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「亡命です」
「亡命?」
そりゃ知らんよね。治外法権から教えなきゃね。ってなわけで、領事館は、その土地だけが日本ではなくなる、つまり領事館を管理する国を、国内に作ることと一緒。だから、領事館に殴り込みかけるってことは、その国と戦争を起こすことと同義。国対国の戦争となる。当然国際法的に認められている権利。日本もアメリカに置きたければ置ける。だからこその国交。そして、亡命とは自国を捨てて、他国に助けを求める行為。受け入れた国の国民になるから助けて、とお願いすること。ま、言ってみれば脱藩浪士が他藩に仕官すること、って言ったら理解してくれた。
「その心は、日本が我々の知を切り捨てる判断をしたら、我々も日本を捨てるということです」
「そんなの、尚のこと横浜に置くわけにはいかんだろ?」
「なぜです?勝様は我々を最後切り捨てるおつもりで?」
「いや、そんなことはせん。せんが、そんな大事な施設、江戸に」
「おけますか?江戸にそんな土地が余ってますか?庶民をどけますか?そんな反感を煽るようなことをするんですか?そして、誰か領事と話をまとめられるんですか?勝様がやりますか?」
沈黙久しぶり。でもここは一気に。
「私は幕府内の革新派と呼べる方は勝様しか知りません。それはそれで構いません。幕府にとって、ここに領事館をおくのはまずい、江戸もまずい、下田もできればやめて欲しい。ではどこに?そんなことで時間を浪費するおつもりですか?相手は幕府の都合など関係ない。世界の法を無視して、自分たちの都合を優先させようとするのは幕府。一方で日本という国にとって、領事館は必要不可欠。遠くの国が隣人になるわけですから。彼らの持つ知を学び、盗み、自らのものにする。その考えがあるからこその、洋書調所でしょう?日本と幕府なら日本を取る。私の選択の基準はそこです」
「確かに決めきれんだろうな。今まで決めたことがないことを」
「もう少し、視点を変えたお話を。彼らの立場で考えてみてください。すでにここは、自分たちの言葉が多少でも通じる場所と認知しているはず。ここが基準になった。別の場所を与えるならば、ここを超える満足を与えぬ限りは『なぜ?』とか『軽んじられてる』と思うことでしょう。それだけで失礼になる、そういう視点で相手のことを考えられると思いますか?配慮されることはあっても、配慮などしたことないであろう立場の方々が。金を使うことだけではない、そういう機微に気を配ってこそ、本当の意味のもてなしと言えるのでは?」
「…オマエは話す毎に、毒が増えているのはワザとか?」
「決してワザとでは御座いませんが、勝様の背後に、私が好きでなさそうな方々が数多いることが原因かと」
「オマエから聞いた話を老中の…」
「待って待って待って、具体的な名前は聞きたくありません。良いんです。私の話は子供の妄想です。手柄は勝様と箕作様で勝手にして下さい!私はただの内弟子で居候の半人前です!」
さっ、あとはアメリカ側の通訳さんと打ち合わせ。細かいことまできちんと伝えるだけの英語力はない。そして、江戸城は阿鼻叫喚になれば良い。自分たちの発言が如何にズレまくってるのか体験してないから分かんねーんだ。やれるもんならやってみろ。どれくらい持つかな。1ヶ月くらいは頑張れるかな?
そっから急いでアメリカ側との折衝。茶番に付き合ってくれ、江戸の方に向けて空砲打ってくれ、漁師の邪魔はしないように、でも毎日江戸城に近付いて姿だけは出してくれ。空砲は5日に1回、次は4日に1回ってカウントダウンしてくれ。そうだ、ついでにここのメンバーの希望者に、動力部を見せてやってくれないか?機密情報を見せろではない。そこは隠してくれて構わない。実際にどうやって船を動かしてるのか、それを見せてやって欲しい。食事に関しては、必要な材料あったら言ってくれれば、何とか手配するように可能な限り頑張る。肉も必要量を事前に言ってくれ。今回の来日の目的は、①領事として派遣され、②細かい所の打ち合わせして条約を結び、③公使になるのがゴールでしょ?。基本的に国際法に準じた形なら異論はない。細部をさっさと詰めたければ、先にそれをこっちで協議しても良いよ。どうせ最後には我々に丸投げしてくるだけだから。くだらないことにあなた方を付き合わせてしまう分、こちらとしてはペリーみたいにおかしな要求をして来なければ、基本的にOKだと思ってくれて構わない。なんなら先に詰めちゃって、領事館から公使館にアップグレードさせるのも面倒でしょ?はじめから公使館前提で作っちゃう?
2回目の来日で名前を覚えた、通訳のヒュースケンさんが一つ一つ説明。英語でそうやって説明するのね。なるほど。箕作様、ジョンさん他聞いてる人たち、そんな青い顔してちゃダメだよ。あなたたちにはもっと大事な「幕府のピンチに駆け付けるヒーロー」を演じてもらう必要があるんだから。何事もハッタリが必要だよ?どうせ横で偉そうに聞いてる連中、実際になんて言ってるかなんて分かりゃしない。




