2-12
「お久しぶりです、勝様」
「昨年末以来だな。噂は色んな方面から聞いていたから、久しぶりな気はせんがな」
「色んな方面?あっ、その前にどんな話し方をすれば良いのか分かりません。まずかったら指摘してください。直す努力はします」
「構わん。ここは他に誰もおらんし、ましてお主は内田殿の内弟子。ワシがどうもこうもできんわ」
「ありがとうございます。ところで、色んな方面とは?」
「箕作殿、内田殿、あとは義弟だな」
「義弟?調所に勝様の義弟がおられるのですか?」
「調所ではない。佐久間だ。ワシの妹があれの妻なんだ」
「それは何と言っていいものやら」
「用もないのに来るなと言っているのだがな、土足で入ってくるようなヤツだからな。で、アイツからも箕作殿からも聞いてるから、隠さずとも良い。アイツの塾を上手いこと利用したな」
「そうですね。調所の方々には、先ずは自身の研究に没頭してもらいたい。その上でその考えを理解できる補佐として、半端な人間では務まらない。蘭書を読める、知に飢えている、その上でいちいち吠えて議論を停滞させるようなことは、邪魔でしかない。それを佐久間様が育ててくれるから、そこから貰った方がこちらもラクです」
「それもお主の言う『効率』なんじゃな」
「はい、その通りです。謀らずも佐久間様に弁論を叩き込んでいただいたおかげで、私の手間が格段に減りました」
「そして、そのお前が何やら他にやりたいことがあると」
「はい。知を金にしたいと考えております」
「ここで『武士が』などと吠えると、お主はワシを見限って、他の方法を考えるのであろう」
「よくお分かりで」
「世辞は良い。早く理由を申せ」
「理由は単純、調所を守るためです」
「守る?また不思議なことを」
「何も不思議ではございません。研究には金が掛かります。実験には金がかかります。事実、今まで買った蘭書、各藩から買い付けた蘭書、それらの出費だけでもとんでもない額になりましょう」
「そうじゃな。藩からの買い付けだけでも、相当掛かっておるな」
「おそらくその金は、調所を作る費用の一環として計上されたのでは?」
「そこまで見ているか。それで?」
「まずは、その買い付けた金を取り返しましょう」
「取り返す?どういうことだ?」
「これを使います」
取り出したるはニュートンの◯りかご。玉の数は9個。9個まで上手くできた。生産の目処も立ってる。
「ワシの手元にあるのは五つだぞ。九つのもできたのか」
「はい、職人技は凄いです。まず、勝様にこちらの名付けをお願いしたい。私も考えましたが決めきれず」
「どんな名を考えた?」
「『開智珠』と『連理玉』で迷っております」
「『開智珠』と『連理玉』か。どちらも捨てがたい。だが、調所が絡んでいることを考慮するなら、『連理玉』の方がワシは好きじゃな」
「ではそれで」
「そんな簡単に決めて良いのか?」
「良いのです(ニュートンのゆりか◯って名前使えないんだから)。しょせん名前など記号でしかないので」
「して、この連理玉をどう使うんだ?これを藩に売るというのだろうが」
「その通りです。ですが、売り方が想像と違うかと」
「売り方?」
ここまで来れば問題なし。あとは案を提示するのみ。前回在庫を吐き出した藩のみを誘い、連理玉を売りつける。蘭書の解読の成果とでも言っておけば良い。勝様が5つのしか持ってないことこそ重要。ポイントは希少性と面子。5つのを10両、7つのを20両、9つのを30両とし、他の方の手前、5つ、7つを選ぶ人はきっと出ない。買った人は何するか。絶対に自慢する。蘭書を売ったら買えた。その事実しか残らない。いくらで売って、いくらで買ったかは面子があるから言わない。そのうち連理玉を売ってくれと勝様のところに連絡が来るだろう。声が掛かって2ヶ月後、再度蘭書の買い付けの声を掛ければ良い。2回目は1割引きの買取りで、販売価格は1割増。なお、現時点での利益は5つので8割。9つのだと9割超え。勝様の手腕だけでそれだけの利益が得られます。ここまで一気に捲し立てた。
「それで得た利益をどう使う?」
「必ずや来る、膨大な資金が必要となる実験に使います」
「必ず?なぜ言い切れる?」
「小野様に砲術の研究を命じてるのは勝様ですよね?あれだけでも、いざ実験が始まったら莫大な資金が必要となります。砲筒から弾から火薬から。使える目処が立てば、潤沢に資金も用意されるでしょう。ですが、失敗の可能性に対してそれはないでしょう。それに勝様自身が仰ったではありませんか」
「ワシが?何を?」
「個人としては研究が必要だと考えている、と。それはつまり、『完璧な計算さえできれば理想的な計算通りの砲術が可能だと考える、頭の中がお花畑な現実を知らない阿呆が勝様の周りにいる』ということですよね?ま、この阿呆が『特定の誰か』なのか、それとも『組織』なのかは分かりませんが」
さあ、どう出る?




