2-25
『少しずれちゃったな。当てたいからさ、2発目撃つわ。ちょっと待って』
『待て待て待て、待ってくれ。撃つな。壊されたら堪らん』
『さっき好きに撃てって言っただろ?次は当てるから見ててくれよ』
『待てって。撃たないでくれ。撃たないで下さい。お願いします』
『大体お前舐めすぎなんだよ。全てを自分のペースで進めようとしやがって。子供じゃねーんだからまともな交渉しろよ』
さっ、今日はこれでお開き。次は勝様に迫らないと。
「どんどん話を勝手に進めるな、バカモン!」叱られてゲンコツ。
でも、撃って良いって言質取った上で撃ってるよ。挑発はしたけど。向こうの通訳さん、律儀に俺の発言も含めて、事の成り行きを説明してくれてた。だから調所メンバーは誰も怒ってない。そんなこと言ってもしょうがないんだけどさ。
今後の流れの打ち合わせ。みんな目先のことだけで色々と話出す。話を振られたので、もっと大局的に考えよう、と促す。
世界情勢から鑑みるとオランダだけに絞るのは無理がある。これを機に開国した方が、日本のためになる。メンバーも首を縦に振る。
でも、長崎だけだとすぐにパンクする。キャパが足りない。開港はすべき。それこそ下田、松前か蝦夷のどっか、あとは大阪あたりが候補になるのでは?メンバー考え込む。
あの手のバカは何の手柄もなく帰すと、次に何をしてくるかを読めないので、多少の手柄を持たせてやる必要がある。最小の傷で最大の利益をもたらす方法を考える必要がある。メンバー首傾げる。
蝦夷の実効支配も済んでいない状況、樺太あたりはくれてやっても良いのでは?あそこはロシアと日本、両方の領土問題を将来生む可能性がある。あそこがアメリカ領土になれば、ロシアと直接揉めることが少なくなる。緩衝材に使ってやれ。メンバー???
アメリカは寄港地が欲しいだけ。自力で寄港地を樺太に作らせて、自由に支配させれば良い。国交があるなら、将来日本も使える可能性がある。そもそもこっちから出るためもあって造船させてるんでしょ?メンバー口あんぐり。
友さんだけ拍手してくれる。良いさ、友さんだけでも理解してくれれば。最後勝様に確認。
「勝様、確認です。勝様は日本のためにと先日仰った。覚えてらっしゃいますよね?」
「あぁ。確かにそう言った」
「話をややこしくしてるのは、むしろこちら側なんです。理解されてますか?」
「どういうことだ?」
「開国は日本のためになる。それは調所の皆がそう考えています。何せ蘭語で書かれたものの方が勉強になる、と考えた方たちの集まりですから。逆から見ると、日本古来のものから学べるものが少ない。そういう見方も出来るんです。お分かり頂けますか?」
「言いたいことは分かる。だが、それの何がややこしくしているんだ?」
「幕府です。今だに開国と攘夷と揺れている。何も決められずに。そして、きっと今後も何も決められずに。大体攘夷というならば、日本古来からあるものを大事にと言うならば、奈良時代に入って来た仏教はどうなんですか?それも否定しなければおかしい。国のためになることと、幕府のためになること。これが等しくないからこそややこしいんです」
あーぁ、言っちゃった。俺が常々抱えていた「攘夷」という言葉の矛盾、口にするまいと思ってた矛盾を思わず。
「私の意見は、開国こそ日本のためになる。幕府のためになるかどうかは知りません。私は幕府と無関係ですので。ただの内田様の内弟子です」
内田様ごめんなさい、こんな時だけ内田様の名前を利用して。
沈黙が続く。そりゃそうだよね。みんな気付かないように、言わないようにしてた所を言語化しちゃったんだし。この沈黙を破ったのは、意外と言っては失礼だけど、杉先生だった。
「勝様、よろしいでしょうか?」
「杉殿か、どうした?」
「藤二の話は常に突拍子もないものです。ですが、藤二が日本のために動こうとしてるのは間違いありません。仮にこの話が不敬だとおっしゃるのであれば、私は藤二と一緒にオランダへ向かおうかと考えます。藤二は実際にカピタンに出国を誘われて、それを国のためになるなら、と断っております」
なんで知ってんの?しかも俺がするみたいなハッタリ。国のためなんて一言も言ってない。
「藤二は私欲で動いてはおりません。常に効率を重視しています。ですが、本当に効率を自分のためのみに使うのであれば、すでにオランダへ行っております。いささか不自由な身分の差などない、自由な環境を求めて。そしてその方がより効率的だということも理解している。でも断った。それはなぜか。勝様や内田様、箕作様、小野様、ほか皆々様への恩義です。そのために、今この場におるのです。勝様がここにおらねば、藤二もここにおりません。藤二がここにいなければ、あの交渉はペリーの好きにされておりました。相違ありますか?」
やばい、泣きそう。
「藤二が出国するならワシも一緒に出国するかな。幸いにしてここにおる面々は皆、オランダ語はもう習得しておる。確かに世界の常識を教わって、改めて自分のいる環境を考えると不思議な状況だと思わずにはいられんかった。藤二、出国するなら声かけろよ。勝手にいなくなるなよ」
友さんまで、、、
泣いた。。。




