【拾弐】エピローグ 完結
あれこれあったあの日から数日後、どこぞではお盆と呼ばれる頃に、彼らは菓子折りを持ってやって来た。
「で、なんで僕たちは今、こんな呑気にお茶なんてしてんですか?」
何故かカボチャの部屋で丸テーブル(決して卓袱台ではない)を挟み向かい側には、なんとあのマハルとタージがえへへと笑って隣り合わせに椅子に座っている。
カボチャはジャック・オー・ランタンの被り物の奥から二人へ剣呑な眼差しを送った。
けれどそんなカボチャに「まぁいいじゃないか」とカインが言う。
「せっかく来てくれたんだし、詫びだって言うんだから! このお茶菓子美味しいぞ」
貰ったおそらく砂糖菓子の一種をフォークで刺して美味しそうに頬張るカイン。
なんともフォークが似合わない菓子である。おそらくフォークで食す物ではない。ただ残念な事にこの城にこの茶菓子に合いそうな食器がなかった。
ついでに二人はこの菓子に合うお茶も用意してくれていた。緑の茶葉でなんとも渋い味わいと落ち着く香りがする。
こちらにも似たような茶葉はあるが、どこか違う。
「このお茶もとても風味がいいですね。いつか行った団子屋の茶葉に似ています」
今度はシュケルが言った。菓子よりお茶を好むたちなのでそちらの方が気に入ったらしい。
ちなみにカボチャはお茶はともかく、甘いものが大の苦手だ。自身の両隣にいる二人に「呑気でいいな!」とプンプン怒る。
まるで先日の一件を忘れたかのようだ。
「本当に申し訳ないことをしたと思っている。すまない」
「許していただけるとは思うてはおりませぬ」
マハルとタージはしおらしく頭を下げる。
「いやいやいや、タージは別にいいんですよ。何が悪いってマハルのとんでもビックリなやけくそ言動です。なに考えてんだ君は!」
先日の様子とは打って変わってマハルはしゅんとした様子でカボチャの言葉を受け止めている。意外とこういった素直な面もあるようだ。
「フフフ、カボチャのことはお気にせず。またお二人に会えて私は嬉しいですよ」
だからなんでシュケルがその態度なんだと、せっかく少しだけ和らいだ気持ちが台無しになるカボチャ。
「にしても二人も〝人間〟だなんて驚いたなぁ。こっちの人間には出来ないことばっかりするんだもんな」
「それはわたくしも驚きました。まさかカイン様以外は皆さま魔族と呼ばれる方々だなんて、わたくしどもとなんら変わりなく見えましたゆえ」
これにはカボチャも驚いたが、どうにもマハル達の世界では人間が特別な力を持っていることが当たり前らしい。
ちなみに魔族は存在しないそうだ。
「あのさ、ずっと気になってたんだけど、二人って邪気とか大丈夫なのか?」
そう、このアケドラルと呼ばれる世界では魔族の住む土地には邪気がある。魔族にはなんともないが人間には毒、カインは対策しているが、マハル達はどうなのか。
マハルは少し考えてから「あぁ」とこたえる。
「もしや大気のことか。確かに大気中に妙な淀みがあるが、ワタシは風で淀みのみを払い退け自身全体には澄んだ空気のみ行き渡るようにしている」
「そう言えばわたくしもこちらに来た時から大地が汚染されているのを感じ、常に自分がいる箇所の土壌を中和しておりまする」
「おぉ……なんかよくわかんないけど、二人とも凄いね。それで、結局二人はあの後どうしたんだ?」
カインの言葉に二人は顔をポッと赤らめて、きちんと式を上げ、晴れて夫婦になったと照れながら報告した。
「それはおめでたい。あの小さな少年がこんなに大きくなって結婚の報告までしに来てくれるのですから長生きはするものですね」
そう言うシュケルの言葉にマハルは雲が晴れたようにパァッと顔を明るくした。
そんな二人をよそにカインはタージへ耳打ちする。
「ところでさ……ちょっと相談なんだけど、あの紅い実と黒い実ってまだあったりする?」
「え、ええございますが……」
もちろん気付いたカボチャは顔色を青くして「ちょっと待て」と間に割って入った。
「カイン、いったい何考えてんですか? まさか」
「いやーだってさー、東の三人を思い出すと家族っていいなぁと思うんだよ~」
東のと言うのは東の国の魔王とその伴侶の事である。
既にどちらも早くに亡くなってしまったが、カインとこちらの魔王が恋人なら、あちらはしっかり婚姻を挙げたのだ。しかもその伴侶はあちらの人間の元王である。
その二人には血の繋がらない娘が一人いるのだ。とは言っても歳はカインとさほど変わらないが。
「なんかあの三人の姿を思い出してさー」
カインは両手を頭の後ろに組んで何か思い出すように「憧れるんだよな~」と呑気に言うが、絶対によく考えず思い付きだけで言っている。カボチャはカインの頭をバシンと叩いた。
「イッターー!」
「バッッカ、ただの思い付きでとんでもないこと言ってんじゃあないですよ! 君はそんなことしなくていいんです! 絶対やめろ! タージ、その宝玉の実は一応君のところで大切に扱っているものなんだろ!? なんでそんな安易に持ち歩いてんですか! 絶対にこのバカに渡すなよ!!」
「は、はい!」
「うわなんだよカボチャ! そんなのカボチャが決める事じゃないだろー! 俺が俺に使うならいいじゃんかー!」
「むしろなんで君はそんな積極的になれるんだ! 僕らで我慢しろ!」
ギャーギャーとなんとも騒がしいが、シュケルは香り高い茶の渋みを楽しみながら、どこ吹く風といった様子だった。
ちょうどその時、様子を見に来た男が、シュケルの座る椅子の傍へと近づいてくる。
そう、魔王セオドアだ。
「随分と賑やかだな。外まで響いていたぞ。ついさっきすれ違った者が子供の話に驚いて余を凝視して来た」
魔王とカインの関係は城の者、皆が周知の事実なので仕方がない。
ちなみに先日の件はあのあとシュケルから説明を受けているので、魔王も宝玉の実がなんたるかをしっかり把握しているし、カインは城の者みんなと仲が良いので先日の件は殆どの者に知れ渡っている。
「フフフ、それはそれは、見ての通りですよ」
魔王は片眉を下げ苦笑する。
そしてカインへ今のままのお前がいれば十分だと一言声をかけてやれば「セオドアがそう言うなら」とカインはたちまち意見を変えて、瞳を輝かせた。
それを見てマハルは「私は男であれ女であれ、どちらのタージも愛している」とタージの手をとって伝え「わたくしもどんなマハル様も愛しておりまする」と部屋の空気が一気に甘くなったので、カボチャはげっそりとして「全員、帰ってくれ……」と、呟いたのだった。
「そう言えばカボチャ、そのパンプキンの被り物どうしたの? 壊れなかったっけ?」
「これは……シュケルが予備を持ってたんですよ。たく、これだからアイツは――」
〝厄介な奴〟
【魔王の腹心と厄介な男! 終わり】




