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公爵令嬢と聖女の密約——断罪されるのは、あなたたちのほう  作者: Vou
第一章 王都の繁栄と辺境の動乱

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第五話 公爵令嬢クローデリア、王子と騎士

 秘密——公爵家に生まれ、エリシアのような過酷な人生を送ってきたわけではもちろんないが、クローデリアにも秘密と言えるようなことはあった。


 ただ、それを友人になったばかりのエリシアに話すような気分にはならなかった。


「……そんな大した話はできそうにないわ」


 クローデリアは申し訳なさそうに言った。


「公爵令嬢様ともなれば、私みたいにひどい目にあうことはなかったでしょうね」


 そう言われてクローデリアは少しむっとした。

 エリシアはどこか妬みのようなものを感じているのだろうか。

 クローデリアは、この「辺境の平民」出身の聖女に後ろめたさを感じ始めてもいた。何よりエリシアが「恩人」であることは間違いないし、自分が聖教会の下劣な司教や神官と同じように思われるのは不本意だった。


「あなたの境遇には同情するわ……。確かに私にはそこまでのことを経験したことはない」


 エリシアはいたずらっぽい笑みを見せた。


「それでもあるんでしょう? クローデリア、あなたにも抱えている秘密が」


 エリシアの目を見ていると、クローデリアはすべて見透かされているような気がした。——相手の心を見透かす光属性魔法なんてあったかしら。


「ご存知のとおり、私はレーヴェンハイト公爵家に生まれて、何不自由なく育ってきたわ。取り立てておもしろいこともないわ……」


 そう言ってから、クローデリアははっとした。——エリシアは気を悪くしないだろうか。

 しかし、エリシアは構わず質問を始めた。


「お友達はどんな方がいらっしゃるの?」


 友人……クローデリアにとって友人と呼べるほどの人はそれほど多くはなかった。クローデリアには、幼少の頃から人を遠ざけてしまうある理由があった。そうでなくても、公爵令嬢に近づいてくるのは、権力に強い志向がある輩か、そうでなければ下手を打つまいと遠ざかるかだ。

 ただ、もちろん例外はある。


「そうね、第二王子レオンハルト様や、お兄様の王太子のユリウス様は親しくさせていただいていますわ」


 例外の最たるものは、王家だ。唯一の、公爵家より上位の存在。


「ふーん、さすが公爵令嬢様ね。王子様か……。どんな方たちなの?」


「レオンハルト殿下はとても賢くて優しい方ね。ユリウス殿下は正反対で、武芸に秀でていらして、朗らかで寛大なお方ね。お二人で得意な分野で助け合われるので、王国の未来は明るいわよ」


 エリシアは少し懐疑的な目をした。


「あなたにとってはすてきな方々かもしれないけれど、王子様なんて、平民のことは見下しているのでしょう?」


「そんなことはないわ。お二人は王国の民のことを一番に考えるすばらしい方々よ」


「そう。それは心強いわね」


 そう言いながらも、エリシアは懐疑的な様子を崩そうとしなかった。


「クローデリアはお二人のことが好きなのね」


「……そうね。立派な方々ですから、尊敬しておりますわ。レオンハルト殿下は私の婚約者ですし」


 するとエリシアが嬉しそうに笑みを見せた。


「あら、おもしろそうなお話しじゃない。どういう馴れ初めですの?」


「馴れ初めなんてものはないわ。公爵家と王家どうしが本人たちの意志なんて関係なく決めただけよ。公爵家は王家の後ろ盾で力を強めたくて、王家は実力のある公爵家が反抗しないように人質が欲しいだけ」


