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魔王の腹心と厄介な男!  作者: 花より団子よりもお茶が好き。


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【漆】本気の怒り


 ◇◇◇


 十字の柱の上で剣を放ったあと、マハルは地上の様子を窺っていた。

 もうもうと上がる砂と土埃のせいで様子がにわかに分かりづらい。ただあれだけやればさすがに死んだだろうと、そう思っていた。

 だが突然上がったいくつもの衝撃音。それと同時に空高く上がるいくつもの巨大な砂柱。

 一瞬にして辺りが茶色く染まり、視界が悪くなる。


「目眩ましか、小癪な」


 その場から離れようとしたその瞬間、真横に子供ほどの影が現れ、全身に戦慄が走った。

 反射的に身を逸らしたが、空気とも思えぬ〝何か〟が耳をかすめ、背後の森で重い衝撃音が上がる。

 振り返れば巨大な何かで押し潰された風穴が空いていた。


「なんだ!?」


 間髪容れず人影が背後に迫るのを直感し、(かわ)した。

 警戒し先程より大きく距離をとったつもりだが、またしても見えない何かにぶつかる寸前だった。

 辺りを揺らすほど爆ぜるような音。

 振り返ると、樹々が薙ぎ払われたように倒れ、風穴のような大穴が空いている。

 砂塵が再び舞い上がり、マハルの水浅葱の長髪を乱暴に打ち付けた。


 少なくともマハルには覚えのない力だ。

 目に見えない攻撃、まさか風を操るのか、そうとも思ったが、マハルたち風の大陸の民のように自然の力を操るのとはまったく異なる何かだと、それだけは分かった。

 ならば考えたところで無駄だ。たとえ力の源が何か分かったところで、どうとも出来るとは思えない。

 やることは一つ。


「まずは視界に捉える!」


 マハルはシュケルの元へ素早く戻ると、柱を中心に巨大な竜巻をおこし、周囲の森林へと押し広げた。

 茶色く染まる視界が徐々に開け、台風の目のように穏やかな景色が広がる。寂れた大地は竜巻に押し退けられ一層綺麗に掃除された。

 何もなくなったその地上の大地に、何者かが一人佇んでいる。激情に燃える瞳を迷いなく此方へ向けながら。


「……子供か?」


 そうそれは、まだ十代前半の小柄な少年だった。

 肩を露わにした夕陽に染まったような上衣に、風を孕んで揺れる七分丈の黒い下衣。

 足元では、地を踏みしめる布靴のまわりに、わずかに風が立ち、その濡れ羽色の長髪がぶわりと広がる。

 静かに立ち尽くすその姿からは、内に燃え盛る怒りがひたひたと滲み出ていた。


 予想だにしなかった相手にマハルは眉を顰める。てっきりさっきまでいたふざけたパンプキン頭の方だと思っていたのだ。

 だがその子供から得体の知れない何かを感じた。得体の知れない力を……。

 それはその小さな身体からとめどなく溢れ出すように、強大に膨れ上がる何かだ。


「薄気味の悪い」


 マハルが舌打ちをした時、その子供がマハルと同じ高さへゆっくり上がってきた。

 マハルとは違う風ではない何かの力で、それがこの少年が纏う朱色の何かだということだけは分かる。


「おい貴様、よくも二人に手を出してくれたな」


 その声に聞き覚えがある。


「それに分かったぞ、風だけじゃないな。貴様、自然から力を借りてるんだろう。その中で風と仲がいいだけだな」


 信じられないがあのふざけたパンプキン頭の声だ。

 こちらは相手の手の内が分かっていないと言うのに、この子供はこちらを的確に当てて来た。だが……。


「――だったらなんだ」


 それを知ったところでなんになるのだと。


「確かにそうですね。けど……」


 途端に距離を詰められた。


「ちょっとは動揺したろ!」 


 コンマ一秒避けるのが遅れた。目の前に迫った愛嬌のある少年の顔が、高圧的かつ巨大な力の威力で霞む。

 それが先程から森に風穴を開けている攻撃だと、紙一重で逃れてから気付く。

 またも青々とした森林に大穴が空いた。先程とは比べ物にならないほどの巨大な。

 その度に地鳴りが響き、生き物が逃げ惑う。だが穴が空いた箇所には生き物の死骸すら残っていない。

 マハルは自身の肩にかけた藍白(あいじろ)の羽織を見た、その左袖が跡形もなくなっている。


「洒落にならん」


 けれどいったい何をしているのかは分かった。単純にあり余る自身の力を全力に込め、殴りにきているだけ。だが結局それが分かったところでなんになる。

 まともに食らったら確実に死ぬ、それだけだ。


「――よくよく考えてみれば、別に貴様から解毒法を聞き出す必要もない。魔王さまに元に戻して貰えばいいんですよ。シュケルの身体の時間だけを」


 少年は静かに呟きながら、マハルを真っ直ぐ指差した。


「だからお前、生きて帰れると思うなよ」

 


