2-06
杉先生から思考を質問された。最近、質問の質が変わってきてる。有り体に言えば、5W1Hを意識した質問、とでも言うんだろうか。何らかの意図があるんだろう。正直に答える。ただ、前提条件がズレてるんだ。与えられた仕事の目処が立ったことだし、気分が良い。そこから修正しようか。
「杉先生、まず、私の前提条件からお話しますね。お気付きだと思いますが、私は効率を大事にしております。私の行動原理は全て『最小努力最大効果』です。そのために欠かせないのが、効率なのです」
「なに?効率が先ではないのか?」
「いえ、効率は手段であり、目的ではないのです」
「では、生徒の募集方法から、思考を教えてくれないか?」
「分かりました」
欲しい生徒を考えると質が大事。どっかの藩からの推薦などもってのほか。かと言って、一人で試験、面接は非効率。まず、調所は研究機関であり、教育機関ではない。欲しい人材は今いる方々の手足になれることが最低条件。今いる方々は効率の効果を肌で感じているはず。そのスピードについて来れる。そのためには、いちいち吠えられていたら非効率この上ない。と言うことは、ある程度議論が成り立つ人でないといけない。だからこそ、先の3条件は譲れない。
その上でたまたま杉先生に誘われて見に行った。もともと、どこか試験と面接をしてくれる所なんて、そんな都合の良い場所ないかな?と思ってたら、あったんです。佐久間氏に弟子入りするための蘭学の知識、弁論を学ぼうとする貪欲さ、弁論を身に付ける向学心。あとは、あの流れですよ。自分の効率と調所の全体の効率、両方を考えた時に、あれが最適と判断したんです。一度そのルートを作ると、今度は個別対応しなくても良いようになります。入りたければ、まずは佐久間氏に認められろ、話はそれからだ、と。
「効率は手段、か」
そう言って黙ってしまった。調所へ戻る道中、今日のことは俺から報告しておくから、お前は先に帰って良いぞ、と言われたので甘えさせてもらう。たまには良いよね。
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side 杉亨二
恐ろしい。間違いなく即興。そして即断。求める人材の基準から考えている。どういう能力を持っているのか。確かにその見極めは困難だ。だからこそ、弟子入りしたい者が自らの知を証明し、かなうかどうかを判断されるのが常。完全に見方が逆。一人一人を相手してたら、本の整理ほどでないにせよ、時間を取られる。しかも藤二は、調所にとっての効率も思考に入れている。
でも収穫もあった。まさか、アイツの考える効率が、手段でしかないとは。確かに蘭学の学び方もそう考えると、より正確に理解できる。最小努力最大効果か。間違いなく知に生きる者の考え方ではない。探求することをやめられない、ある種、知に取り憑かれた人間こそが持つ狂気のようなものを感じたことがない。そのくせ、人の欲しいものへの嗅覚は完璧。そこは調所にいる先生方も気付いてる。藤二に言ってどうにかならんものは、どうにもならん。それよりも別の調べ物をした方が効果的。そのような判断が無言のうちにできている。
アイツが欲しがった人材は、本来誰一人いなかったはず。それを弁論塾という場を利用することで、急に母数が出来上がった。弁論塾を経ることでその人材になるというなら、今以上にあそこは人が集まることになる。欲しいものを一本釣り。これ以上なく効率的。しかも、藤二は手を動かさない。普通に佐久間殿に依頼するよりも、よっぽど能力が高い人間が。
とりあえずは、今日あったことを箕作様に伝えねば。場合によっては、実験や教本作りの手伝いになり得る人材が集まりそうだ。
ところで、俺の立ち位置は今だに分からん。時に内弟子、時に小間使い、時に学者たちと藤二の橋渡し。藤二以上に立ち位置がはっきりしていない。
案の定、箕作様は最初、あまりいい顔を見せなかった。それはそうだろう。間者なのを知っていて引き入れるなんて、誰が聞いてもおかしな話だ。藤二が求めた三条件、藤二の思考、藤二の行動原理と効率、本人から聞いたことを全て、細大漏らさず伝える。
「効率は手段、か」
奇しくも同じ言葉だった。やっぱりそこが引っ掛かるよな。
「アイツへの興味はまだまだ尽きそうもないな、杉」
「ええ、困ったもんです」
「しかし、改めて凄い奴だな。我々はどうしたら効率が良いかとは考えても、効率を考えねば動かない、そんな発想にはどうしても至らん。最小努力最大効果。効率よく物事を進めて当たり前、その上で、より効果的な方法を模索する。視点が違うな」
「はい。ですがだからこそ、アイツが知を求める者とは違うということにも気づけました。寝食を忘れるほどのめり込む、そういった態度が全く見られない。知の前に、効率云々考える者などおりますまい」
「そうだな。まだアイツの観察に勤しむか?」
「出来ればそうさせていただきたく。あの病的なまでに効率を追う姿勢、それを見ていると何かが掴めそうな気がしております」
「分かった。でも、自分の追いたい知が見つかったら言えよ」
「かしこまりました」




