第二話 王妃と聖女
断罪の壇上に立たされる1時間ほど前、クローデリアは王都大聖堂の一室にいた。
そこは「聖女の間」と言われる、聖女の執務室だった。
「どうしたの、クローデリア? 何だかとても慌てているように見えるのだけれど」
クローデリアは髪を乱し、ドレスには泥が跳ねていた。従者もつけず、自らの足でまっすぐ聖教会に来ていたのだった。
「慌てるに決まっているじゃない。レオンハルトが暗殺未遂にあったのよ」
「あら、国王陛下が? それは大ごとね」
「大ごと」と言いながら、エリシアは興味がなさそうだった。
「どういうことなの?」
クローデリアの表情は険しかった。
「何のことかしらね」
エリシアはおどけたように答える。
「とぼけないでよ」
クローデリアの表情はさらに厳しくなっていく。
「ふふふ、冗談よ。そんな怖い顔しないで。すべてうまくいっているわ。心配しないで」
エリシアはイタズラっぽい少女のような笑みを返す。
「私が疑われているのよ。こんなのおかしいじゃない」
「大丈夫だから落ち着いて。あなたは捕まるかもしれない。でも私が助けてあげるわ。それで、すべてが終わるから」
エリシアの言葉にはどこか重みが感じられなかった。まるで夢の世界でうわごとを言う少女のようだった。
「もうすぐ、私と、あなたが、それぞれに本当に欲しかったものが手に入るのよ」
そう言って、エリシアがまた笑みを浮かべた。
クローデリアは背筋に冷たいものが流れるように感じた。
王国中の誰もが認める偉大な聖女のその笑みが、クローデリアには残酷な悪魔の笑みにしか見えなかった。