「でしたら王太子が相手でもよかったのではないの? なぜ第二王子を選んだの?」


「それを選んだのも私ではないわ。王家が決めたの。王太子はもっと良いお相手のために取っておきたかったんじゃないかしら」


「クローデリアより良いお方なんていらっしゃるわけないじゃない」


 そう言ってエリシアが笑った。


「あら、まだ私たち出会ったばかりなのに、お世辞がお上手ね」


「お世辞じゃないわ。……でもご自分でお相手を決めたのでなければ、レオンハルト殿下のことは愛していらっしゃらないの?」


 クローデリアはその質問に戸惑った。レオンハルトのことを「愛しているか」なんて考えたこともなかった。


「……レオンハルト殿下のことはとても尊敬しているけれど、そういう関係ではないのよ。そうね、尊敬するお友達、ってところかしら」


「あまりおもしろいお話ではないわね。『お友達』くらいにしか思っていない方と婚約されているなんて……。他にはお友達はいらっしゃらないの?」


 一人だけ、公爵令嬢のクローデリアに損得なしの友人と呼べる存在がいた。

 友人と言われて、最初に思い当たったのも、王子たちではなかった。


「思い当たる方がいらっしゃるみたいね」


 期待するようなエリシアの目を見て、クローデリアは観念した。


「そうね……。もう一人いるわ」


「やっぱり! どんな方なの?」


「幼馴染で、レーヴェンハイト公爵家の分家の方よ。……私は子供の頃からあまり好かれるほうではなかったの。でもその方だけは気にせず、接してくれたの」


「あら、公爵令嬢様でも嫌われることなんてあるの?」


 エリシアの言葉にクローデリアは少し気を悪くした。


「高い身分だからこそ、人に敬遠されることも多いのよ。それに……私の魔力(マナ)も嫌われる原因になったの」


「クローデリアも魔法が使えるの? 厄介よね、下手に魔力(マナ)があると……」


 クローデリアは小さく頷いた。


「でもね、あなたのように人から歓迎されるような魔力(マナ)ではないのよ。私の魔力は闇属性だから……」


「闇属性……何だか嫌な響きだわ」


 そう言いながら、エリシアは嬉しそうな顔をした。


「そうよ、小さい頃からこの魔力のせいで、人から気味悪がられたの。公爵令嬢でなければいじめられて……どんな目にあったかもわからないわ。だからもう大人になってからは一切魔法は使わないし、誰にもそのことを明かしたりもしない」


「それがあなたの『秘密』ってわけね……。闇属性魔法ってどんなことができるの?」


「ろくなものじゃないわ。人を呪って魔力や生命力を奪ったり、土地を痩せさせたり、禁忌の闇魔法であれば生き物の死体を生き返らせて操ったりもできるわ」


「え? 人を生き返らせることもできるの?」


「そう思うわよね? 残念だけど無理。理論上、人のように大きくて複雑な生物だと、『死体蘇生(ネクロマンス)』には莫大な魔力が必要だから不可能だし、たとえ生き返らせてもそれが元々のその人と言えるのか……私の魔力で生き返らせられるのはせいぜい蟻くらいの大きさの生き物ね」


「気味が悪いけれど、おもしろいお話ね」


「おもしろくなんてないわ。これのせいでお友達もできなかったのよ」


「それでもお一人いらっしゃるんでしょう? クローデリアの闇属性魔力(マナ)を気味悪がらなかった方が?」


「……そうね、カイ・グレイブ。レーヴェンハイト公爵家の分家のグレイブ男爵家の令息で、現王国騎士団長よ。レーヴェンハイト公爵家に忠実なこともあって家族ぐるみでお付き合いがあってね、よく一緒に遊んでいたわ。子どもどうしだと、身分差も理解せずにいじめてくる子もいたの。エリシアのおかげで助かったけれど、私が重い病を負った原因にも、おそらく、その頃から私を疎ましく思っている女が関わっていると思っているわ。」


「確かにクローデリアを『診断(ダイアグノーシス)』したときに、女の人が見えたわ」


「そんなことまでわかっていたのね。そう、そいつよ。……とにかく私は嫌われて、敬遠されるような存在だったの。……でもね、カイだけはいつも私の味方で、私を守ってくれたわ」


 クローデリアは優しい微笑みを見せた。


「愛しているんですね」


「え?」


 エリシアの唐突な言葉にクローデリアは面食らってしまった。


「クローデリアの本当の秘密はこっちの方だったのね」


「何を言っているの? 愛しているなんて一言も言っていないじゃない」


「いいのよ。私が勝手にそう思っただけよ」


「そんな……」


「楽しそうな人生ですわね。王子様の婚約者と、他に愛する人もいるなんて」


 ——楽しい……? そんなことは思ったこともなかった。平民には平民の悩みがあるように、公爵令嬢にだって悩みは多い。

 それに婚約者と、本当にそばにいて欲しい人が違うというのがどれだけ辛いことか、わからないだろうか。



 こうして秘密を共有し、距離を縮めた二人ではあったが、後に、二人はお互いに明かすことのできないより大きな秘密を抱えることになる。

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