 ◇◇◇



「うーわぁ、あそこにいたら危なかったなぁ」


 ゴツゴツとした砦の螺旋階段から、カボチャとマハルの攻防をカインは観戦していた。


(あそこにいたら、本当に危なかった。カボチャの奴、本気で怒ってる……)


 カボチャがぶちギレて直ぐ、これはマズイと悟ったカインは邪魔だと言われる前にスタコラさっとこちらに逃げていたのだ。

 そして不思議と攻撃が砦まで及ぼうとも砦にはまるで見えない壁でもあるかのように傷一つつかないので、カインも安心して様子を見ていられた。


「さすがにあれには加われないもんな~……ちょっと悔しいけど」


 あそこにいるとカボチャの邪魔になってしまう。


「野獣と魔獣と下級魔族くらいなら俺でもなんとかなるんだけど」


 当たり前のようにカインは言うがこの世界の一般論ではそれもなんとかなるほうがおかしい。


「さて、と……!」


 ゴツゴツとした岩肌に手を置いて、カインは城の(いただき)を見上げる。

 (はりつけ)にされたシュケルがいる十字の柱、そこにもっとも近いのは……。バルコニーらしき所で人影が動いた。


「……行ってみるか」


 カインは螺旋階段の腰壁に飛び乗り駆け出した。

 ひとまとめにした真っ青な長髪が軽やかに跳ねる。

 並外れた身体能力で、ぴょんぴょんと上へ上へと近道をし、あっという間に迫ったバルコニーへ飛び上がる。

 すると揺蕩う波のような紫の髪、褐色の肌には桃色の上衣、丈の短い白の下衣の背中が見えた。あの十字の柱に向かって何やらどでかい岩の小槌を振り上げている。

 カインはその姿のとなりに着地した。


「なにしてんの?」


 耳元で声をかけるとその者は「キャー!」と甲高い声で驚く。持っていた巨大な小槌を落とし、どすんとした音が辺りに響いた。そしてワタワタと腰壁まで距離を取り顔面蒼白に叫ぶ。


「お、お許しください!」


 耳元で声がした事によっぽど驚いたのか、両耳を押さえ半泣きでそんな事を言うのでカインはわたわたと狼狽えた。


「えぇえ、ごごごめん!」


 そこではたと気付く、遠目には分からなかったがどうみても十代後半の女の子だと。それもかなりの美少女。


「うわぁごめん! 驚かせるつもりじゃ!」


 だが聞こえているのかいないのか、彼女は端整な面立ちを哀しげに歪めた。


「違うのです。わたくしはただあの者を解放しようと……このような事態、黙って見ておれませぬ」

「え?」

「あなたはあの者の仲間なのでしょう? わたくしはあの者に危害を加えるつもりはございませぬ。ただ、あのお二人の仲睦まじい姿をこの目に焼き付ければ諦めがつくと……なのに、このような仕打ちとは、あまりに酷うございます」


 黒水晶のように大きな瞳に涙を浮かべ、はらはらと泣き出す美少女。


「せぬ? 酷うございます?」


 あまり馴染みのない口調に話の内容がすんなりと呑み込めない。すると今度は馴染みのあるフフフと微笑する声が聞こえた。


「彼女は私を助けたいのだそうですよ」


 顔を上げれば柱に(はりつけ)にされているシュケルと目があう。いや実際はシュケルは目を閉じているので、合ってはいないが、まぁとにかくそういうことだ。


「シュケル!」

「カイン、よくここまできましたね」

「シュケル大丈夫? いや大丈夫じゃないよな!」


 腰壁まで駆け寄って身を乗り出す。

 隣の彼女はびくりと肩を震わせ、思わず後ずさった。


「フフフ、大丈夫と言えば嘘になりますが、問題はありませんよ」

「えぇ、でも」

「それよりそちらのお方ですが、マハルの世界からきたそうです」

「え、異界から?」


 カインが振り返ると、彼女は身なりを整えその場に膝をつき、三指をつく。


「地の大陸、(おさ)の娘、タージと申しまする」


 そして、申し訳なさそうに言った。


「……マハル様の――――」



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