2-21
side 杉亨二&カピタン
『おい、杉、あれがお前が言っていた子供か?』
「はい、だから言ったでしょ?よく分からん子供だって」
『アイツおかしいぞ?あんなバランス感覚、商人でもなかなかいないぞ」
「どういうこと?」
『アイツは商人の息子か?』
「いや、身分の低い武士の子だと聞いた」
『杉、お前とは長い付き合いになりそうだから、あえて言っておく。お前らの国の武士の考え方がそもそもおかしいんだ。俺たち商人にとって、武士は武士、上も下もない。だがお前たちはそれを当たり前だと思ってる。そこでまず認識がズレてる。次にアイツは、商人が何で動くかをきちんと理解してる。武士は偉そうだ。俺たちには関係ないけどな。形だけ「へへー」って意味分からずやってるけどな。それだけしてりゃアイツら儲けさせてくれるし』
「まだ意味が分からない」
『だろ?それがお前らの普通なんだ。でもアイツは違う。こちらが何のためにわざわざ日本まで来てるのかを理解してる。無駄に偉そうに指示しない。自分が求めることを提示、相手が欲するものを提示、その上で自分たちの利益を大きくしようとするのが商人だ。だから俺らは出島で商人相手の方が、まだやりやすいんだ』
「藤二の提示したものはそれに見合うと判断したのか?」
『少なくとも俺はそう判断した。そして、アイツもそう判断した。だから、取引成立だ』
「そのバランス感覚というものは、商人なら皆持っているもんなのか?」
『いや、この国にはほとんど居ないな。だから俺らも、ある程度決まったもん持って来て、決まったもん買って帰る。大体あの数独な、あれは売れるぞ。どの国でも売れる。数独もこの数学書も、お前らの国にこんなもんがあるなんて知らなかったぞ。もっと早く持ってこいって言ったけど、長崎の商人知らないしな。お前だけなんだよ、持って来るヤツ』
「言ってなかったか?これらの発案はアイツだぞ」
『何?マジか?早く言えよ。おい、杉。アイツ俺の部下にしたい。連れて帰って良いか?』
「いやいやダメだ。アイツはまだ俺たちのグループに必要だ。それにまだ子供だ」
『あんな子供いるわけないだろ?でもちょんまげしてなかったな。本当に子供なのか?それで杉はアイツとどういう関係なんだ?』
「確か今、12歳とか13歳とか、そのくらいのはずだ。俺がアイツにオランダ語を教えてやったんだ」
『信じられん。アイツが居れば、もしかしたらこの国でもうひと稼ぎ出来るかもしれない。本国に帰るのを少し遅らせようか、アイツを連れて行く方が儲けられるか、この国に置いて繋がりを維持した方が儲かるか。アイツが欲しがるものは何か考えねーとな』
「もう少しゆっくり話してくれないか。上手く聞き取れない」
『気にすんな、兄弟。仲良くやろーぜ』
「どうした?急に」
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うーん、「対等」という認識を持たせることがこんなに困難だと思ってなかった。どれだけ言葉を尽くしても、いまいち響かない。それでもここの人たちは理解してくれようとしてくれるだけありがたいし、だからこそ応えたいんだけど。
そもそもが、この国の他国に対する認識が間違いすぎてるんだ。清、つまり中国こそが大国。その中国に認められてる日本は素晴らしい。ほかの国は相手してやってる。オランダも商売させてやってる。これがこの国の普通の感覚。藩同士でもそう。上か下か。そして、自分たちが唯一上に見ている清がアヘン漬けにされた事実を知って、急に海外の脅威が目の前にあると怯え始めてる。実際にはまだ晒されてなかったのに、良いタイミングでアメリカが黒船で現れて、てんやわんや。その結果が迎合か。あり得る流れ。
難しいな。感覚の矯正って、自分は「普通」だと思ってる人ほど難しい。自分が偏ってるかもしれないって思ってる人の方が真摯に聞ける。友さんはドライだから、偏るとか何とか関係ない人だから、偏りというよりは流れに身を任せるって方が正しいし。
ん?友さん?そうだ、関流と最上流だ。友さん視点からすればどっちもフラットに見えるはず。どっちが上かをやってるのは、当人たちだけ。これだ。内田様にはめっちゃ怒られそうだけど。内弟子の立場でこんな発言しちゃって良いのか分からんけど。ひとまず、友さんに相談してみよう。




