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守旧派は金で殺す、攘夷派は理で殺す。――幕末に転生した効率厨サラリーマン、内戦はコスパが悪いので和算と裏金で歴史を書き換える  作者: 関沢賢吉


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2-09

 「藤二、俺が呼ばれた理由は?おおよそ理解は出来てるが」


 「杉先生は、その予想で当たってます。問いの訳と、我々の解法の蘭語の確認です。そして杉先生には、もう一つ、お願いしたいことがあります。これです」


 取り出したのは関流印の数独。


 「この一番最初の『解き方』の部分だけ訳して頂きたいです。問題は内田様の所にいくらでもある。数字の表記を漢字から変えるだけで、いくらでも量産可能」


 「しかし、そんなのが売れるのか?」


 「内田様、現在関流として商売が成り立っているのに、それは愚問では?」


 「いや、しかしな、江戸だけではないのか?」


 「杉先生、どう思われます?出島にいるオランダ人、娯楽に飢えてませんか?」


 「確かにな、暇さえあれば絵と数の書かれた札で遊んでおるな」


 「ですよね?数字は万国共通、洋の東西を問わず、そして、暇つぶしに最適ではありませんか。とはいえ、不安もあることでしょう。和算本をニ冊、一冊は手元に。数独は十冊作り終えたら杉先生、一度長崎に帰省しませんか?その折に、通詞に一冊数独を、そしてオランダ人にも数独を見せて下さい。場合によっては残り全部を贈り物として渡しても良い。本国にこれから帰ろうとするオランダ人ならなお良い。そのオランダ人に、和算本を『数学者に渡せ』と言付けましょう。いや、その言付けを守ってくれそうな人にこそ、贈り物として渡しましょうか」













 久々だな、この沈黙。


 「そもそもだが、そんなもの欲しがるのか?」


 真っ当な意見ですね。


 「やってみなけりゃ分かりません。ですが、少なくともやる価値はあるかと思いますよ。大体神主の爺様だって、商売になるなんて思って算額にしてないでしょう。ただの興味本位です。それと一緒です。それにですね、そもそも向こうから安くない金額で書を買ってるんです。こっちが売って悪いもんですか」














 また黙っちゃった。そして、この沈黙を破ってくれたのは、またしても友さんだった。


 「内田殿、観念しなされ。そもそもは内田殿が拾って来たんです。幸い我々にとってはそこまで大した手間でもないでしょう。一番大変なのは杉殿ですし。それとも今からでも、ワシが引き取りましょうか?」


 相変わらず俺の扱い、雑すぎないか?自分で否定しきれないのが辛いけど。


 「内田様、やりましょう。コイツがこうなったら動くしかないの、内田様が一番知っておられるじゃないですか。私など、勝手に帰省の予定組まれてるんですよ。それに比べれば」


 「確かにな、杉殿にもそう言われたら、もう何も言えんわ」


 儲けたければ広いマーケットをまず狙う。これ基本。幸いここの知を利用すれば、オランダをターゲットに出来る。対オランダでノウハウ積めば、将来他言語にも活かせる。来るかもしれない英語にも。やる前から負ける事考えるヤツいるかみたいな事、昭和の人気プロレスラーが言ってたっけ。その心境だよ。


 新しい事に敏感な人たち、いつの間にか関流チーム、最上流チーム、洋算チーム、翻訳チームに別れてあっという間に完成。集合知がここでも発揮。5倍どころの話じゃない。何でこんなにテンション高いのか、改めて考えてみれば当然といえば当然。今まで受け身だけだったものに対して、今回は能動的に出すという初の試みだもん。これも一種の実験。


 完成すると半ば追い立てられるように、杉先生は長崎へと出発。ついでに、俺も日野に帰省することとなった。府中の宿を探さなくて良かったね。ってなわけで勝手知ったる境内へ。爺様いたいた。また泊めてね、今日は2人。やっぱり少し気が緩んだのか、さっさと眠りに落ちた。


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side 杉亨二&神主の爺様


 「神主様は藤二とは長いんですか?」


 「その質問が来るということは、だいぶ小僧に振り回されているのかね?」


 「はい、相当に。今でこそ慣れましたが、長崎から江戸に来たことを後悔するくらいには振り回されました」


 「はっはっはっ、何も知らんのに想像がつくのがなんとも不思議じゃな」


 「そもそも何をどうしたらああなるんでしょうか?」


 「杉殿、それは藤二に限らず、誰のこともわからぬよ。ただな、アヤツの本質はずっと変わらん。アヤツはずっと『美』だけを求め続けておるよ。ただ、その『美』がどこに反映されるかが違うだけなんじゃと思うぞ」


 「確かに『美しい』をよく言っておりますね。問題はその『美』を理解できる人間が少ないことなんですよ」


 「ほう、ついに『美』を共有出来る人を見つけたか。それは何より。ある意味、アヤツは孤独だったからな。本当に良かった」


 「そう言われると、そのお人もまた孤独だったのかもしれません。目に見えぬ絆のようなものが二人の間にあるのかのように感じることがあります。私の師匠も内田様も、笑うのを初めて見たと言っておりましたので」


 「その出会いがあったことだけでも、江戸に連れて行かれて良かったもんだ。あれは異質すぎる。下手に型に嵌めたとて、小さくまとまるのが関の山。杉殿のような理解者にも巡り会えたしな」


 「いえいえ、私など。ただ、次から次へと藤二の思いつきに振り回されてるばっかりで」


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