思い込むと、いてもたってもおられず、米山のいる寺へと足が向かっていた。
がらんとした本堂には寺の住職のような年配の男がお経をあげていた。
読経がひと段落して和尚はゆっくりと立ち上がり、和華子の方に体を向けた。最初から彼女がいることを知っていたかのように……。
「何用かな、お嬢」
「……あの……。こちらに米山英悟さんという方いらっしゃいますか?」
「おらん」
「嘘です」
「おらん!」
「いえ、います」
「おらんと言っとろうが」
「嘘つき! 嘘つきいーーー!」
和尚は諦めたように庭の方を見ながら、そして言った。
「無縁仏じゃ。この山の下の家で三年前に亡くなった。発見された時には過度の栄養失調だったそうな。遺骨はこの寺で所蔵している」
……ええええっ! やっ、やっぱり彼は亡くなっていた!!……
衝撃的な事実ではあったが、彼女は何故か冷静だった。
「あのう。どうしても彼に会いたいのですが、どうしたらよろしいでしょうか」
和尚は和華子の言葉に首をかしげた。
「何を? 死んだ人間に会いたいだと? そんなことができれば、我等仏に仕える身の者など要らんというものだ」
「ええ。私も生身の人間でないことはすでにお分かりの通りです」
「お嬢。何のことじゃ。おまえは気がふれておるのか」
「いいえ」
「いやおかしい」
「いいえ。おかしくありません!」
「絶対おかしい!」
「おかしくない! おかしくなーーーい!」
和尚は再び諦めたように庭の方を見ながら、しかしきっぱりと言った。
「おまえは死んでなどおらん。飯も食うし、糞もする。立派なこの世の人間じゃ」
……下品なヤツ! それで仏に仕える身だなんて! えっ、ええええっ! 今度は私が生きている?!……
和尚は突然和華子の方へ寄ってきて、彼女の頬をぴしゃりと叩いた。
「痛っ!」
「ほうれみろ。霊が『痛っ』とか言うものか! 目を覚ますのじゃ!」
続けて和尚は和華子の尻をぺんと叩いた。
「あっ! やだ! エッチ!」
「ほうれみろ。霊が『あっ! やだ! エッチ! やだ~~ん』とか言うものか! 目を覚ますのじゃ!」
……『やだ~~ん』なんて誰も言ってないよ! ……